鉄の磁性と非磁性化の条件
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金属の中でも「鉄」は特に強い磁性を持つ物質として知られています。磁石がくっつく代表的な金属といえば鉄であり、私たちの身近な生活から産業分野まで幅広く利用されています。しかし、同じ鉄でも条件によっては磁性を失い、非磁性化することがあります。この記事では、鉄の磁性が生じる仕組みと、どのような条件で磁性を失うのかについて、わかりやすく解説します。
鉄の磁性の基本
鉄の磁性は「電子のスピン」によって生じます。電子は小さな磁石のような性質を持っており、それぞれがスピンという自転運動をしています。スピンには上向きと下向きがあり、これらが互いに打ち消し合うと磁性は現れません。しかし、鉄の場合は電子の配置に偏りがあり、スピンの向きが揃う傾向があります。これが「強磁性」と呼ばれる性質です。
鉄原子は電子軌道のうち、3d軌道に不対電子を持っています。この不対電子のスピンが互いに平行に揃うことで、原子全体として磁気モーメントを持ちます。これらが結晶中で集団的に同じ方向を向くと、全体として磁石のような性質が現れるのです。
このスピンの整列は「交換相互作用」と呼ばれる量子力学的な効果によって維持されています。交換相互作用は、電子の波動関数が重なり合う際のエネルギー的な安定性に由来します。つまり、スピンが揃うことでエネルギー的に有利になるため、自然に磁性が発現するのです。
鉄の結晶構造と磁性
鉄の磁性は、その結晶構造とも密接に関係しています。鉄には主に「α鉄(フェライト)」「γ鉄(オーステナイト)」「δ鉄」という三つの結晶相があります。
- α鉄(フェライト):体心立方構造(BCC)で、室温から約912℃まで安定。この相では強い強磁性を示します。
 - γ鉄(オーステナイト):面心立方構造(FCC)で、約912℃から1394℃まで安定。この構造では強磁性を失い、常磁性になります。
 - δ鉄:高温(1394℃以上)で再び体心立方構造に戻りますが、この段階では磁性はほとんど失われています。
 
このように、鉄の結晶構造の違いが磁性の有無に大きく影響しています。特にα鉄からγ鉄への変態温度(約770℃)は「キュリー温度」と呼ばれ、この温度を超えると鉄は磁性を失います。
キュリー温度と磁性の消失
鉄の磁性が消失する重要な境界温度が「キュリー温度」です。鉄の場合、この温度は約770℃です。キュリー温度以上では、熱エネルギーがスピンの整列を乱すため、磁性が失われてしまいます。
この現象は、強磁性から常磁性への転移として知られています。キュリー温度以下では、スピンが同じ方向に整列して磁場を作りますが、温度が上がるとスピンが熱振動によってランダムな方向を向くようになり、結果的に磁気モーメントの平均がゼロになります。
興味深いことに、キュリー温度を超えても鉄原子自体は依然としてスピンを持っています。ただし、それらが全体的に整列しないため、マクロ的には磁性が観測されないのです。
合金化による磁性変化
鉄の磁性は、他の金属と合金化することで変化します。たとえば、鉄とニッケルを混ぜた「パーマロイ」や「インバー」などは、磁気特性が大きく異なります。ニッケルを加えることで磁性が安定化することもあれば、逆に磁性が弱まる場合もあります。
また、クロムやマンガンを加えると磁性が大きく減少します。ステンレス鋼(鉄とクロムの合金)はその代表例であり、非磁性のオーステナイト系ステンレス(SUS304など)は磁石にくっつきません。これは、クロムやニッケルの添加によって結晶構造が面心立方構造(FCC)に変化し、スピンの整列が阻害されるためです。
一方で、フェライト系ステンレス(SUS430など)は体心立方構造を保つため、磁性を持ちます。このように、合金化によって鉄の結晶構造と電子構造が変化し、それが磁性の有無を決定するのです。
圧力と磁性
鉄の磁性は温度だけでなく、圧力によっても変化します。高圧下では、原子間距離が縮まり、電子の波動関数が強く重なり合います。これにより交換相互作用のバランスが変化し、スピンの整列が抑制されることがあります。
実際に、超高圧状態では鉄が非磁性化することが実験的に確認されています。この性質は地球の内部構造を理解する上でも重要です。地球の核は主に鉄で構成されていますが、中心部では極めて高温・高圧のため、磁性を持たないと考えられています。
鉄の磁性を応用した技術
鉄の磁性は、私たちの生活や産業技術に欠かせない役割を果たしています。代表的な応用分野としては、以下のようなものがあります。
- 電磁石やモーター:磁場を発生させるために鉄芯が利用される。
 - 変圧器のコア:磁束を効率よく伝えるために高透磁率の鉄系材料が使われる。
 - 磁気記録媒体:ハードディスクや磁気テープなどに磁性体を利用。
 - 磁気センサー:磁場の変化を電気信号として検出。
 
これらの応用では、磁性の強さや安定性、磁気特性の制御が非常に重要です。そのため、純鉄だけでなく、合金や微細構造を制御した磁性材料が多く研究・開発されています。
非磁性化を防ぐための工夫
工業的には、鉄の磁性をできるだけ維持することが求められる場合も多くあります。たとえば、電磁鋼板では損失を減らすために不純物をできる限り除去し、結晶粒の方向を制御して磁化のしやすさを高めています。
また、磁気特性の劣化を防ぐために、加熱処理(アニール)や表面処理が行われます。これにより、残留応力や欠陥を減らし、スピンの整列を安定化させることができます。
まとめ
鉄の磁性は、電子スピンの整列によって生じる量子力学的な現象です。その発現や消失は、温度・結晶構造・合金成分・圧力など、さまざまな要因に左右されます。特にキュリー温度や合金化による結晶構造の変化は、磁性を制御する上で非常に重要なポイントです。
磁性材料の研究は、電力変換、データ記録、エネルギー効率化など、現代社会の基盤を支える分野でもあります。鉄の磁性を理解することは、物理学的な興味だけでなく、未来のテクノロジー発展にもつながる重要なテーマと言えるでしょう。
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