◆初心者でもわかる!切削加工の基本と流れ

はじめに
「切削加工(せっさくかこう)」とは、金属や樹脂などの材料から不要な部分を削り取り、目的の形状を作り出す加工方法のことです。日常にある自動車部品、家電製品、精密機器、さらには医療機器に至るまで、さまざまな製品の製造に欠かせない技術です。
この記事では、初心者の方にもわかりやすいように、切削加工の基本的な考え方、使われる機械や工具、加工の流れ、そして実際の現場でのポイントまでを丁寧に解説します。
1. 切削加工とは?
● 定義と特徴
切削加工とは、材料の一部を「切り取る」「削る」ことによって、目的の形状や寸法に整える加工方法です。材料には主に金属(鉄、アルミ、真鍮など)が用いられますが、最近では樹脂やセラミックなども対象になります。
● 切削加工の主な種類
加工方法 | 特徴 | 主な用途 |
---|---|---|
旋盤加工(せんばん) | 回転する材料に刃物を当てて削る | 円柱形部品の作成 |
フライス加工 | 回転する刃物で材料を削る | 平面加工や溝加工 |
ボール盤加工 | 穴を開ける | ネジ穴やボルト穴の作成 |
研削加工 | 回転する砥石で削る | 高精度な仕上げ |
放電加工 | 電気で金属を溶かして加工 | 複雑形状や硬い材料に対応 |
2. 切削加工に使われる主な機械
切削加工で使われる工作機械にはさまざまな種類があります。それぞれの機械には得意とする加工や形状、精度の特徴があります。ここでは代表的な機械について、詳しく紹介します。
● 旋盤(Lathe)
概要:
旋盤は、「回転するワーク(加工材料)」に固定された刃物(バイト)を当てて、円筒形状や円錐形、ねじ切りなどを行う機械です。旋削加工とも呼ばれ、最も基本的な切削加工機械のひとつです。
主な構成:
- チャック:材料をつかんで回転させる部分
- 主軸:回転運動を与える軸部分
- 心押し台:長尺物を支える補助装置
- 刃物台:工具を取り付けて移動させる装置
加工可能な形状:
- 円柱
- 円錐
- 溝加工(溝入れ)
- 外径・内径の段差
- ネジ加工
メリット:
- 回転対称の部品加工に最適
- 精度が高く、繰り返し性に優れる
- 操作が比較的シンプル(汎用旋盤の場合)
デメリット:
- 四角形や複雑形状の加工には不向き
代表的な製品例:
- ボルト、シャフト、軸受、スリーブ、円筒状のケースなど
● フライス盤(Milling Machine)
概要:
フライス盤は「回転する工具(カッター)」を使用して、固定された材料を削る加工機械です。平面、溝、曲面など、自由度の高い加工が可能です。
主な構成:
- テーブル:材料を固定する部分。X・Y・Z方向に動かせる
- 主軸:カッターを回転させる軸
- ヘッド:主軸を支える部分。傾けることも可能な機種がある
主な加工内容:
- 平面加工
- 溝加工(スロット加工)
- 斜面加工
- 円弧加工(ボールエンドミル使用)
- キー溝、T溝、歯車加工(専用アタッチメント使用)
メリット:
- 多種多様な形状に対応できる
- エンドミル、フェースミル、ボールエンドミルなど工具が豊富
- 立体加工や複雑形状に強い
デメリット:
- 加工精度は旋盤よりやや低い(特に手動式)
- 工具の摩耗管理が必要
代表的な製品例:
- 金型部品、治具、カバー、溝付きプレート、平行ブロックなど
● ボール盤(Drilling Machine)
概要:
ボール盤は、回転するドリル工具を上下に移動させて、材料に穴を開ける機械です。単純ながら非常に重要な役割を担っています。
主な構成:
- スピンドル:ドリルチャックを装着し回転
- テーブル:ワークを置いて固定する
- コラム:垂直方向のガイド役
- フィードレバー:ドリルを上下させる手動レバー
主な加工内容:
- 穴あけ(ドリリング)
- 座ぐり加工(カウンターボア)
- 面取り(ドリルや面取り工具使用)
- タップ加工(ねじ切り)
メリット:
- 操作が簡単で、初心者でも扱いやすい
- 小ロットや試作に最適
- 汎用性が高く、卓上型~大型まで種類が豊富
デメリット:
- 高精度の位置決めが難しい(手動機の場合)
- 加工できるのは基本的に穴あけのみ
代表的な製品例:
- ネジ穴部品、取付穴付きパネル、ブラケット、組立部材など
● マシニングセンタ(Machining Center)
概要:
マシニングセンタは、NC制御によって自動で工具の交換や加工条件を変えながら、複雑な切削加工を連続して行える高性能な工作機械です。フライス加工、穴あけ、タップ、面取りなど複数の工程を1台でこなします。
主な構成:
- 主軸:工具の回転部分
- 自動工具交換装置(ATC):複数の工具を自動で切替
- テーブル:XYZ軸に移動できる
- NC装置:加工プログラムを管理・制御
メリット:
- 高精度・高効率な量産加工が可能
- 人手による作業時間が大幅に削減できる
- 3軸〜5軸制御によって複雑形状にも対応
デメリット:
- 導入コスト・メンテナンス費用が高い
- プログラム作成に専門知識が必要
代表的な製品例:
- 精密部品、医療機器部品、自動車のエンジン部品、金型ベースなど
● 研削盤(Grinder)
概要:
研削盤は、砥石(といし)を高速回転させ、材料表面を削って仕上げる工作機械です。微細な仕上げや、非常に高精度な加工が必要な場面で使われます。
主な構成:
- 砥石軸(スピンドル):砥石を回転させる
- テーブル:ワークを固定
- 冷却装置:摩擦熱を抑えるクーラントを供給
主な加工内容:
- 平面研削(表面を平らに削る)
- 円筒研削(円柱の外周や内径を削る)
- 内面研削、工具研削など
メリット:
- 数ミクロン(0.001mm単位)の精度が出せる
- 表面粗さが非常に滑らかに仕上がる
- 焼入れなど硬度の高い材料にも対応可能
デメリット:
- 加工時間が長い
- 工具の選定と調整が難しく、熟練を要する
代表的な製品例:
- ベアリング、シャフト、バルブ部品、高精度スライダーなど
参考まとめ表
機械名 | 主な特徴 | 得意な加工 |
---|---|---|
旋盤 | 材料が回転、バイトで削る | 円柱、ねじ、溝、円錐 |
フライス盤 | 工具が回転、材料を固定 | 平面、溝、立体加工 |
ボール盤 | ドリルで穴あけ | 穴、座ぐり、面取り |
マシニングセンタ | NC制御で複合加工が可能 | 穴・溝・平面の一括加工 |
研削盤 | 高速回転の砥石で高精度仕上げ | 微細な仕上げ、高硬度材料対応 |
このように、切削加工に用いられる工作機械はそれぞれの特徴を活かして使い分けられています。初心者の方は、まず「旋盤」と「フライス盤」から理解を始め、徐々にNC機やマシニングセンタといった高度な機械に触れていくことで、確実にステップアップできます。
3. 切削加工の基本的な流れ
切削加工は以下のような工程で進行します。
STEP1:図面の確認
加工する製品の設計図面(CAD図など)を確認し、どのような形状・寸法が求められているのかを把握します。
STEP2:材料の選定と準備
必要な材料(丸棒、板材など)を選定し、加工に適したサイズに切断して準備します。
STEP3:機械へのセッティング
加工機械に材料をセットし、しっかりと固定します。このときに芯出し(中心を合わせる作業)や水平確認などが重要です。
STEP4:切削工具の準備
刃物(バイト、ドリル、エンドミルなど)を選定し、適切に取り付けます。材料の硬さや加工精度によって工具を使い分ける必要があります。
STEP5:加工条件の設定
切削速度、送り速度、切込み量などの条件を設定します。これらは材料や工具に応じて最適な数値が異なります。
STEP6:実加工
加工を開始します。機械を稼働させ、設定した条件で削っていきます。NC機械の場合はプログラムに従って自動で進行します。
STEP7:寸法測定と検査
加工が完了したら、ノギスやマイクロメーターなどで寸法を測定し、図面通りに仕上がっているかを確認します。必要に応じて修正加工を行います。
STEP8:バリ取り・仕上げ
加工後に残るバリ(削りカス)を取り除き、滑らかな表面に仕上げます。美観と安全性、精度のために大切な工程です。
4. 切削加工における重要ポイント
● 加工精度の管理
数ミクロン単位での精度管理が求められることも多く、測定器具や加工条件の最適化が重要です。
● 工具の選定とメンテナンス
切削工具の材質、形状、コーティングの選び方で加工品質が大きく変わります。定期的な交換・研磨も必須です。
● 加工中の冷却・潤滑
切削中は摩擦で高熱が発生するため、切削油やクーラントを使って冷却し、工具の摩耗を防ぎます。
● 安全対策
切粉(削りカス)は高温で鋭利なので、保護メガネや手袋の着用が必要です。特に機械操作中は集中力を切らさないことが大切です。
5. 初心者におすすめの勉強方法
● 工場見学・職場体験
実際に加工の現場を見ることで、加工の流れや音、匂い、職人の動きなどを肌で感じることができます。
● 専門書や動画教材
初心者向けの切削加工ガイドブックやYouTube動画なども豊富にあります。図や映像を交えて理解を深められます。
● 資格取得を目指す
「機械加工技能士」や「旋盤技能士」などの国家資格を目標に学ぶと、体系的な知識と技術が身につきます。
6. まとめ
切削加工は、材料に刃物を当てて形を削り出す、非常に基本的かつ重要な加工方法です。製造業において欠かせない工程であり、手作業からNC機械まで多様な技術が使われています。
初心者の方は、まず「どういう工程で物が削られているのか」「どんな機械と工具があるのか」から理解を始め、実際に触れることで徐々に知識を深めていくと良いでしょう。
ものづくりの現場において、切削加工を理解することは大きな武器となります。ぜひ、この記事をきっかけに、加工の世界に一歩踏み出してみてください。