耐熱ステンレスの種類と用途
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ステンレス鋼と聞くと、まず「錆びにくい金属」というイメージを持つ人が多いでしょう。しかし、ステンレスにはさまざまな種類があり、その中には高温環境でも優れた強度や耐食性を保つ「耐熱ステンレス」と呼ばれるグループがあります。耐熱ステンレスは、火力発電所のボイラー、化学プラント、排気ガスシステム、さらには航空宇宙分野まで、多岐にわたる分野で欠かせない存在です。ここでは、耐熱ステンレスの特徴や代表的な種類、そして用途について詳しく解説していきます。
耐熱ステンレスとは何か
耐熱ステンレスとは、高温環境においても強度の低下や酸化の進行を抑え、安定して使用できるステンレス鋼の総称です。一般的なステンレスでもある程度の耐熱性を持ちますが、600℃を超える環境になると急激に強度が低下したり、表面に厚い酸化スケールが生成して劣化したりします。そこでクロムやニッケルの含有量を調整し、場合によってはモリブデン、タングステン、ニオブなどを添加することで、高温に特化した特性を持たせたものが耐熱ステンレスです。
耐熱ステンレスは大きく分けると以下の二つの性能が重要です。
- 高温強度:高温下でも変形や破断を起こしにくい性質。
 - 耐酸化性:空気中や燃焼ガス中で酸化スケールが生成しても、それ以上の腐食が進まない性質。
 
この二つの性能のバランスによって、使用環境ごとに適した耐熱ステンレスが選ばれています。
耐熱ステンレスの分類
耐熱ステンレスは組織や合金成分によっていくつかの種類に分類されます。代表的な分類を見てみましょう。
フェライト系耐熱ステンレス
フェライト系はクロムを主成分とし、ニッケルをほとんど含まない組成です。比較的安価で熱膨張係数が小さく、熱疲労に強いという特徴があります。ただし高温強度はオーステナイト系に比べて劣るため、主に酸化スケールの発生を抑える目的で使われます。
代表例:SUS430、SUS446 など。
マルテンサイト系耐熱ステンレス
クロムに加えて炭素を含み、熱処理によって強度を高められるタイプです。高温強度があり、タービンブレードやボイラー部品に用いられることがあります。ただし耐食性はオーステナイト系より劣るため、環境によっては腐食対策が必要です。
代表例:SUS410、SUS420J2 など。
オーステナイト系耐熱ステンレス
クロムとニッケルを多く含み、耐酸化性と高温強度のバランスに優れたタイプです。耐熱ステンレスの中で最も広く使用され、化学プラントや発電設備、自動車の排気系部品など多様な用途があります。
代表例:SUS310S、SUS316H、SUS347H など。
析出硬化系ステンレス
銅やアルミ、ニオブなどを添加し、析出硬化処理によって高い強度を得ることができます。耐熱性と機械的強度を兼ね備えており、航空機部品や高温用機械部品に採用されます。
耐熱ステンレスの代表的な鋼種
ここでは実際によく利用される耐熱ステンレス鋼をいくつか取り上げ、その特徴を解説します。
SUS310S
高温酸化に強く、1000℃近い環境でも使用可能なオーステナイト系耐熱ステンレスです。クロムとニッケルを多量に含むため、優れた耐酸化性を持ち、炉部品や燃焼機器に使われます。
SUS316H
SUS316 の高温強度を高めたバージョンで、モリブデンの添加によって耐食性も強化されています。化学プラントや高温配管など、強度と耐食性を同時に求められる環境に適しています。
SUS321・SUS347
ニオブやチタンを添加して鋭敏化(粒界腐食)の発生を防いだ耐熱ステンレスです。溶接構造物に多用され、発電設備や化学装置に用いられます。
SUS446
フェライト系耐熱ステンレスの代表格で、クロムを27%程度含み、耐酸化性に優れています。高温腐食が問題となる環境で有効ですが、加工性はやや劣ります。
耐熱ステンレスの用途
耐熱ステンレスは「高温で使える」という特性から、実に多様な分野で利用されています。代表的な用途を挙げてみましょう。
発電所・エネルギー分野
火力発電所や原子力発電所では、高温高圧の蒸気を扱うボイラーチューブや熱交換器に耐熱ステンレスが使われます。高温強度が不足すると破損につながるため、信頼性の高い材料が必要です。
化学プラント
化学プラントでは高温かつ腐食性のガスや液体を扱うため、耐食性と耐熱性を兼ね備えたオーステナイト系耐熱ステンレスがよく用いられます。反応容器、配管、熱交換器などが代表例です。
自動車産業
自動車の排気系部品、特にエキゾーストマニホールドや触媒コンバーターには耐熱ステンレスが使われます。エンジンの排気ガス温度は数百℃から1000℃近くに達するため、酸化に強く、熱疲労に耐える材料が必要です。
航空宇宙分野
航空機のエンジンやロケットの一部には、耐熱ステンレスやニッケル基合金が用いられます。極めて高温かつ高応力の環境にさらされるため、強度と耐酸化性の両立が必須です。
産業炉・燃焼機器
製鉄所やセラミック焼成炉などの高温炉部品、さらにバーナーや燃焼管などにも耐熱ステンレスが多用されます。特にSUS310SやSUS446は高温酸化に強く、炉内での長期使用に耐えます。
家電製品
実は家庭用の機器にも耐熱ステンレスは利用されています。オーブンやガスコンロの一部、さらには電気ポットやヒーターの内部部品など、熱にさらされる環境で安定性を保つために採用されています。
耐熱ステンレスを選ぶポイント
耐熱ステンレスを選定する際には、以下の観点が重要になります。
- 使用温度域:600℃までか、1000℃近い環境かによって選択肢が変わる。
 - 雰囲気:酸化性雰囲気か、還元性雰囲気か、あるいは硫黄を含むかどうか。
 - 強度と寿命:長時間使用でクリープ破断が問題とならないか。
 - 加工性や溶接性:複雑な形状や溶接構造物に適しているか。
 - コスト:ニッケル含有量が多いほど価格は高くなるため、用途とのバランスを考慮する必要がある。
 
まとめ
耐熱ステンレスは、単に「錆びにくい金属」ではなく、「高温での強度」と「酸化への耐性」を両立させた特殊な材料です。フェライト系・マルテンサイト系・オーステナイト系といった分類があり、それぞれ特徴に応じて発電所、化学プラント、自動車、航空宇宙、産業炉など幅広い分野に使われています。用途に応じて適切な鋼種を選ぶことで、安全性と信頼性を確保できるのです。
私たちの身近な生活から先端産業まで、耐熱ステンレスは目立たないながらも欠かせない役割を果たしています。今後も新しい合金設計や加工技術の進歩により、さらに高温・過酷な環境に対応できる耐熱ステンレスが登場していくことでしょう。
いかがでしたでしょうか?
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