オーステナイト系ステンレスの特徴と加工性
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オーステナイト系ステンレスとは
オーステナイト系ステンレスは、ステンレス鋼の中でも最も広く使用されているグループです。家庭用品から産業設備、化学プラント、建築材料に至るまで、あらゆる分野で採用されています。その理由は、優れた耐食性と加工性、そして美しい外観を併せ持つ点にあります。
「オーステナイト」とは、鉄に一定量以上のニッケルやマンガンを添加して常温でもオーステナイト組織(γ相)を安定化させた構造を指します。この組織は、柔らかく延性が高いという特徴を持ち、冷間加工性や溶接性に優れています。
代表的なオーステナイト系ステンレスには、SUS304やSUS316などが挙げられます。これらは鉄をベースに、18%前後のクロム(Cr)と8%程度のニッケル(Ni)を含む「18-8ステンレス」と呼ばれる合金系統に属しています。SUS316はモリブデン(Mo)を含むことで、塩化物環境に対する耐食性をさらに向上させています。
オーステナイト系ステンレスの主な特徴
高い耐食性
オーステナイト系ステンレスの最大の特徴は、酸化や腐食に非常に強いことです。これは、表面に形成される「不働態被膜」と呼ばれる非常に薄い酸化皮膜によるものです。この皮膜が金属内部への酸素や水分の侵入を防ぎ、錆の進行を抑えます。
特に、SUS316のようにモリブデンを添加した鋼種では、塩素イオンによる孔食(ピッティング)やすきま腐食に対する耐性が向上しています。これにより、海水環境や化学薬品を扱うプラントでも多く使用されています。
優れた靭性と延性
オーステナイト系ステンレスは、常温だけでなく低温下でも非常に高い靭性を維持します。これにより、低温設備(液化ガス容器や冷凍機器など)にも適用可能です。破壊に対する耐性が高いため、衝撃荷重がかかる構造物にも使用されています。
また、延性が高いことから、深絞り加工や曲げ加工、プレス成形などにも適しており、複雑形状の製品製作が容易です。
非磁性であること
オーステナイト系ステンレスは、他のステンレス(フェライト系・マルテンサイト系)と異なり、基本的には磁性を持ちません。これはオーステナイト組織が常磁性を示すためです。非磁性である特性は、磁場の影響を避けたい装置や医療機器などで重宝されます。
ただし、強い冷間加工を施すと部分的にマルテンサイト変態が起こり、弱い磁性を帯びることがあります。
熱処理による硬化が難しい
オーステナイト系ステンレスは、焼入れによって硬化させることができません。これは、炭素の固溶状態が安定しており、マルテンサイト変態が起こらないためです。そのため、硬さを向上させたい場合には、冷間加工を利用する方法が一般的です。
オーステナイト系ステンレスの代表的な鋼種
SUS304
最も標準的で汎用性の高いオーステナイト系ステンレスです。耐食性・加工性・溶接性・外観のバランスが良く、厨房機器、配管、建築装飾、工業部品など幅広く使用されています。
SUS316
SUS304にモリブデンを添加した鋼種で、特に塩化物環境での耐孔食性・耐すきま腐食性に優れています。海水設備や化学プラント、医療用器具などに多く採用されています。
SUS310S
高温強度と耐酸化性に優れるステンレスで、耐熱用途に適しています。ボイラ部品や熱交換器、燃焼炉内部など、高温雰囲気での使用に向いています。
SUS347
ニオブ(Nb)を添加することで鋭敏化を防止した鋼種です。高温溶接構造物や化学機器に適用されます。
オーステナイト系ステンレスの加工性
冷間加工のしやすさ
オーステナイト系ステンレスは、柔らかく延性が高いため、冷間加工性に非常に優れています。プレス成形、絞り加工、曲げ加工、スピニング加工など、複雑な形状の部品も高精度に成形できます。
ただし、加工硬化が起こりやすいため、連続した加工や深絞りでは中間焼鈍を行うことが重要です。加工硬化により材料が硬化すると、割れや寸法精度の悪化を招くためです。
溶接性の良さ
オーステナイト系ステンレスは、ほとんどの溶接方法(TIG、MIG、アーク溶接など)に対応しています。溶接後の機械的性質や耐食性も良好です。ただし、炭素含有量が高い材料では溶接熱影響部に「鋭敏化」が発生することがあります。鋭敏化とは、Cr炭化物の析出により耐食性が低下する現象です。これを防ぐためには、低炭素タイプ(SUS304Lなど)や安定化元素を添加した鋼種(SUS347など)を使用します。
切削加工性
一方で、切削加工はやや難しい部類に入ります。オーステナイト系ステンレスは粘り強く、熱伝導率が低いため、工具先端に熱がこもりやすくなります。その結果、工具摩耗や刃先チッピングが発生しやすくなります。
切削加工を行う際は、以下の点に注意が必要です。
- 鋭利で耐熱性の高い超硬工具を使用する
- クーラントを十分に供給して冷却・潤滑を確保する
- 切削条件(送り・切削速度)をやや低めに設定する
- 工具の突っ込み・逃げをスムーズにして加工硬化層を最小限に抑える
また、被削性を改善した「快削ステンレス鋼(SUS303など)」も存在し、硫黄(S)を微量添加することで切りくずの分断性を高めています。
オーステナイト系ステンレスの注意点
応力腐食割れ
塩化物環境下で引張応力が作用すると、「応力腐食割れ(SCC)」が発生することがあります。特に高温高湿環境では注意が必要です。対策としては、溶接後の応力除去焼鈍や、SUS316のようなMo添加鋼種の使用が有効です。
加工硬化の影響
冷間加工による硬化が進むと、次工程での加工や溶接が難しくなります。中間焼鈍を適切に行うことで、組織を回復させて加工性を維持します。
高温強度の限界
オーステナイト系は高温強度に優れていますが、長時間高温にさらされるとクリープ変形や粒界析出による脆化が進行する可能性があります。高温用途では、安定化元素を含むSUS347やSUS310Sなどを選定することが望ましいです。
オーステナイト系ステンレスの用途
オーステナイト系ステンレスは、その特性のバランスの良さから、非常に多くの分野で利用されています。
- 厨房機器・食器:耐錆性・衛生性が高く、美観も優れているため
- 建築外装・手すり:美しい鏡面仕上げが可能で、耐候性も抜群
- 化学プラント・医薬設備:薬品や腐食環境に強く、衛生面でも優秀
- 配管・バルブ・熱交換器:溶接性と耐圧性を活かした用途
- 自動車・鉄道・航空機:軽量で加工しやすく、非磁性が求められる部位に使用
まとめ
オーステナイト系ステンレスは、耐食性・靭性・加工性・溶接性といったあらゆる特性が高いバランスで備わった万能材料です。特にSUS304やSUS316は、あらゆる産業分野で信頼性の高い材料として使用され続けています。
一方で、切削加工の難しさや応力腐食割れのリスクなど、注意すべき点も存在します。これらを理解したうえで、使用環境や加工方法に最適な鋼種を選定することが重要です。
オーステナイト系ステンレスは、今後も高機能化・環境対応化が進み、より多様な分野で活用が期待される材料です。
いかがでしたでしょうか?
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