ろう付けにおける接合部の腐食対策

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ろう付けは異種金属の接合や精密部品の組み立てに広く使われる加工技術です。しかし、接合部は材料の違いやろう材の性質、残留フラックスなどの影響を受けやすく、腐食が発生しやすい箇所でもあります。腐食は外観を損ねるだけでなく、接合強度の低下や機能不良の原因にもなるため、対策は非常に重要です。この記事では、ろう付け接合部で起こる腐食の原因とその防止策について、わかりやすく解説します。
ろう付け接合部における腐食の特徴
ろう付け後の腐食は、母材とろう材、さらに外部環境との複合的な作用によって発生します。特に注意すべき点は、接合部が異種金属接合になることが多い点です。
異種金属を組み合わせた場合、電位差によって**ガルバニック腐食(電食)**が起こる可能性があります。また、ろう付け時に使用するフラックスの残留や、加熱過程で生成された酸化物も腐食の起点となります。
腐食の進行は目に見えにくく、最初は接合部の内部で発生することも多いため、外観検査では気づかないことがあります。定期的な評価や防止策の導入が必要です。
腐食が発生する主な原因
異種金属による電位差
異なる金属同士を接合すると、金属間に電位差が生じ、電解質(湿気や水分)が存在すると電流が流れます。このとき、電位の低い金属がアノードとなり、選択的に腐食が進みます。
たとえば、銅とアルミニウム、鉄と銀ろうなどの組み合わせでは、電食が起こりやすくなります。
フラックス残渣の影響
ろう付け時に使われるフラックスには、酸化物を除去して濡れ性を高める効果がありますが、その成分(ハロゲン化物、酸など)は腐食性を持つ場合があります。
十分に洗浄されないまま残留すると、湿気や温度変化の影響で化学反応が進み、局部的な腐食を引き起こします。
高温加熱による酸化皮膜
ろう付けでは数百度の加熱が行われるため、母材やろう材の表面に酸化皮膜が生成されます。この皮膜が不均一な場合、局所的な腐食を誘発します。特に、ニッケルや銅系の合金では酸化被膜が電位差を生み、腐食促進要因となります。
環境要因(湿度・温度・塩分)
使用環境も大きな影響を与えます。湿度が高い場所や、塩分を含む空気(海岸地域など)では腐食が進行しやすくなります。さらに、ろう材や母材に残った微小な隙間(すきま腐食)も、湿気の滞留により腐食を加速させます。
腐食対策の基本方針
腐食を防ぐには、「原因を断つ」ことが最も効果的です。
主な方針は以下の4つにまとめられます。
- 材料の組み合わせを最適化する
- フラックス残留を防ぐ
- 環境に適した表面処理を施す
- 設計段階で水分滞留を防止する
それぞれの対策について、詳しく見ていきましょう。
材料選定による腐食抑制
ろう付けでは、母材とろう材の組み合わせが非常に重要です。
電位差が大きい金属同士を組み合わせると腐食リスクが上がるため、できるだけ電位の近い材料を選定することが望まれます。
例えば以下のような組み合わせは比較的安定しています。
- 銅-銅:銀ろう(Ag-Cu系)
- ステンレス-ステンレス:ニッケルろう(Ni系)
- アルミ-アルミ:アルミろう(Al-Si系)
逆に、銅-アルミ、鉄-アルミといった組み合わせは避けた方が無難です。もし異種金属の組み合わせが避けられない場合は、間に中間層(バリア層)を設ける方法があります。たとえば、ニッケルメッキを施して電位差を緩和することで、電食を抑制できます。
フラックス洗浄の徹底
腐食対策で最も基本的かつ重要なのがフラックスの除去です。
ろう付け後、接合部にフラックス残渣が残っていると、時間の経過とともに化学的腐食を誘発します。特にハロゲン系フラックスは強い腐食性を持つため、使用後は必ず洗浄工程を設けましょう。
洗浄方法には以下の種類があります。
- 温水洗浄:水溶性フラックスの場合に有効。50〜70℃の温水で十分に洗う。
- アルカリ洗浄:酸性フラックスの中和に効果的。中性化して腐食反応を抑制。
- 超音波洗浄:細かい隙間に入り込んだ残渣を物理的に除去。精密部品に有効。
また、フラックスレスろう付け(真空炉や不活性ガス雰囲気炉を用いる方法)を採用することで、そもそもフラックス残渣を発生させない手段もあります。
表面処理による防食
ろう付け後の表面を保護することで、外部環境による腐食を抑制することができます。主な方法として以下が挙げられます。
- めっき処理(ニッケル、クロム、亜鉛など)
ろう材や母材の表面に保護層を作り、湿気や酸素との反応を遮断します。特にニッケルめっきは耐食性が高く、電位の安定化にも寄与します。 - 防錆油・防錆剤の塗布
一時的な防錆対策として、輸送時や保管時に有効です。特に銅や鉄系部材には簡易的かつ効果的です。 - 陽極酸化処理(アルミ材)
アルミ部品に対しては陽極酸化皮膜を形成することで、表面の耐食性と密着性を向上させます。
これらの処理を施すことで、ろう付け後の腐食を長期的に防ぐことが可能です。
設計段階での腐食予防
製造工程だけでなく、設計段階でも腐食リスクを減らす工夫が求められます。
たとえば、以下のような配慮が有効です。
- 接合部に**すきま(ギャップ)**を残さないよう設計する。
→ すきま内は酸素供給が乏しく、すきま腐食が発生しやすい。 - 水分や薬液が滞留しない形状にする。
→ 排水性・通気性を確保して腐食促進環境を防ぐ。 - 熱膨張差を考慮し、応力集中を避ける設計にする。
→ 応力割れが発生すると、そこから腐食が進行する。
また、腐食試験や耐久試験を設計段階から取り入れ、実際の使用環境を模擬して確認することも重要です。
使用環境に応じた対策の具体例
環境によって腐食リスクは異なります。以下に代表的な事例と対応策を紹介します。
- 屋外環境(高湿度・塩分)
→ 電食対策としてニッケルめっき+防錆油処理を併用。
→ フラックスレスろう付けを推奨。 - 高温環境(熱交換器・排気部品)
→ Ni系ろう材を使用し、酸化皮膜が安定する材質を選定。
→ 酸化皮膜の形成を抑えるため、不活性ガス雰囲気でのろう付けを検討。 - 精密電子部品(導電性・耐湿性重視)
→ フラックス残留が致命的なため、超音波洗浄または真空ろう付けを採用。
→ 銀ろう使用時は硫化防止コーティングを施す。
定期点検とメンテナンスの重要性
ろう付け後の腐食は時間の経過とともに進行するため、定期的な点検が欠かせません。特に長期使用される機器では、以下のようなチェックを行うことが推奨されます。
- 接合部の変色・膨れ・剥がれの有無
- ろう材表面の白化・粉状腐食物の発生
- 電食の兆候(異金属接合部の変色など)
腐食が軽微なうちに発見すれば、再処理や再メッキで修復可能なケースもあります。
逆に、腐食が進行してしまうと接合強度が低下し、再使用できなくなるため、早期発見・早期対処が重要です。
まとめ
ろう付け接合部の腐食は、単一の原因ではなく、材料・工程・環境・設計といった複数の要素が絡み合って発生します。
そのため、「材料選定」「フラックス除去」「表面処理」「設計配慮」という複合的な対策を講じることが不可欠です。
腐食対策を怠ると、製品寿命の短縮や信頼性の低下を招くことになりますが、逆に適切な防食技術を導入すれば、長期間にわたって高品質な接合部を維持することが可能です。
製造現場では、設計からメンテナンスまで一貫した腐食対策の意識を持つことが、製品品質を守る最も確実な手段と言えるでしょう。
いかがでしたでしょうか?
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