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ステンレス溶接後の酸洗いとパッシベーションの必要性

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ステンレス鋼は、その高い耐食性と美しい外観から、建築、食品、化学、医療など多くの分野で使用されています。しかし、溶接を行った後は、表面の保護膜である「不動態皮膜」が損なわれ、腐食が進行しやすくなります。そのため、溶接後には「酸洗い」と「パッシベーション(不動態化処理)」という仕上げ工程が重要になります。本記事では、それぞれの処理の目的と手順、そしてその必要性についてわかりやすく解説します。

ステンレスの耐食性を支える「不動態皮膜」とは

不動態皮膜の役割

ステンレスが「錆びにくい」と言われる理由は、表面に形成される「不動態皮膜(ふどうたいひまく)」にあります。これは、クロムを主成分とする酸化膜で、厚さはわずか数ナノメートルしかありません。この皮膜が空気中の酸素と反応して自己修復し、鉄の酸化を防いでいます。

不動態皮膜が破壊される原因

溶接時には高温による酸化やスパッタ、スケールの発生が起こり、不動態皮膜が損傷します。また、研磨や切削などの機械加工でも、皮膜が部分的に削り取られることがあります。この状態を放置すると、鉄分が露出して錆の発生源となり、特に塩分や湿気の多い環境では腐食が進みやすくなります。

溶接後のステンレスに必要な後処理とは

溶接後のステンレスには、以下のような処理が行われます。

  1. 酸洗い:熱酸化被膜やスケール、鉄汚染などを除去する工程
  2. パッシベーション処理:酸洗い後の清浄な表面に、不動態皮膜を再形成する工程

この2つの工程を適切に行うことで、ステンレス本来の耐食性を取り戻すことができます。

酸洗いとは何か

酸洗いの目的

酸洗いとは、ステンレス表面に付着した酸化スケールや焼け、溶接時の熱変色、鉄粉などを除去するための化学処理です。ステンレスの表面に残った酸化物や異物を取り除くことで、金属表面を均一で清浄な状態に戻し、パッシベーション処理の効果を高めます。

酸洗いで使用される薬品

一般的に、酸洗いには以下の薬品が使用されます。

  • 硝酸(HNO₃)
  • フッ酸(HF)
  • 混酸(硝酸+フッ酸)

硝酸は金属表面を酸化させて保護膜を形成する作用があり、フッ酸は酸化皮膜を溶解して除去する作用を持ちます。両者を適切に組み合わせることで、表面の汚れを効果的に除去できます。

酸洗いの方法

酸洗いにはいくつかの方法があります。対象物の形状やサイズ、汚れの程度によって選択されます。

浸漬酸洗い

小型の部品や均一な形状のものは、酸洗い液に一定時間浸けて処理します。全体を均一に処理できるため、最も一般的な方法です。

スプレー酸洗い

大型構造物や配管など、浸漬できないものに適用します。専用のスプレーで酸洗い液を噴霧し、一定時間反応させた後に水で洗い流します。

ペースト酸洗い

部分的な酸洗いに用いられます。酸洗いペーストをブラシやヘラで塗布し、一定時間放置した後に水洗します。溶接焼け部分などの局部処理に適しています。

酸洗い時の注意点

酸洗いは非常に強い酸を使用するため、安全管理が重要です。防護具(手袋、ゴーグル、防酸マスクなど)の着用が必須です。また、酸洗い後は必ず十分に水洗し、残留酸を完全に除去することが大切です。残酸が残ると、後の腐食や変色の原因になります。

パッシベーション(不動態化処理)とは

パッシベーションの目的

酸洗いによって表面の酸化皮膜や汚れを取り除くと、ステンレス表面は一時的に活性化され、鉄が露出した状態になります。そのまま放置すると、再び酸化が進んで腐食が発生する可能性があります。
このため、酸洗い後には「パッシベーション処理」を行い、不動態皮膜を再形成させる必要があります。

パッシベーションの仕組み

パッシベーションでは、硝酸やクエン酸などの酸化性溶液にステンレスを一定時間浸漬させます。これにより、ステンレス表面のクロムが酸化し、再びクロム酸化膜(Cr₂O₃)が形成されます。この皮膜は非常に薄くても緻密であり、外部からの酸素や水分の侵入を防ぎ、耐食性を回復させます。

パッシベーションに使用される薬品

主に使用されるのは以下の薬品です。

  • 硝酸(HNO₃):古くから使用されている代表的な処理剤。処理効果が高いが、取り扱いには注意が必要。
  • クエン酸(C₆H₈O₇):環境負荷が少なく、安全性の高い代替薬品として普及が進んでいる。食品関連分野などで好まれる。

パッシベーション処理の方法

一般的な処理条件は以下の通りです。

  • 硝酸法:濃度20〜30%、温度50〜60℃、処理時間30〜60分
  • クエン酸法:濃度5〜10%、温度40〜70℃、処理時間1〜2時間

処理後は、十分な水洗と乾燥を行い、表面を清浄に保ちます。

酸洗いとパッシベーションを怠るとどうなるか

溶接後の酸洗いやパッシベーションを行わない場合、以下のような問題が発生します。

  • 溶接焼け部の腐食:熱によって皮膜が破壊された部分から錆が発生する。
  • 粒界腐食の進行:不動態皮膜がないと、クロム欠乏層が腐食の起点となる。
  • 外観不良:茶褐色や青色の変色が残り、美観が損なわれる。
  • 衛生面の問題:食品設備や医療機器では、表面の微細な汚れや腐食が衛生リスクとなる。

このように、後処理を省略することは、ステンレスの本来の性能を著しく低下させることになります。

酸洗いとパッシベーションを組み合わせる理由

酸洗いだけでは、表面の汚れを除去できても、不動態皮膜の再生までは行えません。一方、酸洗いをせずにパッシベーションを行っても、酸化皮膜や汚染物が残っていると効果が不十分になります。
したがって、「酸洗い → 水洗い → パッシベーション → 水洗い → 乾燥」という工程を順に行うことが重要です。この一連の処理によって、ステンレスは再び高い耐食性と清浄な外観を取り戻します。

処理後の確認と保守

処理後には、外観だけでなく、腐食試験や表面分析などで不動態皮膜の形成状態を確認することが望ましいです。また、使用環境によっては、定期的な再処理や洗浄も必要になります。特に塩分や酸性ガスが存在する環境では、不動態皮膜の劣化が早まることがあります。

まとめ

ステンレス溶接後の酸洗いとパッシベーションは、単なる「表面仕上げ」ではなく、材料本来の耐食性能を維持するための不可欠な工程です。
溶接で損なわれた不動態皮膜を回復させることで、錆や腐食の発生を防ぎ、長期的に安定した品質を保つことができます。特に食品機器や医療機器、化学装置のように高い清浄性が求められる分野では、これらの処理を正しく行うことが信頼性の鍵となります。
酸洗いとパッシベーションは「ステンレスを守る最終工程」と言えるでしょう。

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