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ステンレス鋼の溶接欠陥とその防止法

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ステンレス鋼溶接の特徴と難しさ

ステンレス鋼は鉄を主成分としながら、クロムやニッケルなどを添加して耐食性を高めた金属材料です。建築、食品機械、化学装置など幅広い分野で使用されており、見た目の美しさや耐久性からも人気があります。しかし、溶接の際には独特の欠陥が発生しやすく、炭素鋼や低合金鋼とは異なる注意が必要です。

ステンレス鋼の溶接が難しい理由は、主に次のような点にあります。

  • 熱伝導率が低いため、局部的に温度が上がりやすく、ひずみや割れが生じやすい
  • 熱膨張係数が大きく、加熱・冷却による変形が大きい
  • 高温時にクロムが炭素と結合して炭化物を生成し、耐食性が低下する
  • 酸化皮膜が形成されやすく、内部欠陥の原因になる

これらの特性を踏まえて溶接条件を最適化しないと、溶接後にさまざまな欠陥が現れることになります。

ステンレス鋼に多い溶接欠陥の種類

ステンレス鋼の溶接で発生する欠陥には、表面に現れるものから内部に潜むものまで多岐にわたります。ここでは代表的な欠陥を挙げ、それぞれの原因と影響を解説します。

溶接割れ

溶接割れは、溶接金属や熱影響部に発生する亀裂です。特にオーステナイト系ステンレス鋼では「高温割れ(凝固割れ)」が問題になります。これは溶融金属が凝固する際に、特定の不純物(S, P, Siなど)が粒界に偏析し、延性を失うことで発生します。

また、冷却後に発生する「低温割れ」や「再熱割れ」もあり、応力の集中や水素の侵入が原因になることもあります。割れが発生すると強度が著しく低下し、使用中に破断するリスクがあります。

ピット(溶接孔)

ピットやブローホールは、溶接金属内部にガスが閉じ込められてできる空洞です。主な原因は、表面汚れ(油分、水分、酸化皮膜など)やシールドガスの不十分な供給です。特にTIG溶接では、ガスの流量が多すぎたり少なすぎたりすると、ピットが発生しやすくなります。

ピットは外観の美観を損ねるだけでなく、腐食の起点となり、長期的には耐久性に影響を与えることがあります。

溶け込み不良・融合不良

溶け込み不良は、母材と溶加材の間で十分に溶け合っていない状態です。電流不足、溶接速度が速すぎる、またはトーチ角度が不適切な場合に発生します。融合不良は、母材の表面に酸化皮膜や汚染物が残っている場合に起こりやすく、溶接強度を大きく低下させます。

外見上は良好に見えても、内部では接合していない部分があるため、後の破損や漏れの原因になります。

変形と残留応力

ステンレス鋼は熱膨張係数が大きく、溶接時の局部加熱によって変形しやすい特徴があります。特に薄板の場合、溶接後に反りや曲がりが発生しやすく、寸法精度が求められる製品では問題になります。また、急冷によって残留応力が発生し、後の加工や使用中に割れを誘発することもあります。

焼け・酸化皮膜

溶接時の高温によってステンレス鋼の表面が酸化し、青や茶色の焼けが生じることがあります。この焼け部分はクロムが酸化されてしまい、表面の耐食性が低下します。見た目の問題だけでなく、腐食が進行しやすくなるため、特に食品機械や装飾品では厳重な管理が必要です。

各種欠陥の主な原因

ステンレス鋼の溶接欠陥は、材料・施工・環境の3要因が重なって発生します。それぞれの代表的な原因を以下に整理します。

材料要因

  • 材料中の硫黄、リンなどの不純物が多い
  • 炭素量が高く、粒界に炭化物が生成
  • 母材や溶加材の組み合わせが不適切
  • 表面に油脂や酸化皮膜が残っている

施工要因

  • 溶接電流・速度が適切でない
  • シールドガスの流量不足または過剰
  • 開先形状や間隔が不適切
  • 溶接姿勢が悪く、トーチ角度が一定でない
  • 溶接順序が悪く、熱ひずみを助長している

環境要因

  • 湿度が高く、水分が母材に付着
  • シールドガスに空気が混入
  • 周囲風によってガスシールドが乱れる
  • 冷却が急すぎて応力が集中する

これらの要因を把握し、管理することが欠陥防止の第一歩です。

溶接欠陥の防止策

欠陥を未然に防ぐためには、材料準備から後処理まで一連の工程を適正に管理する必要があります。以下では、代表的な防止策を段階ごとに解説します。

溶接前の準備

まず、母材の表面は完全に清浄であることが前提です。油分、汚れ、酸化皮膜、錆などが残っていると、ピットや融合不良の原因になります。溶接部周辺はアセトンなどで脱脂し、ステンレス専用のワイヤブラシで酸化皮膜を除去します。

また、母材と溶加材の材質を正しく選定することも重要です。オーステナイト系同士、フェライト系同士など、組み合わせに応じて適切な溶加材を使用することで、熱膨張の差や炭化物析出を抑制できます。

適切な溶接条件の設定

溶接条件は、電流・電圧・溶接速度・シールドガス流量のバランスで決まります。特にTIG溶接では、電流が高すぎると焼けが強くなり、低すぎると溶け込み不足を招きます。溶接速度も速すぎると融合不良、遅すぎると熱影響が大きくなり変形や割れを引き起こします。

また、シールドガスは一般にアルゴンを使用しますが、風の影響を受けやすいため、屋外作業ではガスシールドを安定させる工夫が必要です。

溶接中の注意点

トーチ角度は溶接線に対して10〜20度の傾斜を保ち、常に一定の距離を維持することが望まれます。トーチを左右に揺らしすぎるとアークが不安定になり、ビード形状が乱れやすくなります。

また、連続溶接を避け、一定の間隔で休止を設けることで、熱の集中を抑制できます。厚板や長い溶接線の場合は、溶接順序を工夫して熱変形を分散させることも効果的です。

溶接後の後処理

溶接完了後には、焼けや酸化皮膜を除去する「酸洗い」や「パッシベーション処理」が必要です。これにより、表面のクロム酸化物層を再生し、耐食性を回復させます。特に食品・医療機器分野では、この工程を省略すると重大な腐食トラブルにつながります。

さらに、残留応力を低減するために「応力除去焼鈍」を行う場合もあります。特に厚板や複雑な構造物では、応力割れ防止に有効です。

欠陥発生時の対処と再発防止

欠陥が発生した場合は、外観検査や浸透探傷試験(PT)、X線検査などで欠陥箇所を特定し、欠陥部を完全に除去してから再溶接を行います。単に上から肉盛りするだけでは、内部欠陥が残るため再発の危険があります。

また、再発防止には原因分析が欠かせません。材料ロット、溶接条件、環境要因を記録し、問題の傾向を把握することが重要です。現場でのノウハウ共有や手順書の標準化も、品質の安定化に効果を発揮します。

ステンレス溶接品質を安定させるためのポイント

  1. 清浄な母材管理:脱脂・酸化皮膜除去を徹底する
  2. 溶加材と母材の適正選定:材質・組成の整合を確認
  3. 適切な溶接条件:電流・速度・ガス流量の最適化
  4. 溶接姿勢の維持:一定角度でアークを安定させる
  5. 熱管理の徹底:連続溶接を避け、冷却時間を確保
  6. 後処理の実施:酸洗いやパッシベーションで耐食性回復
  7. 記録と改善:欠陥事例のデータベース化と共有

これらを組織的に管理することで、欠陥の発生を最小限に抑え、高品質なステンレス溶接を実現できます。

まとめ

ステンレス鋼の溶接は、見た目以上に繊細な作業です。割れやピット、溶け込み不良といった欠陥は、一見すると小さくても、長期的な信頼性や耐食性に大きく影響します。

しかし、欠陥のメカニズムを理解し、材料選定・前処理・溶接条件・後処理のすべてを適正化すれば、安定した品質を維持することは十分可能です。溶接品質の向上は、製品の寿命や安全性を左右する最も重要な要素の一つであり、職人の技術と管理の両輪によって支えられています。

現場では、常に「欠陥の兆候を見逃さない観察力」と「再現性のある施工手順」を意識し、日々の作業改善を積み重ねていくことが、信頼されるステンレス溶接の実現につながります。

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