真鍮切削の材料歩留まりを上げる方法とは?

はじめに:なぜ材料歩留まりの向上が重要か
製造業において、材料費は全体コストの大きな割合を占めます。特に真鍮は加工性に優れる反面、銅を主成分とするため比較的高価であり、加工時のロスを極力抑えることが求められます。こうした背景のもと、「材料歩留まり(ぶどまり)」、すなわち使用した材料に対して最終製品としてどれだけ活用できているかという指標の向上は、企業の利益率を左右する重要なテーマです。
本記事では、真鍮加工における材料歩留まりを向上させるための具体策について、設計段階、加工工程、設備の工夫、リサイクル対策まで多角的に解説します。
1. 材料歩留まりとは?基本概念の理解
1-1. 材料歩留まりの定義
材料歩留まりとは、以下の数式で表されます。
コピーする編集する材料歩留まり(%)=(製品重量 ÷ 総材料投入重量)× 100
例えば、100kgの真鍮材料を投入して、最終的に70kgの製品を得られた場合、歩留まりは70%です。残りの30%は切りくず、バリ、不良品などによって失われたことになります。
1-2. 歩留まり低下の主な原因
- 加工時の大量の切りくず発生
- 製品設計上の無駄な肉厚
- 工具・加工条件の不適合による不良率増加
- 材料の無計画なカットや取数不足
- リード材、チャッキング部の長すぎる確保量
2. 設計段階での歩留まり改善策
2-1. 取り数を意識した形状設計
真鍮丸棒や真鍮板材から製品を取り出す際、「取り数」が重要になります。例えば、丸棒からの旋盤加工では1本から何個取れるか、板材からのフライス加工ではどれだけ無駄なく面付けできるかがカギです。以下のような工夫が有効です。
- 製品外形を、丸棒径や板材寸法に合わせた形に設計
- 同一工程で複数個を同時加工(マルチ加工)
- 余白の少ない面付け配置を設計段階から取り入れる
2-2. 過剰な肉厚・長さを排除
強度や機能上必要のない過剰寸法は材料ロスの温床です。CAEなどで強度解析を行い、必要最小限の厚みや長さで済む設計に見直すことで歩留まり向上に直結します。
2-3. セミ製品・モジュール化の推進
複雑形状を複数部品の組み合わせで構成するモジュール化は、歩留まりだけでなく加工時間短縮にもつながります。
3. 加工工程での歩留まり向上施策
3-1. 切削条件の最適化
切削速度、送り、切込み量を最適化することで、加工時の欠けやバリの発生を抑え、不良率を減らせます。特に真鍮は加工性に優れるがゆえに、切削条件が過大になると刃物の摩耗や材料のひけが原因で不良が出やすくなります。
3-2. 工具選定の見直し
真鍮に適した工具材(例:超硬、CBN)やコーティング(TiNなど)を選ぶことで、安定加工が可能になり、不良の発生を抑えることができます。また、仕上げ用・荒加工用を適切に使い分けることも重要です。
3-3. 加工順序・加工方法の再構築
複数工程を組み合わせた加工で、不要な段取り替えや無駄な加工を削減することで歩留まりが向上します。例えば、
- 外径を先に削っておくことで内径加工時の芯ブレを防止
- ドリル加工から仕上げ切削への一貫工程化
などが挙げられます。
4. 材料取数と配材効率の改善
4-1. 歩留まりに優れた寸法取り
丸棒や板材の在庫寸法を元に、「最適な取数計画」を事前に立てることが重要です。たとえば、φ20mmの丸棒からφ18mmの製品を取るのは適切ですが、φ21mmの製品を作るためにφ25mm材を使うと、不要な切削ロスが発生します。
4-2. 端材の再利用
端材も適切に管理することで材料費の削減に繋がります。例えば、
- 端材サイズごとに分類して保管
- 次回生産の小物部品用に流用
- 端材寸法を考慮した設計変更提案
などが可能です。
5. 自動化・設備投資による効率向上
5-1. 自動化による切削ミスの低減
自動機やマシニングセンタの導入により、加工ばらつきや人為的なミスを低減できます。これにより不良品の発生が減り、歩留まりが向上します。
5-2. 工具摩耗の予測保守
工具の摩耗が進むと加工面が荒れ、良品率が低下します。加工条件のログ管理や工具寿命のAI予測管理などを導入することで、予防的なメンテナンスが可能になります。
5-3. NCプログラムの最適化
切削パスや工具移動の無駄を削減し、最短時間・最小切削量で製品を仕上げられるようなプログラム設計が望まれます。
6. 切りくずとスクラップの再資源化
6-1. 切りくずの回収体制整備
真鍮の切りくずはスクラップ業者への売却が可能で、リサイクル価値が高いです。以下の対策が推奨されます。
- 切りくずを素材別に分別
- オイルの脱油処理を行い高単価で売却
- 小さな切りくずも吸引装置で回収
6-2. スクラップ還元率の向上
リサイクルされた真鍮材を再生素材として社内工程に戻す「クローズドループ製造」も、材料歩留まりの観点では有効な手段です。
7. 品質管理と現場教育による歩留まり維持
7-1. 不良率の可視化と要因分析
不良が出た際の「なぜなぜ分析」を徹底し、改善を継続することで歩留まり向上に寄与します。歩留まりを月次で記録し、部門ごとの比較を行うことも有効です。
7-2. 作業者教育の徹底
- 工具の正しい扱い方
- 加工中の異音や切りくずの状態からの異常検知
- 材料取数の重要性の理解
など、現場担当者の教育が現場レベルでの歩留まり改善を支えます。
まとめ:歩留まり改善は総合力が試される
真鍮の材料歩留まりを上げるためには、「設計」「加工」「設備」「回収・再資源化」「品質管理」など多方面からのアプローチが必要です。目先の材料費削減にとどまらず、継続的な改善体制を整え、全社的に歩留まり向上に取り組むことが、競争力の強化とサステナビリティの実現につながります。