ろう付け加工関連

◆ろう付けに適した素材・不向きな素材とは?

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はじめに

ろう付け(brazing)は、母材同士を溶融させることなく、加熱によって溶かした「ろう材」を用いて金属を接合する技術である。異種金属の接合や精密部品の組み立てなどに広く利用されており、自動車部品、電子機器、冷暖房設備、建築分野まで多岐にわたる。ろう付けの成功には、母材の選定が極めて重要である。材料によっては濡れ性が悪かったり、酸化被膜が接合を阻害したりするため、適した素材とそうでない素材を理解しておく必要がある。

本稿では、ろう付けに適した金属材料および不向きな素材について、科学的根拠とともに詳述し、実務上の注意点も含めて解説する。


ろう付けにおける接合原理と素材選定の重要性

ろう付けは、ろう材の濡れ性、母材との拡散、合金形成、毛細管現象による流動などが複合的に作用して接合を形成する。そのため、母材の表面状態、化学的性質、熱伝導性、膨張係数などが大きく関与する。

適材適所の材料選定が必要な理由:

  • 接合強度の確保
  • 接合部の気密性、導電性、耐食性の確保
  • 熱変形や割れの抑制
  • 製造工程での加熱温度やろう材との相性への適合性

ろう付けに適した素材

1. 銅(Cu)および銅合金(真鍮、青銅など)

特徴

  • 熱伝導性が高く、均一な加熱がしやすい
  • 銀ろう、銅ろう、りん銅ろうなどとの親和性が高い
  • 酸化被膜が比較的薄く、フラックスで容易に除去可能

主な用途

  • 配管接合(冷媒管)、電気部品、熱交換器

注意点

  • 真鍮(Cu-Zn)は亜鉛の蒸発に注意が必要(高温下での脱亜鉛)

2. ステンレス鋼(SUS304など)

特徴

  • 耐食性が高く、構造材としての用途が広い
  • 高強度かつ耐熱性も兼ね備える

使用ろう材

  • 銀ろう(Ag-Cu系)、ニッケルろう(Ni基ろう)

注意点

  • 表面に不動態酸化皮膜が生成されやすく、ろう材の濡れ性が低下
  • フラックスや還元雰囲気、真空ろう付けなどで対応が必要

3. アルミニウムおよびアルミ合金(A1050、A6061など)

特徴

  • 軽量で導電性が高い
  • 自動車や航空機部品、電子機器で重要な材料

使用ろう材

  • アルミろう(Al-Si系など)、またはフラックス入りアルミロウ棒

注意点

  • 酸化皮膜が極めて安定であり、ろう付け前処理(ブラシ・フラックス)や特殊ろう材が必要
  • 熱に敏感で過熱による軟化・歪みに注意

4. ニッケル(Ni)およびニッケル合金(インコネル、モネルなど)

特徴

  • 高温強度、耐酸化性、耐食性に優れる
  • 真空炉でのろう付けに好適

使用ろう材

  • ニッケル系ろう、または銀ろう(Ag-Ni-Cu系)

注意点

  • 高価な素材であるため、精密制御が求められる

5. 炭素鋼・低合金鋼(SS400、S45Cなど)

特徴

  • 機械構造部品として使用範囲が広い
  • コストパフォーマンスに優れる

使用ろう材

  • 銀ろう、黄銅ろう、銅ろうなどが選択可能

注意点

  • 表面酸化によりろう材が濡れにくくなるため、酸洗いなどの前処理が重要

ろう付けに不向きな素材と理由

1. チタン(Ti)およびチタン合金

問題点

  • 酸化膜が非常に安定しており、ろう材が濡れない
  • 空気中で高温加熱すると酸化・窒化が進行し、脆化する

対処法

  • 真空炉や不活性ガス雰囲気(Ar)下での高精度ろう付けが必要
  • 特殊ろう材(Ti-Ag系など)を用いる場合も

2. マグネシウム(Mg)およびその合金

問題点

  • 酸化しやすく、可燃性が高いため、加熱時の発火リスクあり
  • フラックスの選択肢が極めて少ない

対処法

  • 特殊プロセス(真空、保護雰囲気)+専用ろう材の開発が必要

3. セラミックス(アルミナ、ジルコニアなど)

問題点

  • 金属ではないため、ろう材との濡れ性が低い
  • 熱膨張係数が金属と異なり、割れやすい

対処法

  • 活性金属入りろう材(Ti含有Agろうなど)を用いたり、表面を金属化(Mo-Mn法)することで接合可能な場合もある

4. 鋳鉄(FC、FCDなど)

問題点

  • グラファイト構造によりろう材がしみ込みにくく、接合強度が不安定
  • 脆性破壊のリスクあり

対処法

  • ニッケル系ろうや銀ろうを使い、事前に下地金属をろう材に適応させる手法あり

表:ろう付け適正と使用されるろう材の例(概要)

材料適性主なろう材注意点
銅・銅合金銀ろう、りん銅ろう加熱しすぎると変色・脱亜鉛に注意
ステンレス鋼銀ろう、Ni系ろう酸化皮膜除去が重要
アルミニウム合金Al-Si系ろう酸化皮膜の除去と温度管理が難しい
ニッケル合金Ni系ろう、銀ろう高温ろう付けが前提
炭素鋼・合金鋼銀ろう、銅ろう酸化防止と適切な加熱制御が必要
チタン合金×Ti-Ag系(特殊)真空or保護ガス炉で対応が必要
マグネシウム合金×(特殊ろう材)発火性あり、通常プロセスでは不適
セラミックス×△Ti入りAgろうなど表面金属化などの特殊処理が前提
鋳鉄Ni系ろう、銀ろうグラファイトによる濡れ阻害に注意

まとめ:材料特性を理解した接合設計が鍵

ろう付けは、母材選定・ろう材選定・フラックス・加熱条件といった要素の最適化が必須のプロセスである。特に材料の選定においては、

  • 熱的・化学的特性
  • 酸化皮膜の性質と除去方法
  • ろう材との親和性
  • 加熱プロセスの選択肢(トーチ、炉中、真空など)

といった複数の観点から総合的に判断する必要がある。

現場でのトラブル(濡れ不良、割れ、強度不足など)の多くは、「素材に対する理解不足」に起因するため、本稿で述べた各素材の特性を踏まえた設計・加工が求められる。

今後、軽量化や異種材接合のニーズが高まる中で、ろう付けにおける材料適正の知識はさらに重要性を増していくであろう。

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