切削加工関連

ステンレス加工におけるチップ摩耗の抑え方

mw2pp0jd6c

金属加工.comをご覧いただき、誠にありがとうございます。
本サイトは、山梨県・長野県にて切削加工やろう付けを行っている 北東技研工業株式会社 が運営しております。
金属加工に関するお困りごとがございましたら、ぜひお気軽に当社までご相談ください。

ステンレス鋼は優れた耐食性や強度を持つ反面、切削加工においては「加工硬化しやすい」「熱伝導性が低い」「粘り強く加工抵抗が高い」といった特徴があり、切削工具(チップ)の摩耗が激しくなりやすい材料です。チップの早期摩耗は工具交換頻度の増加や加工コストの上昇、不良率の増加に直結します。

本記事では、ステンレス加工におけるチップ摩耗の種類・原因を整理し、その抑制方法について現場で実践可能な対策を中心に解説します。

ステンレス加工におけるチップ摩耗の主な種類

①フランク摩耗(逃げ面摩耗)
切削工具の逃げ面が加工材と接触し続けることで生じる摩耗です。最も一般的な摩耗で、進行が一定であれば予測も容易です。

②クレータ摩耗(すくい面摩耗)
すくい面に切りくずが衝突し続けることで生じる摩耗。加工熱や切りくずとの反応により進行し、チッピング(欠け)につながることもあります。

③チッピング(微小破損)
切削中に発生する微細な衝撃によってチップの刃先が欠けてしまう現象。ステンレスは粘りが強くビビりやすいため、発生頻度が高くなります。

④熱摩耗・酸化摩耗
切削熱によって工具の表面が酸化し、摩耗が進行する現象。ステンレスは熱が逃げにくいため工具に熱が集中しやすく、この摩耗モードが起こりやすいです。

チップ摩耗の主な原因

①高い加工硬化性
ステンレスは加工により表面硬度が急激に増加するため、次の刃が硬化層に当たることで摩耗が進行します。

②低い熱伝導性
切削熱が被削材から逃げずに工具側に集中しやすく、熱疲労や摩耗が加速されます。

③切りくずの巻き付き
切りくずが長くなりやすく、チップやワークに絡みつくことで摩擦熱が増加し摩耗を助長します。

④不適切な工具材質・コーティング
工具材質がステンレスの特性に合っていない場合、摩耗が早まります。特に一般鋼用の汎用チップを使用すると摩耗寿命は大幅に低下します。

チップ摩耗を抑える具体的な対策

加工条件の最適化

① 切削速度の最適化
ステンレス鋼に対しては高すぎる切削速度は禁物です。以下が目安となります。

材質推奨切削速度(m/min)
SUS30450〜100
SUS31640〜80
SUS30380〜150(快削鋼)

※快削ステンレスは高速度加工が可能ですが、一般ステンレスでは摩耗が急増するため注意が必要です。

② 切込み・送りの調整
切込み量が小さすぎると加工硬化層ばかりを削ることになり摩耗が加速します。最適な切込み量(ap:0.5〜2mm)、送り速度(f:0.1〜0.3mm/rev)を確保することで、工具寿命を延ばすことが可能です。

工具材質とコーティングの選定

① 推奨される工具材質

  • 超硬合金(PVDコーティング付き)
  • サーメット(硬度高・耐酸化性良)
  • CBN(硬質ステンレス向け・高価だが高寿命)

② ステンレス加工に向いた代表的なコーティング

  • TiAlN(高温酸化に強く、耐熱摩耗性に優れる)
  • AlCrN(耐酸化性・耐熱性がさらに高い)
  • DLCコート(低摩擦特性で切りくずの排出性が良好)

切削液の選定と供給方法

① 適切な切削液の選定

  • 油性クーラント(耐熱性と潤滑性が高い)
  • 高圧クーラント(切りくず排出性を向上)

② 供給方式の工夫

  • 高圧噴射(MP)方式:切りくずの巻き付きを防止し、刃先温度の上昇を抑える
  • インサイドクーラント:刃先へ直接冷却液を届けることで、摩耗を最小限に抑制

加工中のビビり抑制

切削中の振動やビビりは、チッピングの大きな原因となります。以下の対策が有効です。

  • 剛性の高い加工機・ホルダを使用
  • 突き出し長を最小限に抑える
  • クランプ力を強化しワークの安定を図る
  • 工具ホルダーのバランス調整

定期的な工具交換と摩耗監視

  • 加工中に摩耗を見逃すと突発的な刃先破損を招く
  • 加工時間ベースでの交換サイクルを管理
  • 刃先の摩耗幅(VB)を0.2〜0.3mm以下で交代目安とする
  • 加工異音やバリの増加にも注意

加工現場での実践チェックリスト

項目内容チェック頻度
工具摩耗の目視点検刃先欠け・摩耗幅毎加工サイクル
切削条件の記録切削速度・送り・切込み毎日
切削液の状態確認油量・濃度・温度毎シフト
加工面の仕上がり面粗度・バリ発生随時

まとめ

ステンレス加工におけるチップ摩耗の抑制には、工具選定・加工条件・切削液管理・設備剛性・予防保全といった多面的なアプローチが必要不可欠です。特に「最適条件で専用工具を正しく使う」ことが、摩耗抑制の最大のポイントといえるでしょう。生産現場での加工効率・工具コスト・品質安定性を高めるためにも、日々の記録とフィードバックを繰り返しながら最適化を図っていくことが重要です。

いかがでしたでしょうか?
金属加工.comでは、他にも金属加工関連の情報を発信しております。他にも気になる記事がありましたら、是非ご覧ください。

金属加工.comのトップページはこちら↓

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 1-6-1024x116.png

関連記事はこちら↓

記事URLをコピーしました