ステンレスの種類ごとの加工性比較

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ステンレス鋼は、鉄にクロムを加えることで耐食性を高めた合金です。さらにニッケルやモリブデンなどの元素を加えることで、強度や耐食性、靭性などの特性が変化します。ステンレスは建築、自動車、食品機械、医療機器など幅広い分野で活躍していますが、種類によって加工のしやすさが大きく異なります。本記事では代表的なステンレス鋼の種類と、それぞれの加工性について詳しく解説します。
ステンレスの基本分類
ステンレスは組織や添加元素の違いにより、いくつかの系統に分類されます。大きく分けると以下の4種類です。
- オーステナイト系ステンレス
- フェライト系ステンレス
- マルテンサイト系ステンレス
- 二相ステンレス(オーステナイト+フェライト)
さらに、析出硬化系(PHステンレス)という特殊なタイプも存在します。これらの種類によって機械的性質、耐食性、熱処理の可否、そして加工の難易度が変わります。
オーステナイト系ステンレスの加工性
代表鋼種:SUS304、SUS316、SUS310など
オーステナイト系はステンレスの中で最も広く使用されているグループです。耐食性に優れ、非磁性であり、溶接性や成形性も良好です。しかし、加工現場では「削りにくい材料」として知られています。
特徴としては、
- 延性・靭性が高いため冷間加工(曲げ、絞り)はしやすい。
- 加工硬化しやすいため、切削加工では工具摩耗が早い。
- 熱伝導率が低いので切削時に熱が逃げにくく、バリや溶着が発生しやすい。
例えば、食品機械や建築材に使われるSUS304は普及率が高いですが、切削加工では工具寿命が短くなりやすく、切削油や条件の最適化が不可欠です。一方で、成形加工や溶接では扱いやすい部類に入ります。SUS316はモリブデンを含み耐食性が高いですが、さらに加工硬化が強く、難削材として知られています。
フェライト系ステンレスの加工性
代表鋼種:SUS430、SUS409、SUS444など
フェライト系はクロムを主成分とし、オーステナイト系に比べて安価で磁性を持ちます。耐食性はやや劣りますが、自動車部品や建材、家電などに広く使われています。
加工性の特徴としては、
- 加工硬化が小さいため切削加工性が良好。
- 熱膨張が小さいので寸法安定性に優れる。
- 延性がオーステナイト系より低いため、深絞りや複雑成形には不向き。
SUS430は代表的なフェライト系で、切削や研削は比較的容易です。プレス加工も可能ですが、伸びが小さいため過度の変形には注意が必要です。SUS444はモリブデンを含み耐食性が高いですが、やや加工性が落ちる傾向にあります。
マルテンサイト系ステンレスの加工性
代表鋼種:SUS410、SUS420、SUS440など
マルテンサイト系は硬化処理が可能なステンレスで、強度・硬さが大きな特徴です。刃物やタービン部品、バルブなど、耐摩耗性や強度が要求される分野に利用されます。
加工性の特徴は、
- 熱処理前は比較的加工しやすい。
- 焼入れ後は非常に硬くなり、切削や研削が難しい。
- 溶接性は悪いため、部品設計で注意が必要。
例えばSUS420は刃物に多用され、熱処理後には高硬度を発揮しますが、研削加工でしか仕上げられないほど硬くなります。SUS440はさらに高硬度で耐摩耗性に優れますが、切削は困難です。
二相ステンレスの加工性
代表鋼種:SUS329J1、SUS2205など
二相ステンレスはオーステナイトとフェライトの両方の組織を持ち、強度と耐食性を両立させた合金です。化学プラントや海水設備、橋梁など過酷な環境で用いられます。
加工性の特徴は、
- 強度が高いため切削抵抗が大きい。
- オーステナイト系より加工硬化は小さいが、フェライト系より硬い。
- 溶接性は良好だが、熱管理に注意が必要。
切削加工では工具摩耗が進みやすく、超硬工具やセラミック工具を使うことが推奨されます。塑性加工も可能ですが、高い成形力が求められます。
析出硬化系ステンレスの加工性
代表鋼種:17-4PH、15-5PHなど
析出硬化系は熱処理によって高い強度を得られる特殊ステンレスです。航空機部品、化学プラント、精密機器などに使用されます。
加工性の特徴は、
- 溶体化処理状態では比較的加工しやすい。
- 時効処理後は高硬度となり、切削や研削が困難。
- 寸法安定性が高く、精密部品に適している。
17-4PHは代表的で、機械加工は熱処理前に行うのが一般的です。
種類ごとの加工性比較のまとめ
ステンレスの加工性は、種類によって大きく異なります。まとめると以下のようになります。
- オーステナイト系:耐食性・成形性は良好だが切削加工は難しい
- フェライト系:切削性は良好だが成形にはやや不向き
- マルテンサイト系:熱処理前は加工可能、熱処理後は硬くなり難加工
- 二相ステンレス:強度が高く加工抵抗が大きい
- 析出硬化系:処理前は加工しやすく、処理後は難加工
加工現場で求められるのは、使用環境と加工性のバランスです。たとえば耐食性重視ならオーステナイト系や二相系、コストと加工性のバランスならフェライト系、硬度や耐摩耗性重視ならマルテンサイト系や析出硬化系が選ばれます。
加工性向上の工夫
どのステンレスであっても、適切な加工条件を選ぶことで作業性を改善できます。
- 切削では低速回転・十分な切削油の使用
- 高能率加工では超硬やコーティング工具の選択
- 塑性加工では予熱や潤滑の徹底
- 溶接では適正な入熱管理
これらの工夫により、難削材とされるステンレスも安定した加工が可能になります。
まとめ
ステンレスは耐食性や強度に優れた材料ですが、種類によって加工のしやすさは大きく異なります。オーステナイト系は成形しやすいが削りにくい、フェライト系は切削しやすいが成形に難がある、マルテンサイト系は熱処理で性質が大きく変わる、といった特徴があります。二相ステンレスや析出硬化系はさらに特殊な性質を持ち、用途に応じて選ばれます。
現場では、材料の特性を理解した上で最適な加工方法や工具を選択することが、生産性や品質を高めるカギとなります。
いかがでしたでしょうか?
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