ろう付けに使われるフラックスの化学的性質

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ろう付けは金属同士を接合する技術として、工業や手工芸の現場で広く利用されています。その際、欠かせないのが「フラックス」です。フラックスは単なる補助材料ではなく、金属表面の酸化膜を除去し、ろう材の流動性を高める重要な役割を持っています。本記事では、ろう付けに使われるフラックスの化学的性質について、具体的にわかりやすく解説します。
フラックスの基本的な役割
ろう付けの成功には、母材表面の酸化膜を取り除き、ろう材がしっかりと浸透できる環境を作ることが欠かせません。フラックスはこれを化学的にサポートする材料です。金属表面は空気中の酸素と反応して酸化膜を形成します。この酸化膜はろう材の濡れ性を阻害し、接合不良の原因になります。フラックスは酸化膜を溶解、還元、または保護する働きを持ち、ろう付けの品質を向上させます。
酸性・塩基性フラックスの違い
フラックスはその化学性質により、大きく酸性タイプと塩基性タイプに分けられます。酸性フラックスは塩化物やフッ化物を含み、金属表面の酸化膜を化学反応で分解します。例えば、塩化亜鉛や塩化アンモニウムは酸性フラックスの代表例です。これらは加熱されると金属酸化物と反応し、水溶性の塩を生成するため、酸化膜を効果的に除去できます。
一方、塩基性フラックスは、炭酸塩やホウ酸塩などを含むことが多く、酸化膜を溶解するというよりは、金属表面に保護膜を形成し、ろう材の浸透を助ける働きがあります。アルミニウムやチタンなど、酸化膜が非常に安定な金属には塩基性フラックスが適しています。
フラックスの還元作用
多くのフラックスは、酸化膜を単に溶かすだけでなく、化学的に還元する作用を持ちます。金属酸化物は酸化状態が高いため、還元反応によって金属本体に戻すことが可能です。例えばホウ酸を含むフラックスは、加熱時に酸化膜と反応し、水素やその他の還元成分を生成して酸化膜を還元します。この作用により、ろう材が母材表面に均一に広がり、接合強度が高まります。
フラックスの融点と熱安定性
フラックスはろう付け作業中、高温にさらされます。そのため、フラックスの融点や熱安定性は重要な要素です。融点が低すぎると、ろう材がまだ溶けていない段階でフラックスが燃焼してしまうことがあります。逆に融点が高すぎると、酸化膜除去のタイミングが遅れ、ろう材がうまく浸透できません。
熱安定性も重要です。フラックスは加熱中に分解して有害なガスを発生させないこと、また、化学活性を失わずに酸化膜除去作用を持続できることが求められます。このため、ろう付け用途に応じて、酸性・塩基性フラックスの組成や添加物が調整されます。
水溶性フラックスと非水溶性フラックス
フラックスには、水で洗い流せる「水溶性フラックス」と、油や有機溶媒で処理する「非水溶性フラックス」があります。水溶性フラックスは、作業後の洗浄が簡単で、環境負荷も比較的低いため、電子部品や精密部品のろう付けで多く用いられます。非水溶性フラックスは、耐熱性や化学安定性に優れるため、自動車部品や建築金物など、高温環境下での接合に向いています。
化学的には、水溶性フラックスは塩類やホウ酸を主成分とすることが多く、水に溶けて酸化膜を分解します。非水溶性フラックスは、有機酸や樹脂系の添加物を含むことがあり、母材表面に膜を形成して酸化を防ぎながらろう材を導く性質があります。
フラックスの酸化防止作用
ろう付け作業中、金属は高温状態で酸素と接触するため、酸化が進みやすくなります。フラックスはこの酸化を防ぐ「保護作用」も持っています。酸化防止作用は、フラックスが溶融状態で金属表面を覆うことによって発揮されます。これにより、酸素や水蒸気との接触が減り、ろう材の流動性を妨げる酸化膜の形成を抑制できます。化学的には、フラックス成分が酸素と優先的に反応することで、金属表面の酸化を抑えるという仕組みです。
フラックスの選び方と化学的適性
ろう付けに使うフラックスは、母材の種類やろう材の性質、作業温度に応じて選ぶ必要があります。例えば、銅や銀のろう付けには酸性フラックスが一般的ですが、アルミニウムやステンレスなど酸化膜が非常に安定な金属には、塩基性フラックスが適しています。また、電子部品のように洗浄が必要な場合は水溶性フラックスが選ばれます。
化学的には、フラックスの成分が酸化膜を溶解・還元・保護する能力を持っているか、また作業温度で安定して機能するかが重要です。成分には塩化物、フッ化物、ホウ酸、リン酸塩、炭酸塩などがあり、これらの組み合わせでフラックスの特性が決まります。
フラックスの残留と後処理
ろう付け後にはフラックスの残留物が金属表面に残ることがあります。化学的には、残留フラックスには酸性や塩基性の成分が残るため、長期間放置すると金属腐食の原因となります。特に電子部品や精密機械部品では、フラックス残留による腐食や導電性の問題を避けるため、洗浄が必須です。水溶性フラックスは水で簡単に除去できますが、非水溶性フラックスは専用の溶剤で洗浄する必要があります。
環境と安全性への配慮
フラックスは化学的性質上、高温で分解して有害ガスを発生する場合があります。そのため、作業現場では換気や保護具の使用が必要です。また、廃液処理や残渣処理も重要です。近年は、より環境に配慮したフラックスが開発されており、有害物質の少ない成分や洗浄しやすい水溶性フラックスの利用が増えています。
まとめ
ろう付けにおけるフラックスは、単なる補助材ではなく、化学的に金属表面の酸化膜を溶解・還元し、ろう材の浸透を助ける重要な材料です。酸性・塩基性、水溶性・非水溶性といった種類があり、それぞれ化学的性質や適用金属が異なります。さらに、フラックスは酸化防止や接合品質向上にも寄与するため、ろう付けの成功には欠かせない存在です。
現代の製造現場では、作業効率だけでなく環境・安全面にも配慮したフラックスの選定が求められています。化学的性質を理解したうえで、適切なフラックスを選ぶことが、強固で信頼性の高い接合を実現する鍵となります。
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