ろう付け加工関連

◆ろう付けの温度帯:軟ろうと硬ろうの違い

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はじめに

金属加工の中でも「ろう付け(brazing/soldering)」は、金属同士を強固かつ精密に接合できる優れた技術です。母材を溶融させることなく、比較的低温で作業できることから、部品の変形を防ぎつつ強度の高い接合が可能です。

ろう付けは大きく分けて「軟ろう」と「硬ろう」に分類され、両者の最大の違いは使用する**ろう材の融点(温度帯)**にあります。この記事では、軟ろう・硬ろうそれぞれの特徴、ろう材の種類と用途、接合に用いられる温度範囲、選定のポイントなどについて詳細に解説します。


ろう付けの分類:温度による違い

ろう付けは以下のように、ろう材の融点を基準に分類されます。

種類ろう材の融点一般的な作業温度主な用途例
軟ろう約450℃未満180〜400℃前後電子部品、配管、家庭用品など
硬ろう約450℃以上600〜1200℃自動車部品、航空部品、工具など

この450℃という境界は、JISやISOをはじめとする国際規格でも共通して用いられる基準です。ろう材の融点が450℃未満であれば軟ろう、450℃以上であれば硬ろうに分類されます。


軟ろう付け:特徴と主なろう材

特徴

軟ろう付けは比較的低温で行えるため、熱による母材の変形が抑えられ、電子部品や薄板、装飾品の接合などに適しています。また、加熱手段も簡易なもので済むため、はんだごてやホットプレートなどでも対応可能です。

使用される主なろう材とその詳細

軟ろう付けに使用されるろう材は「はんだ」とも呼ばれ、主成分にスズ(Sn)を用いた合金が多く使用されます。以下に代表的な軟ろう材を紹介します。

ろう材名主成分構成融点特徴・用途
Sn-Pb(鉛入りはんだ)Sn:63%、Pb:37%約183℃電子部品に多用されたが、現在はRoHS規制により減少
Sn-Ag-Cu(SACはんだ)Sn:96.5%、Ag:3%、Cu:0.5%約217℃鉛フリーはんだの代表格。電子機器での標準仕様
Sn-ZnSn:91%、Zn:9%約198℃安価だが酸化しやすく取り扱いに注意が必要。アルミとの接合に使われることも
Sn-Bi(スズ-ビスマス)Sn:58%、Bi:42%約138℃低温で融けるため熱に弱い部品や樹脂部品周辺での使用に適する
Sn-CuSn:99.3%、Cu:0.7%約227℃銅との相性が良く、配線やケーブルの接合に適している
In-Sn(インジウムはんだ)In:52%、Sn:48%約120℃低温対応や柔軟性重視、ガラスとの接合など特殊用途に使用

これらの合金は、使用する母材との親和性、フラックスの種類、電子部品への影響などを総合的に考慮して選定されます。特に鉛フリーはんだ(SAC)は、RoHS(特定有害物質使用制限)に対応した製品であり、現代の電子機器製造においては標準となっています。


硬ろう付け:特徴と主なろう材

特徴

硬ろう付けは、軟ろうよりも高温で行うため、強度・耐熱性に優れる接合が可能です。母材同士の接合強度が高く、長期間の使用に耐えうる構造部品に広く用いられます。接合にはトーチ、電気炉、誘導加熱、真空炉、雰囲気炉などが用いられます。

主なろう材と詳細

硬ろう材には多様な金属系合金が存在し、以下のように分類されます。

銀ろう(Ag系)

名称主成分構成融点範囲特徴・用途
Ag-Cu-ZnAg:45%、Cu:30%、Zn:25%約650〜750℃ステンレスや鉄鋼、銅などとの接合に対応。高強度。
Ag-Cu-PAg:15%、Cu:80%、P:5%約720〜780℃銅配管の接合に使われる。リンによる自助フラックス効果あり。
Ag-Pd系Ag+Pd+Cuなど約720〜820℃医療機器や電子部品など高信頼性用途に使用

銅ろう(Cu系)

名称主成分構成融点範囲特徴・用途
Cu-PCu:93%、P:7%約710〜880℃銅との接合に優れる。空調・冷却配管に使用。酸化しやすいがフラックス不要。
Cu-Zn系Cu:60%、Zn:40%約900℃前後高温部材に対応。コスト安。鉄鋼用に適するが酸化に注意。

ニッケルろう(Ni系)

名称主成分構成融点特徴・用途
Ni-Cr-B-SiNi+Cr+Si+B約950〜1150℃高温耐性に優れ、タービン、ジェットエンジンなどに使用される
Ni-PNi:88%、P:12%約875〜890℃低温で流動性が良好。真空ろう付けに対応。電子部品や真空機器向け

アルミろう(Al系)

名称主成分構成融点特徴・用途
Al-SiAl:88%、Si:12%約577℃アルミニウム同士の接合に使用。熱伝導部品やヒートシンクに対応。

その他特殊合金ろう材

ろう材名用途・特徴
金ろう(Au系)医療機器や航空宇宙産業など極めて高い耐食性・信頼性が要求される用途。融点は950℃前後。高価。
チタンろうチタンやニオブなど高融点金属との接合。真空環境での使用が多い。

ろう材選定のポイント

適切なろう材を選ぶためには、以下の観点が重要です。

  1. 母材との親和性:ろう材が母材によく濡れ、強く付着するか。
  2. 使用温度帯:使用環境が高温か低温かに応じて選定。
  3. 接合強度:構造用途か、単なる電気的導通目的か。
  4. フラックスの有無:リン系ろう材などはフラックスなしでも可。
  5. 環境規制対応:RoHSやREACHなどに適合しているか。
  6. コスト・作業性:使用環境に合ったコストパフォーマンスが得られるか。

おわりに

ろう付けは、融点の異なる「軟ろう」と「硬ろう」に大別され、それぞれが異なる用途、目的、技術要件に応じて使い分けられています。使用するろう材は、合金の組成によって性能が大きく異なり、接合の成否や製品寿命に直結するため、慎重な選定が必要です。

要点まとめ:

  • 融点450℃を境に軟ろう(低温)と硬ろう(高温)に分類。
  • 軟ろうではSn系はんだが主流、硬ろうではAg、Cu、Ni、Al系が用いられる。
  • ろう材の選定は、接合目的、母材、温度条件、環境規制を考慮して行う。
  • 現代ではフラックスレスや鉛フリー、真空ろう付けなど環境対応技術も進展。

将来的にはさらなる接合強度向上、プロセスの自動化、省エネ化が期待されており、ろう材の研究開発も進化を続けています。

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