鉄とステンレスの環境負荷比較
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鉄とステンレスの環境負荷を考える
近年、製造業では「環境負荷の低減」が大きなテーマとなっています。特に鉄やステンレスといった金属材料は、あらゆる産業で使われるため、その製造や使用、廃棄の過程でどの程度環境に影響を与えるのかが重要視されています。本記事では、鉄とステンレスの環境負荷を比較し、それぞれの特徴や改善の方向性について解説します。
原材料の採取と製造における環境負荷
鉄の製造過程と環境影響
鉄は主に鉄鉱石を高炉で還元して製造されます。この工程では、コークス(石炭)を燃料として用いるため、大量の二酸化炭素(CO₂)が排出されます。世界のCO₂排出量のうち、製鉄業だけで約7〜9%を占めるといわれるほどです。
また、鉄鉱石の採掘に伴う土地の破壊や、運搬に伴うエネルギー消費も無視できません。とはいえ、鉄のリサイクル率は非常に高く、スクラップ鉄を再利用する「電炉製鋼」ではCO₂排出を大幅に抑制できます。再生材を活用することで、環境負荷を3分の1以下に抑えることも可能です。
ステンレスの製造過程と環境影響
ステンレス鋼は、鉄にクロム(Cr)やニッケル(Ni)などを加えた合金です。錆びにくく、耐久性が高い点が魅力ですが、その製造工程には特殊な合金元素が関わるため、鉄よりも製造時の環境負荷が高くなります。
特にニッケルやクロムの採掘には多くのエネルギーを必要とし、採掘地の森林破壊や水質汚染が問題視されています。さらに、これらの金属資源は限りがあるため、サプライチェーン上の環境負荷だけでなく、資源枯渇リスクの面でも課題があります。
使用段階における環境負荷の違い
鉄の耐久性とメンテナンス負荷
鉄は安価で加工性に優れる一方、錆びやすいという弱点を持ちます。そのため、防錆塗装やメッキなどの表面処理が必要となり、長期的にみるとメンテナンスコストや環境負荷がかさみます。塗装のやり直しや腐食による部品交換は、資源とエネルギーの追加消費につながります。
つまり、使用期間が長い構造物や設備では、鉄のメンテナンスが環境に与える影響は無視できません。
ステンレスの耐久性と省メンテナンス性
一方、ステンレスは非常に耐食性が高く、長期間メンテナンスをほとんど必要としません。建築物や厨房機器、医療機器など、清潔さと耐久性が求められる分野で広く使われているのはそのためです。
初期製造時の環境負荷は高いものの、長期的に見ると交換や塗装などが不要なため、「ライフサイクル全体」での環境負荷は鉄よりも小さくなる場合があります。特に数十年単位で使用される設備では、ステンレスの方がトータルで環境に優しいと考えられます。
リサイクル性と資源循環の観点
鉄のリサイクル率の高さ
鉄は「最もリサイクルされる金属」といわれるほど、再利用が容易な素材です。磁性があるため分別もしやすく、スクラップから新しい製品を作るリサイクル体制が確立しています。
電炉でスクラップ鉄を溶かして再生する際のエネルギー消費量は、新規製造の30〜40%程度に抑えられます。そのため、再生鉄を活用すれば環境負荷の削減に直結します。
ステンレスのリサイクル課題と現状
ステンレスもリサイクル可能な金属ですが、鉄ほど単純ではありません。複数の合金元素が含まれるため、リサイクルの際には成分の調整が必要です。特にニッケルやクロムの含有量を一定に保つには、高度な選別・再精製技術が求められます。
しかし、ステンレス業界では近年リサイクル材の活用が進み、製造されるステンレスの約60%はリサイクル原料由来ともいわれています。リサイクル技術の進歩により、将来的には鉄に匹敵する資源循環効率が期待されています。
環境負荷を左右する要素
製造エネルギーとCO₂排出
環境負荷を測る上で最も重要な指標の一つがCO₂排出量です。鉄の高炉プロセスでは1トンあたり約2トンのCO₂を排出しますが、ステンレスは原材料の精錬を含めると約2.5〜3トンに達することもあります。
ただし、再生材を多く使う場合には排出量を半分以下に削減できるため、「どのような素材を、どんなプロセスで作るか」によって大きな差が生まれます。
使用寿命とライフサイクル評価(LCA)
環境負荷の評価では、単に製造段階のCO₂排出だけでなく、「製品寿命」を含めたライフサイクル全体を考える必要があります。
例えば、鉄製の構造物が10年ごとに塗装を必要とするのに対し、ステンレス製なら50年以上メンテナンス不要で使用できるケースもあります。この場合、製造時の環境負荷が高くても、結果的にはステンレスの方が総排出量が少なくなることもあります。
鉄とステンレスの環境改善の取り組み
鉄鋼業界の脱炭素化の動き
鉄鋼業界では、近年「水素還元製鉄」などの新技術が注目されています。従来の石炭の代わりに水素を使って鉄鉱石を還元することで、CO₂ではなく水蒸気を発生させる仕組みです。この技術が実用化されれば、鉄の製造による温室効果ガス排出は大幅に減少します。
また、電炉の導入拡大や再生エネルギーによる操業も進んでおり、鉄の環境負荷は着実に改善しています。
ステンレス業界の持続可能化への取り組み
ステンレスメーカーも、環境配慮型製造へのシフトを進めています。リサイクル原料の使用比率を上げるほか、製造工程でのエネルギー効率化、廃液処理の高度化、グリーン電力の利用などが進行中です。
また、ステンレスは「長寿命」「再利用性」という特性自体が環境価値とされ、サステナブル素材としての地位を確立しつつあります。
用途ごとの環境適性
鉄とステンレスのどちらが環境に優しいかは、一概には言えません。使用環境や目的によって最適解が変わるためです。
例えば、短期的に大量生産される建材や機械部品では、リサイクルが容易でコストの低い鉄が有利です。
一方、長期間メンテナンスが難しい設備や衛生的環境が求められる場面では、ステンレスの方がトータルで環境負荷を抑えられます。つまり、「耐久性」「リサイクル性」「使用年数」を総合的に考慮することが重要です。
まとめ
鉄はリサイクル効率が高く、低コストで大量生産できるという強みがあります。一方で、製造時のCO₂排出が大きく、防錆などの維持管理が必要です。
ステンレスは製造時の環境負荷が高いものの、長期使用に耐えるため、ライフサイクル全体で見れば環境に優しい素材になり得ます。
両者はそれぞれに長所と短所があり、用途や使用期間、リサイクル体制の有無によって環境負荷は大きく変わります。今後は、脱炭素技術や再生材の活用を進めることで、どちらの素材もより環境に優しい形で活用されていくでしょう。
いかがでしたでしょうか?
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