鉄の焼入れ性試験(ジョミニー試験)とは
										金属加工.comをご覧いただき、誠にありがとうございます。
本サイトは、山梨県・長野県にて切削加工やろう付けを行っている 北東技研工業株式会社 が運営しております。
金属加工に関するお困りごとがございましたら、ぜひお気軽に当社までご相談ください。
鉄や鋼材の熱処理において、「焼入れ性(やきいれせい)」は非常に重要な性質です。これは、材料がどの程度まで焼入れによって硬化するか、つまり内部までどれだけ硬さを得られるかを示す指標です。そして、その焼入れ性を定量的に評価するために行われるのが「ジョミニー試験(Jominy試験)」です。本記事では、ジョミニー試験の目的や方法、結果の見方、さらには焼入れ性に影響を与える要因について、わかりやすく解説します。
焼入れ性とは
焼入れと焼入れ性の違い
まず混同されやすい「焼入れ」と「焼入れ性」の違いを理解しておきましょう。
**焼入れ(quenching)**とは、鋼を高温に加熱した後に急冷して、マルテンサイトなどの硬い組織を得る熱処理のことを指します。一方、**焼入れ性(hardenability)**は、「焼入れしたときにどの程度内部まで硬化するか」という材料の特性を意味します。
たとえば、同じように焼入れを行っても、鋼の種類によっては表面だけ硬くなるもの、中心部までしっかり硬くなるものがあります。この「硬さの到達深さ」を定量的に評価するために行うのが、ジョミニー試験です。
焼入れ性の重要性
焼入れ性は、部品の強度や靭性に直結します。自動車や産業機械などでは、ギヤやシャフトのように「中心部まで十分な強度が必要な部品」も多く存在します。そのため、材料選定の段階で焼入れ性を把握しておくことは、設計・製造の両面で非常に重要です。
ジョミニー試験とは
試験の目的
ジョミニー試験(Jominy end-quench test)は、鋼の焼入れ性を比較・評価するために用いられる標準試験法です。この試験は、試験片の片端のみを水で急冷し、試験片の長さ方向に生じる硬さ分布を測定することで、その材料がどの程度まで硬化するかを確認するものです。
試験方法の概要
ジョミニー試験の手順は、以下のように進められます。
- 試験片の準備
直径25mm、長さ100mm程度の円柱状の試験片を使用します。この試験片はあらかじめオーステナイト化(約850〜900℃に加熱)させます。 - 水噴流による一端焼入れ
試験片を加熱後、下端から直径12.5mmほどの水噴流を当てて急冷します。これにより、冷却速度が端から中心に向かって徐々に遅くなるようになります。 - 硬さ測定
試験後、試験片の側面を研磨し、冷却端からの距離に応じて硬さ(通常はロックウェル硬さHRC)を一定間隔で測定します。 
このように、ジョミニー試験では「一端からの距離と硬さの関係」を調べることで、材料の焼入れ性を定量的に把握します。
ジョミニー試験の原理
冷却速度の分布
ジョミニー試験の特徴は、試験片の長さ方向に異なる冷却速度を得られることにあります。
冷却端に近い部分は水流によって急冷されるため、マルテンサイト変態が起こり非常に硬くなります。反対に、端から離れるにつれて冷却速度が遅くなり、パーライトやベイナイトなどの比較的軟らかい組織が生成します。
このため、冷却端から離れるほど硬さは徐々に低下し、その硬さ分布曲線から焼入れ性を評価することができるのです。
組織変化と硬さの関係
鋼の焼入れによる組織変化は、冷却速度によって決まります。急冷するとマルテンサイト、やや緩やかだとベイナイト、さらに遅いとパーライトとなります。
ジョミニー試験では、試験片の位置ごとに異なる組織が形成されるため、位置ごとの硬さがそのまま冷却速度や変態挙動を反映します。
試験結果の評価方法
硬さ分布曲線
ジョミニー試験の結果は、横軸に「冷却端からの距離(mm)」、縦軸に「硬さ(HRC)」をとったジョミニー曲線として表されます。
例えば、ある鋼では0〜10mmの範囲でHRC60以上の硬さを示し、30mmを超えるとHRC40程度まで低下するような結果になることがあります。この曲線の形状が「焼入れ性の高低」を示す重要な指標です。
焼入れ性の高い鋼と低い鋼の違い
焼入れ性の高い鋼ほど、曲線が緩やかに低下します。つまり、冷却端から離れても高い硬さを維持することができ、深部まで硬化していることを意味します。
一方、焼入れ性の低い鋼では、冷却端からわずかに離れただけで急激に硬さが低下します。これは、表面付近しか硬化しないタイプの鋼に見られる特徴です。
焼入れ性に影響を与える要因
合金元素の影響
焼入れ性は、主に鋼に含まれる合金元素によって大きく変化します。
以下は代表的な元素とその影響です。
- クロム(Cr):焼入れ性を大きく向上させる。工具鋼や構造用鋼によく添加される。
 - モリブデン(Mo):ベイナイトやパーライトの生成を抑え、深部硬化性を改善する。
 - マンガン(Mn):焼入れ性を上げるとともに、焼戻し脆性を防ぐ効果もある。
 - ニッケル(Ni):焼入れ性を高めるが、靭性も同時に向上させるためバランスが良い。
 - 炭素(C):硬さそのものを左右するが、過剰に多いと靭性が低下する。
 
これらの元素を適切に組み合わせることで、求める機械的特性に合った鋼材を設計することができます。
オーステナイト粒径
焼入れ前のオーステナイト粒の大きさも、焼入れ性に影響します。粒が大きいほど炭化物の核生成が減少し、マルテンサイト変態が進みやすくなるため、焼入れ性が高まります。ただし、粒が粗大化しすぎると靭性が低下するため、適度な粒径管理が必要です。
加熱・冷却条件
ジョミニー試験は標準化された条件で行われますが、実際の熱処理現場では、焼入れ温度や冷却媒質の種類(水、油、空気など)も結果に影響します。同じ鋼でも冷却速度が異なれば、得られる硬さや組織も変化します。
ジョミニー試験の応用と活用例
材料選定への活用
自動車部品や産業機械の設計では、「必要な硬化深さ」を満たす材料を選定する必要があります。ジョミニー曲線を参照することで、焼入れ後にどの程度の深さまで硬化が得られるかを予測できるため、設計段階での材料比較に役立ちます。
熱処理条件の最適化
同じ鋼材でも、焼入れ温度や時間を変えることで焼入れ性を調整することができます。ジョミニー試験のデータは、これらの条件設定を検討する際の重要な参考資料となります。
品質管理
鋼材メーカーでは、製品ロットごとにジョミニー試験を実施して焼入れ性を確認し、規格値を満たしているかをチェックします。特に、構造用合金鋼では「JIS G 0561」などの規格に基づいた試験が行われます。
まとめ
ジョミニー試験は、鉄や鋼の**焼入れ性(内部までの硬化能力)**を評価するための標準的な試験方法です。試験片の一端を急冷し、距離に応じた硬さ分布を測定することで、材料がどの程度まで硬化するかを把握できます。
焼入れ性の高さは、材料中の合金元素や粒径、熱処理条件などに強く影響されます。したがって、ジョミニー試験の結果を理解することは、材料選定・熱処理設計・品質管理のいずれにおいても欠かせない要素です。
鉄鋼材料を扱う現場では、このジョミニー試験を通じて得られるデータが、強度・靭性・耐摩耗性といった性能を最適化するための基礎となっています。焼入れ性を正しく理解し、活用することが、高品質な製品づくりの第一歩といえるでしょう。
いかがでしたでしょうか?
金属加工.comでは、他にも金属加工関連の情報を発信しております。他にも気になる記事がありましたら、是非ご覧ください。
金属加工.comのトップページはこちら↓

関連記事はこちら↓

