ステンレス加工時に起こる焼けや変色の抑え方

ステンレス鋼は耐食性や美観に優れることから、建築、医療機器、食品加工、精密部品など幅広い分野で使用されています。しかし、加工時には表面に「焼け」や「変色」が生じることがあり、これが製品の品質低下や追加工程(研磨・酸洗い)の原因となるため、加工現場では重要な管理ポイントの一つとされています。
本稿では、ステンレス加工時に発生する焼け・変色の原因を明らかにしたうえで、それを抑制するための具体的な対策を解説します。
1. 焼け・変色とは何か?
「焼け」とは、ステンレスの加工時に表面が高温になり、酸素と反応して酸化被膜が厚くなる現象です。酸化被膜が厚くなると、青や茶、黒といった変色を引き起こします。これを「酸化スケール」「テンパーカラー」とも呼びます。
変色は見た目の問題だけでなく、局所的な耐食性の低下や寸法精度への影響を及ぼすことがあるため、抑制が求められます。
2. 焼けや変色が発生する主な加工工程
2.1 切削加工(旋盤、フライスなど)
高切削速度・不適切なクーラント使用により切削点の温度が急上昇すると、加工面に焼けが発生します。特にドライ切削や潤滑不足の条件では顕著です。
2.2 溶接
溶接部周辺には強い熱が加わるため、溶接線に沿って青・黒の焼け跡が残ります。これを「溶接焼け」と呼び、外観品質や耐食性に影響します。
2.3 研磨やバフ仕上げ
高速回転するバフや研磨材で過剰に摩擦熱が生じた場合、局所的な変色を引き起こすことがあります。
3. 焼け・変色の主な原因
3.1 過熱による酸化反応
ステンレスは800~1000℃を超えると酸化被膜が厚くなり、光の干渉によって様々な色合いに変化します。この過熱が焼けの直接的原因です。
3.2 クーラントや潤滑剤の不足
潤滑や冷却が不十分だと、工具と被削材の間に大きな摩擦熱が発生し、表面温度が急上昇します。
3.3 工具の摩耗や材質不適合
摩耗した工具は切削抵抗が大きくなり、熱の発生源となります。また、工具材質が被削材と相性が悪い場合も焼けを引き起こす要因です。
4. 焼け・変色を抑える具体的対策
4.1 加工条件の最適化
- 切削速度・送り速度の見直し
切削速度が高すぎると発熱量が増え、焼けが起きやすくなります。材質に応じた適正条件に設定することが重要です。 - 切削深さの制御
切り込みが深すぎると一回の加工で発熱量が増すため、段階的に加工する方法が効果的です。
4.2 クーラントの選定と供給強化
- 水溶性クーラントの使用
水溶性クーラントは冷却性に優れ、表面温度の上昇を抑える効果があります。添加剤入りの高性能品を使うとより効果的です。 - 供給方式の工夫
スポット噴射からフラッディング(大量供給)へ変更する、工具先端への直接噴射などで冷却効果が向上します。
4.3 工具の選定と管理
- 耐熱性の高い工具材質を使用
コーティング付き超硬工具やセラミック工具は高温下でも性能が安定しており、焼けを抑えます。 - 工具の定期交換と監視
摩耗した工具は熱を溜め込みやすいため、加工品に焼けが見え始めた段階で早期交換するのが望ましいです。
4.4 加工順序とステップの工夫
- 荒加工と仕上げ加工を分離
焼けの起きやすい荒加工と、美観を求める仕上げ加工を分離し、仕上げ時には低発熱条件で行うことで焼けの影響を回避できます。 - 連続加工の回避
連続して複数加工を行うとワーク全体が加熱されやすくなるため、適度に冷却時間を挟むと効果的です。
5. 焼けが発生した場合の対処法
5.1 酸洗い・化学洗浄
焼けが発生したステンレス表面には、硝酸やフッ酸を使った酸洗い処理で酸化スケールを除去できます。ただし、有害物質の使用が含まれるため、取り扱いには十分な注意が必要です。
5.2 機械研磨による除去
ベルトサンダーやナイロンホイール、スコッチブライトなどで表面を研磨し、変色層を除去します。加工後の仕上げ工程に組み込むことで外観と性能の維持が可能です。
6. 溶接焼けの抑制と対策
溶接焼けには専用の対策が必要です。以下の方法が有効です。
- アルゴンシールドなどのシールドガスの適切使用
溶接時に空気と接触しないようガスで保護することで焼けの発生を防げます。 - 裏波焼け対策にバックシールド
裏面焼けが問題になる薄板には、裏面にアルゴンガスを充填する「バックシールド」が有効です。 - 酸化スケール除去には電解研磨やパッシベーション処理
変色だけでなく耐食性の回復も図れるため、食品・医療分野では標準的な処理です。
7. まとめ:焼けや変色の抑制は加工品質の鍵
ステンレス加工における焼けや変色は、単なる見た目の問題にとどまらず、耐食性や強度、寸法精度など多くの品質要素に関わってきます。原因は主に熱の管理不十分であるため、加工条件や工具選定、クーラント供給の最適化が重要です。
また、焼けが避けられない工程では、後工程での除去や表面処理による対策も必要となります。ステンレス製品の品質を高めるためには、焼け対策を工程全体で意識し、技術的に管理することが不可欠です。