真鍮の複雑形状加工を可能にする5軸加工とは?

製造業の高度化が進む中、真鍮部品にもより一層の高精度・高付加価値が求められています。特にバルブ、装飾部品、電子機器のコネクタ部品などでは、三次元的で複雑な形状の加工が必須となることもしばしばあります。そうしたニーズに応えるのが、「5軸加工機」です。
本記事では、真鍮の加工において5軸加工がいかにして複雑形状を実現するのか、その特徴・メリット・導入ポイントについて詳しく解説します。
1. 真鍮の加工における課題
真鍮(黄銅)は切削性に優れた材料として広く用いられていますが、以下のような課題が加工の現場では見られます。
- 複雑形状の加工においては多面取り・多工程が必要
- ワークの再セットアップにより精度低下や段取り工数が増大
- 工具アクセスが難しくなることで工具干渉や逃げ角の調整が困難
特に複数の穴あけや斜め形状、球面加工、螺旋構造などを伴う部品では、従来の3軸加工では限界がありました。
2. 5軸加工とは何か?
● 5軸加工の基本構造
5軸加工とは、主軸のXYZ(3軸)に加え、2つの回転軸(A軸・B軸またはC軸)を組み合わせた加工方式です。これにより、工具やワークを複数の角度に傾けて加工できるようになります。
✅ 例:XYZ + A軸(傾斜) + C軸(回転)=5軸制御
● 真鍮に適した理由
真鍮は比較的柔らかく、切削時の熱や加工負荷が少ないため、5軸加工機での高回転・高送りにも対応しやすい素材です。また、5軸による**ワンチャック加工(1回の取付けで全工程完了)**との相性も非常に良く、高精度部品に最適です。
3. 5軸加工が真鍮の複雑形状に強い理由
3.1 多面加工を一工程で実現
通常、部品の5面や全周囲を加工する場合、ワークを何度も取り直す必要があります。5軸加工では傾斜・回転を自動制御することで、一度の段取りで全方向からの加工が可能となり、精度・工期・コストすべてにおいて優位性があります。
3.2 斜め穴・自由曲面・3D形状に対応
真鍮バルブ部品やノズルでは、軸方向に対して斜めの貫通穴を開けることが求められます。5軸加工なら、工具を斜めに傾けて穴あけができるため、従来はできなかった形状も自由に設計・製造が可能になります。
3.3 工具干渉の回避
複雑な形状を加工する際に発生しがちな工具干渉。5軸では工具の角度を細かく調整することで、干渉を避けながら効率的な切削が行えます。特に細穴や深堀形状などで威力を発揮します。
4. 加工精度と生産性の向上
5軸加工は再段取りを極力省略できるため、位置ズレによる誤差が大幅に低減されます。また、同時5軸制御では常に最適な刃先接触条件を維持できるため、工具寿命の延長・表面粗さの向上にもつながります。
比較項目 | 3軸加工機 | 5軸加工機 |
---|---|---|
加工面の数 | 1面ずつ | 多面を一括加工可能 |
工具姿勢制御 | 不可 | 任意の傾斜・回転が可能 |
段取り回数 | 多い | 少ない(ワンチャック可能) |
干渉対策 | 困難 | 工具角度調整で回避可能 |
精度・再現性 | 中〜高 | 非常に高い |
5. 真鍮加工現場での導入事例
● 高級水栓金具メーカーの場合
真鍮製の複雑な蛇口部品を加工していた某メーカーでは、3軸加工では4回の段取りが必要でしたが、5軸化によって加工時間を40%短縮、精度も±0.01mmまで向上しました。
● 精密電子部品メーカーの場合
真鍮コネクタの斜め穴加工と段差付き3D形状を同時に行う必要があり、5軸加工機を導入。CAMと連携した同時5軸制御で、微細加工と自由曲面加工を両立し、高い歩留まりを実現しました。
6. 導入の際の注意点と成功のポイント
● CAMソフトと制御技術の整備
5軸加工には5軸対応のCAD/CAMが不可欠です。また、ポストプロセッサの最適化やオペレータの技能向上も重要です。
● 初期投資コストとROIの検討
5軸加工機は高額な設備投資となるため、加工対象ワークの数量・形状・精度要件に対して導入効果を精査しましょう。
● 工具の管理とシミュレーション
工具の角度制御が重要となるため、干渉チェックや加工シミュレーションを事前に行うことが安定稼働の鍵となります。
まとめ:真鍮の未来は5軸加工が拓く
真鍮の持つ加工性と5軸加工の技術力が融合することで、これまで製造が難しかった高精度・複雑形状の部品製造が現実のものとなっています。製品の高付加価値化、リードタイム短縮、品質安定を目指す現場にとって、5軸加工はもはや選択肢ではなく、**“必須の戦力”**となりつつあります。
今後、より多様化する真鍮製品のニーズに応えるためにも、5軸加工の導入・活用はますます重要性を増していくでしょう。