ステンレス

マルテンサイト系ステンレスの特徴と使いどころ

mw2pp0jd6c

金属加工.comをご覧いただき、誠にありがとうございます。
本サイトは、山梨県・長野県にて切削加工やろう付けを行っている 北東技研工業株式会社 が運営しております。
金属加工に関するお困りごとがございましたら、ぜひお気軽に当社までご相談ください。

マルテンサイト系ステンレスとは

マルテンサイト系ステンレス鋼は、鉄にクロム(Cr)を主成分として添加し、さらに炭素(C)を多く含むことで「焼入れによって硬化する」性質を持たせたステンレス鋼です。代表的な鋼種にはSUS410やSUS420J2などがあり、強度と硬さを求められる用途で多く使用されています。

ステンレス鋼と聞くと「錆びない」「加工しやすい」といったイメージを持たれる方が多いですが、マルテンサイト系はその中でも特に「機械的強度」「耐摩耗性」「刃物特性」に優れたタイプです。
一方で、オーステナイト系やフェライト系と比べると、耐食性や溶接性はやや劣るという特徴もあります。

このように、マルテンサイト系ステンレスは「強度・硬度重視」の材料として、機械部品や刃物、タービン部品など幅広い分野で活用されています。

マルテンサイト組織の特徴

マルテンサイトとは、鋼が急冷されることで生成される「硬くて脆い組織」です。
炭素を多く含む鋼を高温から急冷すると、炭素が拡散できず、原子が歪んだままの状態で固定されます。この歪みが結晶構造に内部応力を生じさせ、結果として非常に高い硬度を発揮します。

マルテンサイト系ステンレスでは、このマルテンサイト組織を意図的に生成させるため、熱処理(焼入れ・焼戻し)が非常に重要な工程となります。焼入れで高硬度を得た後、焼戻しによって靭性(粘り強さ)を回復させることで、強度と耐久性のバランスを取ります。

また、マルテンサイト組織は磁性を持つのも特徴のひとつです。そのため、マルテンサイト系ステンレスは「磁石にくっつくステンレス」として区別されることがあります。

主な成分と役割

マルテンサイト系ステンレスの基本成分は、以下のように構成されています。

  • クロム(Cr):11.5〜18%程度含有し、酸化皮膜による耐食性を付与します。
  • 炭素(C):0.1〜1.2%程度含有し、硬化能と強度を向上させます。
  • ニッケル(Ni):一部の鋼種に少量添加し、靭性や焼戻し性を改善します。
  • モリブデン(Mo):耐食性をさらに高める目的で添加されることがあります。

炭素が多いほど硬さは増しますが、その分だけ耐食性や靭性が低下する傾向にあります。そのため、用途に応じて炭素量を調整した鋼種が多数存在します。
例えば、刃物用途には高炭素タイプ(SUS420J2など)、機械構造用には低炭素タイプ(SUS410など)が適しています。

熱処理による性質変化

マルテンサイト系ステンレスは、熱処理によって性質を大きく変化させることができます。主な処理工程は次の通りです。

焼入れ

950〜1050℃程度に加熱した後、空冷または油冷することでマルテンサイト組織を生成します。この工程により、ステンレスは高い硬度を獲得します。焼入れ直後は非常に硬く、耐摩耗性に優れますが、同時に脆さも増すため、そのままでは割れやすくなります。

焼戻し

焼入れ後に200〜500℃程度で再加熱し、靭性を回復させます。
低温焼戻し(200〜300℃)では硬度を維持しつつ、やや靭性を改善。
高温焼戻し(400〜500℃)では硬度は下がるものの、延性と耐衝撃性が向上します。
用途に応じて最適な焼戻し条件を設定することで、強度と靭性のバランスを調整できます。

このように、マルテンサイト系ステンレスは「熱処理で性能を自在に変えられる」点が大きな魅力です。

耐食性の特徴

マルテンサイト系ステンレスは、クロムを含んでいるため一般的な鉄鋼よりも錆びにくいですが、オーステナイト系やフェライト系に比べると耐食性は劣ります。
特に、焼入れや溶接時の加熱によってクロム炭化物が析出し、粒界付近のクロム量が減少すると、局部的に耐食性が低下することがあります。

しかし、適切な熱処理管理を行い、さらに表面を研磨・パッシベーション処理することで、実用上十分な耐食性を確保できます。
実際には、水分の少ない環境や摩擦の多い部位など、「中程度の耐食性で十分な場所」に広く使用されています。

機械的特性

マルテンサイト系ステンレスの最大の特徴は、なんといっても高い強度と硬度です。
焼入れ処理後の硬さはHRC40〜55に達し、工具鋼や刃物鋼にも匹敵します。耐摩耗性にも優れ、繰り返し応力や衝撃を受ける部品に適しています。

ただし、その反面、延性(伸び)や靭性は低めです。特に低温環境下では脆化しやすいため、極寒条件や衝撃荷重が大きい環境にはあまり適しません。

加工性・溶接性

マルテンサイト系ステンレスは、硬化性の高さゆえに加工が難しい材料でもあります。
焼入れ前の状態(焼鈍状態)では比較的加工しやすいものの、焼入れ後は非常に硬くなり、切削工具の摩耗が激しくなります。したがって、加工は焼入れ前に行うのが基本です。

溶接性に関しては、オーステナイト系よりも劣ります。溶接時に熱影響部が脆化しやすく、割れのリスクがあるため、溶接後には焼戻しなどの後処理が必要になる場合があります。

代表的な鋼種と用途

SUS410

炭素量が少なく、焼入れ性と靭性のバランスが良い代表的なマルテンサイト系ステンレス。
耐食性・機械的性質の両立が可能で、バルブ部品、ボルト、ナット、ポンプシャフトなどに使用されます。

SUS420J2

炭素を多く含むため、焼入れ後は非常に硬く、耐摩耗性に優れます。
刃物、ハサミ、医療器具、ベアリング部品など、切れ味や耐久性を重視する分野に適しています。

SUS440C

炭素・クロムを多く含む高級鋼種。焼入れ後はHRC60以上の高硬度を実現でき、耐摩耗性と強度が抜群です。
高級刃物、精密ベアリング、バルブシートなど、厳しい条件下で使用される部品に用いられます。

マルテンサイト系ステンレスのメリットとデメリット

メリット

  • 焼入れにより高い硬度と強度を得られる
  • 耐摩耗性に優れる
  • 磁性を持つため磁気機能部品にも使用可能
  • 中程度の耐食性を備え、適切な処理でさらに改善可能

デメリット

  • 溶接性が低く、割れが生じやすい
  • 耐食性はオーステナイト系より劣る
  • 加工硬化が強く、機械加工が難しい
  • 低温環境下で脆化しやすい

これらの特性を理解した上で、用途に応じた材料選定を行うことが重要です。

代表的な使用分野

マルテンサイト系ステンレスは、その優れた強度と耐摩耗性を活かして、次のような分野で広く活用されています。

  • 刃物類(包丁、ハサミ、ナイフなど)
  • バルブ部品・ポンプシャフト
  • タービンブレードやボルト類
  • 工具や金型部品
  • 医療機器・機械構造部品

これらの用途はいずれも、「硬さ」「耐摩耗性」「中程度の耐食性」が必要な場面です。逆に、海水環境や化学薬品を扱うような強腐食環境では、より耐食性に優れたオーステナイト系や二相系ステンレスの方が適しています。

まとめ

マルテンサイト系ステンレスは、「強度と硬度を重視するステンレス鋼」として多くの分野で活躍しています。
焼入れによって高硬度を発揮し、耐摩耗性や切れ味が求められる用途に最適です。その一方で、溶接性や耐食性の課題もあるため、熱処理や表面仕上げなどの適切な工程管理が欠かせません。

用途に応じた鋼種選定と処理条件の最適化を行えば、マルテンサイト系ステンレスは「高性能で信頼性の高い材料」として、今後も産業分野で重要な役割を担い続けるでしょう。

いかがでしたでしょうか?
金属加工.comでは、他にも金属加工関連の情報を発信しております。他にも気になる記事がありましたら、是非ご覧ください。

金属加工.comのトップページはこちら↓

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 1-6-1024x116.png

関連記事はこちら↓

記事URLをコピーしました