異種金属(鉄とステンレス)の溶接で注意すべき点
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鉄とステンレスの溶接は、異なる性質を持つ金属同士を接合するため、通常の同種金属溶接よりも難易度が高い作業です。熱膨張係数、電位差、組成の違いなどから、溶接部にひずみや割れ、腐食などが発生しやすく、正しい条件設定や材料選定が求められます。ここでは、鉄とステンレスの溶接を行う際に注意すべきポイントや、溶接条件の考え方をわかりやすく解説します。
鉄とステンレスを溶接する目的と背景
異種金属である鉄とステンレスを溶接するケースは、産業界では少なくありません。コストや機能、耐食性など、さまざまな理由で選ばれる組み合わせです。
鉄とステンレスを接合する主な理由
- コスト削減
ステンレスは耐食性が高い一方で、鉄に比べて材料費が高価です。そのため、耐食性が求められる部分にのみステンレスを使い、それ以外を鉄で構成することでコストを抑えられます。 - 機能の最適化
強度や耐熱性など、部位ごとに求められる特性が異なる場合、それぞれに最適な金属を組み合わせることがあります。たとえば、外観や防錆が重要な表面はステンレス、構造的な強度が必要な内側は鉄、といった使い分けです。 - 補修や改造対応
鉄製構造物にステンレス部材を後付けする場合や、既存設備の改造時に異種金属の溶接が必要になるケースもあります。 
鉄とステンレスの性質の違い
鉄とステンレスの溶接を行う上で、まず理解しておくべきは両者の物理的・化学的性質の違いです。
熱膨張係数の差
ステンレスは鉄よりも熱膨張係数が大きく、加熱や冷却によって生じる伸縮の度合いが異なります。そのため、溶接中や溶接後の冷却過程でひずみが生じ、割れや歪みが発生しやすくなります。特に長尺物や薄板では、この差による変形が顕著です。
電位差による電食
鉄とステンレスを直接接合すると、電位差が生じて電食(ガルバニック腐食)が発生する場合があります。特に湿潤環境や海水など電解質が存在する場所では、鉄側が優先的に腐食します。防食対策を講じないと、接合部が早期に劣化する原因になります。
合金元素の拡散
溶接時には、鉄とステンレスの境界でクロムやニッケルなどの元素が拡散し、局所的に異なる組成が形成されます。この部分は硬く脆い金属間化合物を生成しやすく、溶接割れや脆化の要因になります。
鉄とステンレスの溶接方法の選定
異種金属の溶接では、使用環境や板厚、接合強度の要求によって適切な溶接法を選ぶことが重要です。
TIG溶接(アルゴン溶接)
精密で仕上がりが美しいため、薄板や装飾部品の接合に向いています。アーク熱が安定しており、溶接中の酸化を防げるため、ステンレスの光沢を保ちやすいのが特徴です。溶加棒は**ニッケル系またはオーステナイト系の溶接棒(例:SUS309L、SUS310)**がよく使われます。
MIG溶接
自動化しやすく、溶着速度が速い溶接法です。厚板や生産ラインでの接合に適しています。ただし、鉄とステンレスを直接溶接する場合、溶接条件の管理が非常にシビアです。スパッタや混合気体の管理が不十分だと、腐食や割れが起きやすくなります。
被覆アーク溶接
比較的簡便で、現場作業でも対応しやすい溶接法です。異種金属溶接の場合は、**ニッケルを多く含む溶接棒(E309L、E310など)**を使用します。ただし、外観仕上がりや精度を求める場合にはTIG溶接が優先されます。
溶接棒と溶加材の選定
鉄とステンレスの溶接で最も重要なのが、溶加材(溶接棒・ワイヤ)の選び方です。誤った材料を使用すると、割れや腐食のリスクが大幅に高まります。
推奨される溶加材
異種金属の溶接には、両方の金属に対応できる中間組成の溶加材を選ぶのが基本です。
- SUS309L系:最も一般的。高い耐食性と強度を持ち、鉄とステンレスの熱膨張差にも比較的対応できる。
 - SUS310系:高温環境下での使用に適し、割れに強い。
 - ニッケル系(Ni-Cr系):特に耐食性重視の場合に採用される。電位差を緩和できる。
 
一方で、鉄用の溶接棒(低炭素鋼用)を用いると、ステンレス側に炭化物が析出して腐食しやすくなるため避けるべきです。
溶接条件と施工時の注意点
入熱管理
ステンレスは熱伝導率が低く、鉄よりも局所的に温度が上がりやすい金属です。過剰な入熱はステンレス側の組織を劣化させ、クロム炭化物の析出(鋭敏化)を引き起こします。その結果、粒界腐食が発生することがあります。
入熱をできるだけ低く抑え、短時間で溶接を完了させることが重要です。
溶接順序とひずみ対策
鉄とステンレスでは冷却収縮率が異なるため、溶接順序を誤ると歪みが大きくなります。
・対称溶接を行う
・小ビードで分割溶接する
・拘束具を用いて固定する
といった方法で変形を防ぎます。
開先形状とギャップ
鉄とステンレスでは溶融性が異なるため、開先形状を工夫する必要があります。ステンレス側をやや深めにして溶け込みを確保し、鉄側は過溶融を避けるよう調整します。
また、わずかなギャップを設けて熱膨張を逃がすことで、応力集中を軽減できます。
溶接後の処理と検査
ピッキング・酸洗い
ステンレス側の酸化膜やスパッタを除去するために、溶接後は酸洗い処理を行います。これにより、クロム酸化皮膜の再生成が促進され、耐食性が回復します。
応力除去焼鈍
鉄とステンレスでは熱応力が残りやすいため、応力除去焼鈍を施すことで、残留応力による割れを防止できます。ただし、加熱温度や保持時間はステンレス側に合わせ、酸化防止雰囲気で行うことが望ましいです。
非破壊検査
異種金属溶接部は割れや気孔が発生しやすいため、外観検査に加え、浸透探傷試験(PT)やX線検査を行うのが一般的です。特に圧力容器や配管など安全性が重要な製品では、検査基準を厳しく設定する必要があります。
異種金属溶接で起こりやすい欠陥と対策
| 欠陥の種類 | 主な原因 | 対策 | 
|---|---|---|
| 割れ | 熱膨張差・脆化層の生成 | 入熱制御・309L系溶加材の使用 | 
| 気孔 | ガス巻き込み・脱脂不足 | 清浄な母材・適正ガス流量 | 
| 腐食 | 電位差・炭化物析出 | 酸洗い・絶縁処理・適正材料 | 
| 歪み | 熱膨張係数の差 | 対称溶接・拘束具の使用 | 
| 融合不良 | 入熱不足・開先不良 | TIG条件最適化・開先再設計 | 
溶接後の腐食対策
鉄とステンレスを溶接した構造物は、環境によっては接合部から腐食が進行するリスクがあります。
絶縁処理
鉄とステンレスが電気的に接触しないよう、樹脂や塗装による絶縁層を設けると、電食を防止できます。特に屋外や海水環境では有効です。
コーティングや塗装
鉄側のみに防錆塗装を施すことで、犠牲腐食を抑えます。亜鉛メッキなどを組み合わせる場合は、ステンレスと直接接触しないよう注意が必要です。
定期点検と補修
異種金属溶接部は経年変化によって劣化が進みやすいため、定期的な点検や防錆処理の更新が推奨されます。
まとめ
鉄とステンレスの溶接は、異なる物性を持つ金属を融合させる高度な技術です。
最も重要なのは「材料の選定」「入熱管理」「防食対策」の3点です。適切な溶加材(SUS309LやNi系)を使用し、過剰な入熱を避けながら施工すれば、高い強度と耐久性を確保できます。
また、溶接後の仕上げ処理や腐食対策を怠らないことで、長期にわたって安定した性能を維持できます。
異種金属溶接は難易度が高い反面、設計の自由度を高める手段でもあります。鉄とステンレスの特性を理解し、適切な工程管理を行うことで、信頼性の高い接合を実現できるでしょう。
いかがでしたでしょうか?
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