鉄鋼材料の硬度試験方法(ブリネル・ロックウェル・ビッカース)
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鉄鋼材料の特性を評価するうえで「硬度」は非常に重要な指標です。硬度は、材料の「変形しにくさ」や「摩耗への強さ」を示すものであり、機械部品や構造物の設計、品質管理などに欠かせません。
本記事では、鉄鋼材料でよく使われる代表的な硬度試験方法である「ブリネル硬度試験」「ロックウェル硬度試験」「ビッカース硬度試験」について、それぞれの特徴や測定原理、使い分けのポイントをわかりやすく解説します。
硬度とは何か
硬度の基本的な考え方
硬度とは、材料の表面が他の物体によって「押し込まれたり」「引っかかれたり」したときに、どれだけ抵抗するかを表す指標です。
一般的に「硬い金属ほど変形しにくく、摩耗にも強い」といえます。鉄鋼材料の分野では、熱処理の効果や加工状態、材質のばらつきなどを確認する目的で硬度を測定します。
硬度は「強度」と密接な関係があります。たとえば、引張強さ(引っ張ったときの強さ)と硬度にはある程度の相関があり、硬度から強度を推定することも可能です。
ただし、硬度はあくまで「表面の変形抵抗」を測るものであり、内部の靱性や延性までは直接反映されない点に注意が必要です。
鉄鋼の硬度を測定する目的
鉄鋼材料で硬度試験を行う目的は多岐にわたります。代表的なものは以下の通りです。
- 熱処理後の硬さ確認(焼入れ・焼戻しの状態を確認)
 - 材質の均一性や変質層の確認
 - 製品間の品質比較やロット管理
 - 強度推定や設計基準の評価
 
このように、硬度試験は鉄鋼製品の品質を左右する重要な検査項目です。
硬度試験の分類
硬度試験にはいくつかの種類がありますが、鉄鋼材料では主に以下の3つが用いられます。
- ブリネル硬度試験(HB)
 - ロックウェル硬度試験(HR)
 - ビッカース硬度試験(HV)
 
それぞれの試験方法は、「圧子(押し込み工具)」や「荷重」「測定範囲」が異なり、試験対象の硬さや形状によって使い分けられます。以下で詳しく解説します。
ブリネル硬度試験(Brinell Hardness)
試験の原理
ブリネル硬度試験は、鋼または超硬合金製の球状圧子を一定の荷重で試料表面に押し込み、その後できた「くぼみの直径」から硬度を求める方法です。
押し込みによってできたくぼみの面積に対して、荷重を割ることでブリネル硬度値(HB)が計算されます。
試験条件
試験の代表的な条件は次の通りです。
- 圧子:鋼球または超硬合金球(直径10mmなど)
 - 荷重:500kgf、1500kgf、3000kgf など
 - 測定範囲:軟鋼から中程度の硬さの鋼まで対応
 
圧痕が大きいため、試験面が平坦で、かつ十分な厚みがある試料が必要です。
特徴と利点
- 材料の平均的な硬さを測定できる(広い面積を押し込むため、ばらつきが少ない)
 - 軟らかい鉄鋼や鋳鉄にも適用可能
 - 比較的再現性が高い
 
注意点と欠点
- 圧痕が大きく残るため、小型部品や仕上げ面には不向き
 - 硬すぎる材料(焼入れ鋼など)では、球が変形して誤差が出やすい
 - 測定後に顕微鏡などでくぼみを測るため、手間がかかる
 
ブリネル硬度試験は、鉄鋼の素材試験や鋳鉄製品の品質検査など、「比較的大きな試料」に適しています。
ロックウェル硬度試験(Rockwell Hardness)
試験の原理
ロックウェル硬度試験は、圧子を押し込んだ深さから硬度を求める方法です。
圧子には「鋼球」または「ダイヤモンド円すい」が使用され、荷重をかけた際の押し込み深さを自動的に計測します。
試験手順は以下の通りです。
- 小荷重(予備荷重)をかけて基準位置を決定
 - 本荷重を加えて一定時間保持
 - 荷重を除いた後のくぼみの深さを測定
 
この深さを指標化したものがロックウェル硬度(HR)です。
試験条件とスケール
ロックウェル硬度には多数の「スケール」が存在します。代表的なものは以下の通りです。
- HRBスケール:鋼球圧子+100kgf(軟鋼・黄銅など)
 - HRCスケール:ダイヤモンド圧子+150kgf(焼入れ鋼など)
 
測定結果は「HRC 60」「HRB 90」といった形で表記されます。
特徴と利点
- 測定が迅速で、操作が容易
 - 圧痕が小さく、製品の検査に向く
 - 測定値を自動で読み取れるため、作業者による誤差が少ない
 - 多様なスケールで、軟鋼から焼入れ鋼まで幅広く対応可能
 
注意点と欠点
- 測定面が荒れていると誤差が出やすい
 - 試料が薄すぎると、押し込みが裏面に影響して正確な値が得られない
 - 異なるスケール間での換算には注意が必要
 
ロックウェル硬度試験は、生産現場で最も多用される硬度試験であり、鉄鋼部品の出荷検査や焼入れ状態の確認などに非常に適しています。
ビッカース硬度試験(Vickers Hardness)
試験の原理
ビッカース硬度試験は、ダイヤモンドの四角すい圧子を用いて試料表面に荷重を加え、できたくぼみの「対角線の長さ」から硬度を求める方法です。
圧子の角度(対面角)は136°で、これはブリネル硬度の結果と近似しやすいように設計されています。
試験条件
- 圧子:ダイヤモンド四角すい(136°)
 - 荷重:1kgf〜100kgf(通常のビッカース試験)
 - 測定範囲:非常に広く、軟鋼から超硬合金まで対応可能
 
また、微小荷重(数グラム)で測定する「マイクロビッカース硬度試験」もあり、表面層や薄膜の硬さ測定に使われます。
特徴と利点
- 幅広い硬さ範囲に対応(軟質から硬質まで)
 - 圧痕の形状が明確で、再現性が高い
 - 小面積でも測定可能で、顕微鏡観察と併用できる
 - 他の試験方法との相関性が高い(HBやHRと近似換算が可能)
 
注意点と欠点
- 顕微鏡による圧痕測定が必要で、操作に熟練を要する
 - 表面の仕上げ状態に影響を受けやすい
 - 測定にやや時間がかかる
 
ビッカース硬度試験は、精密部品や熱処理層、溶接部の硬度分布測定などに最適で、研究開発や品質保証部門で広く用いられています。
試験方法の比較と使い分け
| 試験方法 | 圧子 | 主な用途 | 特徴 | 適用例 | 
|---|---|---|---|---|
| ブリネル(HB) | 鋼球・超硬球 | 鋳鉄・軟鋼 | 広い面積で平均硬度 | 素材検査、鋳物 | 
| ロックウェル(HR) | 鋼球・ダイヤ | 一般鉄鋼 | 簡便で速い測定 | 製品検査、焼入れ部品 | 
| ビッカース(HV) | ダイヤ四角すい | 広範囲 | 微小部も測定可 | 表面硬度、溶接部 | 
簡単にまとめると以下のように使い分けられます。
- 素材評価や鋳物の硬さ確認 → ブリネル硬度
 - 量産品や品質管理 → ロックウェル硬度
 - 精密測定や薄層の評価 → ビッカース硬度
 
硬度換算と注意点
異なる試験方法間で硬度を比較するために、経験的な換算表が用いられます。
たとえば、HRC 30 はおおよそ HV 285、HB 290 程度に相当します。
ただし、材質や組織の違いにより完全には一致しないため、あくまで目安として利用します。
また、試験を行う際には以下の点に注意が必要です。
- 試料表面は平滑に仕上げる
 - 試料厚みは圧痕深さの10倍以上を確保する
 - 試験前に油分やスケールを除去する
 - 熱処理材では温度や組織の影響を考慮する
 
これらを守ることで、再現性の高い正確な硬度データを得ることができます。
まとめ
鉄鋼材料の硬度試験は、製品の品質や強度を判断するうえで欠かせない基本的な評価方法です。
代表的な3つの試験法にはそれぞれ明確な特徴があります。
- ブリネル硬度試験:平均的な硬さを求めるのに適する
 - ロックウェル硬度試験:迅速で量産検査に向く
 - ビッカース硬度試験:精密測定や微小部に対応
 
測定対象の材質、形状、硬さ範囲に応じて最適な方法を選ぶことが重要です。
正確な硬度測定は、鉄鋼製品の信頼性を高め、加工条件や熱処理工程の最適化にもつながります。
硬度試験を正しく理解し、適切に活用することが、鉄鋼材料の品質管理において大きな武器となるのです。
いかがでしたでしょうか?
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