ろう付けに使用されるフラックスの種類

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ろう付けは、金属同士を高温で接合する加工技術であり、母材を溶かすことなく、ろう材(溶加材)を溶かして接合します。このとき、欠かせない役割を果たすのが「フラックス(Flux)」です。フラックスは、ろう付け中に発生する酸化膜の除去や防止を担い、ろう材が金属表面にしっかり濡れ広がるための重要な補助剤です。
本記事では、フラックスの役割、主な種類、そして使用時の注意点について詳しく解説します。
フラックスの基本的な役割
ろう付けにおけるフラックスは、単なる助剤ではなく、接合品質を大きく左右する重要な要素です。その主な役割は以下の通りです。
酸化膜の除去
金属は高温加熱時にすぐに酸化して表面に酸化膜を形成します。この酸化膜が残ったままだと、ろう材は母材に濡れず、接合不良(ぬれ不良、空隙、強度不足など)を引き起こします。
フラックスは化学反応によってこの酸化膜を除去し、金属表面を清浄に保つ働きをします。
酸化の防止
加熱中に新たな酸化が進まないよう、フラックスが金属表面を覆い、酸素の侵入を防ぎます。これにより、加熱の間も安定した接合が可能になります。
ろう材の濡れ性向上
フラックスには表面張力を下げる効果もあり、ろう材が母材にスムーズに広がる(濡れる)ことを助けます。これにより、接合界面全体に均一なろう層を形成しやすくなります。
ろう付けで使用されるフラックスの主な種類
フラックスには多くの種類がありますが、使用するろう材や母材の材質、温度条件に応じて選定されます。ここでは代表的なフラックスを分類ごとに紹介します。
銀ろう用フラックス
銀ろうは鉄、銅、真鍮、ステンレスなど幅広い金属に使われる万能型のろう材であり、これに対応するフラックスも多様です。
ホウ砂系フラックス(Borax Type)
もっとも一般的なのが、**ホウ砂(Na₂B₄O₇)とホウ酸(H₃BO₃)**を主成分としたタイプです。
このタイプは使用温度範囲が広く(500〜900℃程度)、銀ろう付けや黄銅ろう付けに最も多く利用されます。酸化物除去能力に優れ、ろう材の流れを妨げにくい特徴があります。
ただし、ステンレス鋼など酸化膜が強固な金属では、除去能力が不十分な場合があります。
活性型フラックス
ホウ砂系に**フッ化物(NaF、KFなど)**を添加したタイプで、より高い活性を持ちます。
このタイプはステンレス鋼やニッケル基合金など、酸化被膜が強い金属に適しています。ただし、残渣が腐食性を持つため、ろう付け後には十分な洗浄が必要です。
アルミニウム用フラックス
アルミニウムは極めて酸化しやすく、酸化膜(Al₂O₃)は非常に安定していて通常のホウ砂系フラックスでは除去できません。
そのため、アルミ用には特殊なフラックスが使われます。
塩化物系フラックス
塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ナトリウム(NaCl)などの混合塩を主成分としたフラックスです。
融点が低く、アルミ表面の酸化膜を物理的に破壊してろうの濡れを促進します。
一方で、腐食性が非常に高く、使用後の残渣除去(洗浄)が欠かせません。水洗や超音波洗浄を行い、完全に除去する必要があります。
フッ化物添加タイプ
塩化物系にフッ化カリウム(KF)などを加えたタイプで、活性度がさらに高まります。
特にアルミニウム合金のろう付けにおいては、融点が500℃前後のフラックスがよく用いられます。
銅・真鍮用フラックス
銅や真鍮(黄銅)は酸化しやすいものの、比較的安定したろう付けが可能です。
この場合のフラックスは、銀ろう用と似たホウ砂系やホウ酸系が主流です。
一般ホウ砂系フラックス
銅や真鍮では、700〜800℃程度の温度でろう付けを行うため、ホウ砂とホウ酸の比率を調整したタイプが使われます。
銀ろう用よりも高温対応型を選定するのが一般的です。
高温用アクティブフラックス
真鍮ろう(融点が900℃付近)を使用する場合には、より高温でも活性を保てるよう、フッ化物を含んだフラックスを使用します。これにより、酸化銅の除去がスムーズになります。
ステンレス鋼用フラックス
ステンレスは酸化膜が極めて強固なため、通常のホウ砂系では効果が限定的です。
このため、より強力な活性剤を含む専用フラックスが使われます。
フッ化物系活性フラックス
フッ化カリウム(KF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化アンモニウム(NH₄F)などを主成分とするフラックスで、酸化クロム膜を化学的に溶解する作用を持ちます。
このタイプは高い活性を発揮しますが、残渣が腐食性を持つため、ろう付け後の洗浄工程が非常に重要です。特に、洗浄不足はステンレスの局部腐食を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
ニッケル合金・耐熱合金用フラックス
ニッケル系や耐熱合金は高温でも酸化膜が安定しており、通常のフラックスでは効果が出にくい金属です。
そのため、強力なフッ化物系あるいは塩化物+フッ化物複合系が使用されます。
場合によっては、フラックスを使用せず真空ろう付けや雰囲気炉ろう付けで酸化を防ぐ方法が取られます。
フラックスの選定と使用上の注意点
フラックスは万能ではなく、使用条件を誤ると接合不良や腐食などの問題を招くことがあります。選定と使用にあたっての重要ポイントを解説します。
金属材質に合わせた選定
- 銅・真鍮 → ホウ砂系
- ステンレス → フッ化物系活性フラックス
- アルミ → 塩化物系またはフッ化物系
- ニッケル合金 → 強活性フッ化物系または無フラックス(雰囲気炉)
金属ごとの酸化特性を理解し、適切な活性度を持つフラックスを選ぶことが重要です。
残渣除去の徹底
フラックスの残留物は腐食の原因になります。特に塩化物・フッ化物系は水溶性が高く、湿気により腐食を促進します。
ろう付け後は温水洗浄や超音波洗浄、中和処理を行い、完全に除去することが推奨されます。
加熱条件の最適化
フラックスが活性を発揮する温度帯を守ることも大切です。温度が低すぎると活性化せず、高すぎると蒸発・分解して効果を失います。
メーカーの指定温度範囲を確認し、適切な加熱速度と保持時間を設定します。
近年の動向:フラックスレスろう付け技術
環境負荷や洗浄コストの観点から、近年はフラックスを使わないろう付けの研究も進んでいます。
代表的なのが以下の方法です。
真空ろう付け
真空環境下では酸素がほとんど存在しないため、酸化膜が形成されにくく、フラックスなしでも清浄な接合が可能です。
主にステンレスやニッケル合金、チタンなど高級部品に採用されています。
還元性雰囲気炉ろう付け
水素やアンモニア分解ガスを用いた還元雰囲気中で加熱することで、酸化膜を除去・抑制します。これもフラックスを使用しない方法の一つで、自動車や航空機部品の量産に利用されています。
まとめ
フラックスは、ろう付けの品質を左右する「縁の下の力持ち」です。
金属の種類や温度条件に応じて最適なタイプを選び、適切に使用することで、均一で強固な接合が得られます。
また、使用後の残渣除去を怠ると腐食や信頼性低下につながるため、洗浄工程も含めたトータルな管理が重要です。
さらに、環境対応技術の進展により、今後は「フラックスレスろう付け」への移行も進むと考えられます。
ろう付け技術者にとって、フラックスの理解と選定は、確実で高品質な接合を実現するための基礎知識といえるでしょう。
いかがでしたでしょうか?
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