ステンレス溶接時の熱歪み対策
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ステンレス鋼は、強度・耐食性・外観の美しさなどから、建築、食品機械、化学プラントなど幅広い分野で利用されています。しかし、溶接作業を行う際に避けて通れない課題のひとつが「熱歪み(ねつひずみ)」です。ステンレスは鉄に比べて熱膨張係数が大きく、熱伝導率が低いため、局部的な加熱で容易に変形が生じてしまいます。本記事では、ステンレス溶接時に発生する熱歪みの原因と、その効果的な対策について詳しく解説します。
熱歪みとは
熱歪みとは、溶接時の急激な加熱と冷却によって、金属内部に不均一な収縮や膨張が生じることで発生する変形のことです。ステンレスの場合、この熱歪みが特に顕著であり、外観の歪みだけでなく、寸法精度や溶接強度にも悪影響を及ぼします。
熱歪みが起こるメカニズム
溶接では、母材を局部的に高温(1,000℃以上)まで加熱し、溶融・凝固させて接合します。この過程で、溶接部周辺は膨張し、冷却時には収縮します。ステンレスは熱伝導率が低いため、熱が広範囲に拡散せず、溶接部付近だけが急激に膨張・収縮します。これにより、内部応力が発生し、結果的に曲がり・ねじれ・反りといった歪みが生じます。
ステンレスが歪みやすい理由
ステンレス鋼は他の金属と比べても、特に熱歪みが発生しやすい材料です。その理由は、以下のような物性値にあります。
熱膨張係数が大きい
ステンレス鋼は炭素鋼に比べて熱膨張係数が約1.5倍大きいとされています。つまり、加熱による膨張量が大きく、冷却時の収縮も大きいため、変形しやすいという特徴があります。特にオーステナイト系ステンレス(SUS304など)は、最も膨張係数が大きいグループに属します。
熱伝導率が低い
ステンレスは熱伝導率が低いため、溶接部に加わった熱が周囲に逃げにくく、局部的に高温になります。結果として、溶接部近傍だけが大きく膨張・収縮し、局所的な変形を引き起こします。
弾性限界が低い
ステンレスは塑性変形しやすく、溶接時に発生する応力によって容易に永久変形します。これもまた、溶接後に「戻らない歪み」が残る原因となります。
熱歪みの主な種類
熱歪みにはいくつかのパターンがあり、部材の形状や拘束条件によって異なります。
縦曲がり(縦方向の歪み)
溶接線方向に沿って、板が中央に向かって反るように変形する現象です。長い直線溶接で発生しやすく、外観の曲がりや寸法誤差の原因になります。
横曲がり(横方向の歪み)
溶接線に対して垂直方向に発生する歪みで、薄板や幅の広い部材に多く見られます。局部的な収縮により、波打つような変形を生じます。
角変形
L字型やT字型の継手に多く見られる歪みで、溶接の収縮によって角度が変化してしまう現象です。特にT継手や隅肉溶接で頻発します。
ねじれ
不均一な加熱や溶接順序の影響で、部材がねじれるように変形するケースもあります。長尺のパイプやフレーム構造でよく問題になります。
熱歪みを防ぐための基本的な考え方
ステンレスの熱歪み対策を考える際、最も重要なのは「いかに熱を集中させないか」「いかに均一に冷却させるか」という2点です。以下の原則を押さえておくことが大切です。
- 溶接入熱をできるだけ小さくする
 - 溶接箇所を分散させる
 - 溶接順序を工夫する
 - 治具で拘束する
 - 後処理で応力を除去する
 
これらの考え方をもとに、次章で具体的な方法を詳しく説明します。
熱歪みを抑えるための実践的な方法
溶接条件の最適化
最も基本的な対策は、溶接条件の見直しです。入熱量が多すぎると熱歪みが大きくなるため、以下の点を意識します。
- 電流・電圧をできるだけ低めに設定する
 - 溶接速度を速めにする(ただし溶け込み不足に注意)
 - パルスTIGや短絡アークなど、低入熱プロセスを採用する
 - 溶接線を短く分割して順次溶接する
 
これにより、溶接部への熱影響を最小限に抑えることができます。
溶接順序の工夫
溶接する順番も熱歪みを左右する重要な要素です。熱が一方向に集中しないように、以下のような方法を取ると効果的です。
- 対称溶接:左右や上下対称に溶接を進める
 - 交互溶接:長い継手の場合、数か所を飛び飛びに溶接してから間を埋める
 - 反対側からの補正溶接:片面溶接で生じる引張応力を、反対側の溶接で打ち消す
 
こうした順序の工夫で、全体の収縮バランスを整えることができます。
治具やクランプによる拘束
治具を使って部材を固定することは、歪みの発生を抑える基本手段です。
ただし、過度に拘束すると割れや応力集中を招く恐れがあるため、溶接部付近の自由度をある程度残しておくのが理想です。
- 溶接前に仮止めを十分に行う
 - 強固な固定治具を用意する
 - 大型構造物では、部分ごとに拘束を切り替えて作業する
 
バックシールドや冷却方法の工夫
ステンレスは高温酸化や変色も問題となるため、裏波側にバックシールドガスを流して均一に冷却するのが有効です。また、風冷や水冷を併用して、全体温度をできるだけ均一に保つことも歪み抑制に寄与します。
予熱・後熱の管理
ステンレス溶接では、通常予熱を行いませんが、大型構造物や厚板では、軽い予熱(50〜100℃程度)を行うと温度勾配を緩やかにでき、急激な収縮を防げます。
また、溶接後に応力除去焼鈍(450〜650℃程度)を施すことで、残留応力を緩和し、長期的な歪みの発生を抑えることができます。
板厚や形状による対策の違い
薄板の溶接
薄板(1〜3mm)は特に熱歪みが出やすいので、以下のような工夫が必要です。
- 溶接速度を速くする
 - 点付けや断続溶接を採用する
 - クランプや銅製バックバーで熱を逃がす
 - パルスTIGやレーザー溶接など低入熱プロセスを使う
 
厚板の溶接
厚板では熱歪み自体は比較的小さいですが、内部応力が残りやすく、後加工時に変形が出ることがあります。応力除去焼鈍や多層溶接でのバランス制御が重要です。
実際の現場で行われている工夫例
- 溶接前に部材を逆方向にわずかに曲げておく「逆歪み法」
 - 仮付け溶接を多めに入れて熱収縮を分散させる
 - 部分ごとに溶接し、冷却時間を設けて次に移る「ステップ溶接法」
 - TIG溶接で電流を断続的に制御し、局部過熱を防ぐ「パルス制御」
 
これらは現場でよく使われる実践的な歪み対策です。
まとめ
ステンレス溶接における熱歪みは、避けることが難しい問題ですが、適切な溶接条件や工程管理によって大幅に抑制することが可能です。
重要なのは、**「溶接熱をいかにコントロールするか」**という点です。低入熱溶接・対称的な順序・適度な拘束・冷却管理を組み合わせることで、歪みの少ない高品質な仕上がりが得られます。
また、製品の用途や板厚、溶接方法によって最適な対策は異なるため、実際の現場では試験片や試作を通して最適条件を見つけていくことが重要です。
熱歪みを理解し、事前に予防を施すことで、後工程の手直しや不良品発生を防ぎ、生産性向上と品質安定の両立を実現することができます。
いかがでしたでしょうか?
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