鉄のアーク溶接で起きやすい欠陥と原因
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アーク溶接は、鉄鋼材料の接合に広く用いられている溶接方法です。比較的シンプルな装置で高強度な接合が得られることから、建築、造船、機械、車両、配管など、あらゆる分野で使用されています。しかし、アーク溶接は作業条件や技術によって品質が左右されやすく、欠陥が発生しやすい工程でもあります。ここでは、鉄のアーク溶接でよく見られる代表的な欠陥とその原因、さらに防止策について詳しく解説します。
アーク溶接における代表的な欠陥の種類
鉄のアーク溶接で発生しやすい欠陥には、以下のようなものがあります。
- ピット(気孔)
 - 溶け込み不良
 - スラグ巻き込み
 - 割れ(冷却割れ・熱割れ)
 - アンダーカット
 - オーバーラップ
 - 溶接金属のブローホール
 - 溶接金属の変形・歪み
 
これらの欠陥は外観で確認できるものもあれば、内部で発生し非破壊検査を行わなければ分からないものもあります。以下では、それぞれの欠陥の特徴と原因を詳しく見ていきましょう。
ピット・気孔の発生と原因
アーク溶接で最も一般的に見られる欠陥のひとつが「気孔」です。気孔とは、溶接金属内部にガスが閉じ込められてできた空洞のことを指します。
主な原因
- 溶接面の油分・水分・サビなどの汚染
 - 溶接棒やワイヤの吸湿
 - 電流が低すぎてアークが不安定になる
 - 溶接速度が速すぎてガスが抜けきらない
 - 風の影響によるシールドガスの乱れ(特にMAGやTIG溶接)
 
鉄のアーク溶接では、母材表面に付着した油やサビが高温で分解し、ガスを発生させることが多いです。このガスが溶融金属中に取り込まれ、冷却時に抜けきらず気孔として残ります。
防止策
- 溶接前に母材表面をワイヤブラシや溶剤で清掃する
 - 溶接棒は使用前に乾燥炉で十分に乾燥させる
 - 適切な電流値を設定し、アークの安定性を確保する
 - 屋外では風防を設置するなどしてガスシールドを安定させる
 
溶け込み不良の原因
「溶け込み不良」は、溶接金属が母材に十分に融合していない状態を指します。外観上は問題なく見えても、内部で接合が不十分な場合があり、強度不足や破断の原因となります。
主な原因
- 溶接電流が低すぎる
 - 溶接速度が速すぎる
 - 開先角度や間隔が不適切
 - アークの角度がずれている
 - 溶接棒の操作が不安定
 
特に厚板の溶接や多層盛りの場合、根元まで十分に熱が届かないことによって、部分的な融合不良が起こりやすくなります。
防止策
- 適切な溶接条件(電流・電圧・速度)を設定する
 - 開先を適切に加工し、十分な溶け込みが得られる形状にする
 - 初層のアーク操作を慎重に行う
 - 定期的に断面確認を行い、融合状態を確認する
 
スラグ巻き込みの発生と原因
被覆アーク溶接では、スラグが溶接金属表面に浮き上がり、冷却後に容易に除去できるのが正常です。しかし、溶融金属の流動が不適切な場合や、スラグ除去を怠った場合などに「スラグ巻き込み」と呼ばれる欠陥が生じます。
主な原因
- 溶接姿勢が不適切(特に立向きや上向き)
 - 溶接棒操作が不安定でスラグが前方に流れ込む
 - 前層のスラグ除去が不十分
 - 電流が低すぎて溶融池が狭い
 
スラグ巻き込みは外観上わかりにくく、後の検査で発覚することが多い欠陥です。
防止策
- 各層ごとにスラグを確実に除去する
 - 適正な電流・速度・角度を維持する
 - 溶接姿勢に応じた溶接棒操作法を習得する
 
割れ(冷却割れ・熱割れ)の発生メカニズム
溶接割れは最も危険な欠陥の一つであり、接合部の破断や事故の原因となります。割れには大きく分けて「熱割れ」と「冷却割れ(遅れ割れ)」の2種類があります。
熱割れの特徴と原因
熱割れは、溶接直後の高温状態で発生する割れで、主に溶融金属の凝固収縮や不純物の偏析によって生じます。
- 炭素・硫黄・リンなどの不純物が多い
 - 溶接金属の冷却が急すぎる
 - 開先設計や拘束が強い
 
冷却割れ(遅れ割れ)の特徴と原因
冷却割れは、溶接後に時間をおいてから発生することが多く、水素が主な原因となります。
- 溶接棒や母材に含まれる水分から水素が混入
 - 溶接部に残留応力が多い
 - 溶接後の冷却が早すぎる
 
防止策
- 溶接棒・ワイヤの乾燥管理を徹底する
 - 低水素系溶接棒を使用する
 - 予熱・後熱処理を適切に行う
 - 開先拘束を緩め、応力集中を避ける
 
アンダーカットとオーバーラップ
アンダーカットとは、母材の端部が削り取られたようにえぐれてしまう欠陥です。一方、オーバーラップは溶融金属が母材に融合せず、外側に盛り上がるように固まる現象を指します。
主な原因
- アンダーカット:電流が高すぎる、溶接速度が速すぎる、角度不良
 - オーバーラップ:電流が低すぎる、速度が遅すぎる、トーチ角度不良
 
これらは主に操作技術に起因する欠陥であり、外観で比較的容易に確認できます。
防止策
- 溶接条件を適正化する(電流・速度・角度)
 - 一定速度でトーチまたは棒を移動させる
 - 継ぎ目の端部は丁寧に処理する
 
ブローホールとピットの違い
ブローホールは気孔と似ていますが、より大きなガスの空洞を指します。ピットが微細な気泡なのに対し、ブローホールは直径1mm以上の空洞で、特に高電流や不安定なアークで発生しやすい傾向があります。
主な原因
- シールドガスが乱れる
 - トーチの距離が一定でない
 - 溶接姿勢に対してガス流量が不足
 - 母材表面に油分や湿気がある
 
防止策
- ガス流量を安定させる
 - 溶接姿勢に応じてトーチ角度を調整
 - 表面清掃と乾燥を徹底する
 
溶接変形・歪みの原因と抑制
鉄は熱膨張率が比較的大きいため、溶接時の加熱と冷却によって変形や歪みが生じやすい材料です。
主な原因
- 溶接熱による局部膨張・収縮
 - 拘束のある状態で溶接を行う
 - 片側のみの溶接で熱が偏る
 
防止策
- 対称溶接を行い、熱分布を均一にする
 - クランプや治具で固定し、変形を最小限にする
 - 溶接順序を工夫して応力を分散させる
 
欠陥防止のための基本的なポイント
鉄のアーク溶接で欠陥を防ぐためには、次の3つの基本を押さえることが重要です。
- 母材と溶接材料の管理
・溶接棒やワイヤは湿気を避けて保管する
・母材は油・サビを除去して清浄な状態にする - 溶接条件の最適化
・材質・板厚に応じた電流・電圧を選定する
・溶接速度を一定に保ち、アーク長を安定させる - 溶接技術の習熟
・姿勢別(下向き・横向き・立向き・上向き)の操作を練習する
・開先形状や層間温度を適切に管理する 
まとめ
鉄のアーク溶接は、多様な構造物を支える重要な加工技術ですが、熱・ガス・応力など多くの要因が絡み合う複雑な工程でもあります。欠陥は一見小さなものでも、疲労破壊や腐食進行の原因となることがあります。そのため、清浄な母材・適正な溶接条件・熟練した操作の三拍子が欠かせません。
特に量産や重要構造物においては、外観検査だけでなく、非破壊検査(UT・RT・PTなど)を併用し、内部品質を確認することが品質保証の鍵となります。欠陥を未然に防ぎ、安全で信頼性の高い鉄構造物を実現するためには、日常的な管理と技術の積み重ねが何より重要です。
いかがでしたでしょうか?
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