ろう付け加工関連

◆ろうが溶けない・流れない時の対処法

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ろう付け(はんだ付けを含む)作業では、「ろう材が溶けない」「ろうが母材に流れない」といったトラブルがしばしば発生します。これらの問題は作業効率を大幅に低下させるだけでなく、接合不良や強度不足の原因にもなり得ます。本記事では、ろう材がうまく溶けず流れない時に考えられる原因と、それぞれの対処法について詳しく解説します。


1. ろうが「溶けない」時の原因と対処法

1-1. 加熱温度不足

原因:
最も多い原因のひとつが加熱不足です。ろう材の融点に達していないため、ろうが完全に溶けません。

対処法:

  • 使用しているろう材の融点を確認し、適切な温度に加熱しているか見直す。
  • トーチの場合は、炎の当て方を調整する。炎の芯ではなく、炎の先端部を当てるのが基本。
  • 電気炉や加熱プレート使用時には温度計測を正確に行う

1-2. 熱が逃げている(熱伝導の影響)

原因:
母材が厚すぎる、あるいは熱伝導性が高い素材(金や銅など)だと、熱が広がってしまい局所が十分に加熱されない。

対処法:

  • 必要に応じて予熱を行う。
  • トーチの炎を広い範囲に当てる
  • 耐熱ブロックを下に敷くことで熱が逃げにくくする。
  • 母材の厚みに応じて火力の強いトーチを選定する。

1-3. ろう材の劣化・不適切な種類

原因:
保管状態が悪いとろう材が酸化しており、適切に溶けなくなっている可能性があります。また、使用する母材に合っていないろう材も不適切です。

対処法:

  • 使用前にろう材の表面を研磨して酸化膜を除去する。
  • ろう材の規格・種類・融点を再確認し、母材との相性を見直す。

1-4. フラックスの塗布不足または劣化

原因:
フラックスが十分に塗布されていない、あるいは古くなって効果が薄れていると酸化皮膜が除去されず、熱が伝わりにくくなります。

対処法:

  • フラックスを再塗布する。
  • 新鮮なフラックスを使用する。
  • フラックスの温度帯と成分がろう材に合っているか確認。

2. ろうが「流れない」時の原因と対処法

2-1. 濡れ性の不良(酸化膜・汚れ)

原因:
母材表面に酸化膜や油分、指紋などの汚染があると、ろうが母材を濡らさずに流れません。

対処法:

  • 母材の接合部を研磨・脱脂洗浄する(アルコールやアセトンが有効)。
  • 鉄・銅など酸化しやすい金属は、直前に研磨して酸化膜を除去。
  • 長期間空気に晒された母材は、酸洗い(ピクルス処理)を検討する。

2-2. フラックスの不足・不適合

原因:
フラックスが不十分だと酸化膜除去や表面張力の調整ができず、ろうが広がりません。

対処法:

  • 適切な量のフラックスを均一に塗布する。
  • 使用する金属に合った種類のフラックス(塩素系・ホウ酸系など)を選定。
  • フラックスが蒸発しないよう、加熱中の焦がし過ぎに注意

2-3. 母材の温度差・加熱ムラ

原因:
片側だけに加熱すると、ろうが温かい側ばかりに引き寄せられ、流れが偏る。

対処法:

  • 母材全体を均等に加熱するように心がける。
  • トーチは接合部全体を包むように加熱。
  • 必要に応じて二方向から加熱する。

2-4. すきま(クリアランス)が不適切

原因:
接合部の隙間が広すぎる、または狭すぎると、毛細管現象によってろうがうまく流れません。

対処法:

  • 適切な隙間:0.05〜0.2mm程度が理想。
  • 部品の加工精度を上げて均一なクリアランスを確保する。
  • 隙間が狭すぎる場合は、表面のバリ取りや調整加工を行う。

2-5. 加熱順序・時間の不適切さ

原因:
加熱を急ぎすぎるとろう材がすぐに溶けても、母材が温まっておらず流れません。

対処法:

  • 最初に母材を十分加熱しておく。
  • ろう材は最後に投入することで、均一な流れを確保。
  • 加熱時間を焦らず徐々に延ばす

3. 実作業時に確認すべきチェックリスト

項目確認内容解決策
温度融点に達しているか温度計の使用、加熱強度の調整
表面処理汚れ・酸化膜があるか研磨・脱脂・酸洗い
フラックス十分な量と種類か再塗布、適合品の使用
すきま適切な隙間か加工精度を確認、調整加工
ろう材種類・劣化の有無合金比率、保管状態を見直す

4. 失敗を防ぐためのポイントまとめ

ろうが溶けない・流れないという不具合は、以下のように「熱」「材料」「表面状態」の3つの観点で整理できます。

  • 熱: 加熱温度と時間、加熱範囲に注意。特に母材の温度が鍵。
  • 材料: ろう材・フラックスの種類と状態を再確認。
  • 表面: 母材・ろう材の酸化・汚れは、必ず除去しておく。

また、経験が浅い現場や新しい材質を扱う際には、事前に試験接合を行い条件出しをすることが極めて重要です。


5. よくあるトラブル事例と改善例

トラブル原因改善策
ろうが玉になって固まる表面酸化、フラックス不足表面研磨・フラックス再塗布
一方向にしか流れない加熱ムラ、温度差均一加熱・トーチ位置調整
ろうが母材を濡らさない油分や酸化皮膜脱脂・研磨・酸洗い

まとめ

ろう付け作業において「ろうが溶けない」「ろうが流れない」といった問題は、実際の現場で非常に多く見られます。しかし、原因の大半は熱処理の不適切さ母材表面の管理不備にあります。正しい温度管理、適切な前処理、そして母材・ろう材・フラックスの選定を行えば、多くの問題は回避可能です。

ろう材が動かない時は焦らずに、原因をひとつずつ論理的に切り分け、再調整することが成功への近道です。安定した品質と接合強度を得るためにも、日頃からの基礎管理と観察力が重要です。

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