切削加工関連

◆快削ステンレス(SUS303)の特徴と使いどころ

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はじめに

ステンレス鋼は、耐食性と機械的特性に優れた材料として多くの産業で広く使われています。その中でも、「快削ステンレス」と呼ばれるSUS303は、機械加工のしやすさを重視して設計された材料です。特に自動旋盤加工や多品種小ロットの切削加工において、多くの現場で重宝されています。

本記事では、SUS303の基本的な特徴や他ステンレス鋼との違い、加工時の利点や注意点、さらに具体的な使用例や使いどころについて詳しく解説します。


1. SUS303とは? ─ 基礎的な材料概要

1-1. 化学成分とJIS規格

SUS303は、オーステナイト系ステンレス(18Cr-8Ni系)に属する材料で、SUS304を母材とし、硫黄(S)やセレン(Se)を添加することで快削性を向上させたものです。

成分含有量(代表値)
炭素(C)0.15%以下
ケイ素(Si)1.00%以下
マンガン(Mn)2.00%以下
リン(P)0.20%以下
硫黄(S)0.15%以上(快削の鍵)
クロム(Cr)17.0~19.0%
ニッケル(Ni)8.0~10.0%

SUS304との大きな違いは、硫黄やセレンの添加によって切削性が大幅に改善されている点です。

1-2. 快削性とは?

快削性とは、被削材が切削工具に与える負担が少なく、加工がしやすい特性を意味します。具体的には、

  • 工具摩耗の減少
  • 切りくずの分断性が良好
  • 加工時間の短縮
  • 面粗度の向上

といったメリットがあります。


2. SUS303の主な特徴

2-1. 加工性に優れる

SUS303の最大の特徴は、高い切削性です。硫黄添加により被削性が大きく向上しており、自動盤やCNC旋盤による量産切削に最適です。

2-2. 耐食性はSUS304よりやや劣る

硫黄添加により鋼中に非金属介在物(MnS)が多くなるため、粒界腐食や隙間腐食に対する耐性はSUS304よりやや劣る傾向にあります。

特に海水や強酸環境下での使用には適しておらず、耐食性を求めるならSUS316やSUS304を優先する必要があります

2-3. 溶接性は劣る

硫黄の存在により溶接部の品質が低下する可能性があるため、SUS303は溶接には不向きとされています。溶接が必要な場合は、SUS304や他のステンレスを選ぶ方が適しています。

2-4. 外観が良好

切削性の良さから、加工後の表面仕上げが非常に良好で、光沢のある外観が得られやすいという点も、機能だけでなく見た目を重視する製品に向いています。


3. 他のステンレス鋼との比較

特性項目SUS303SUS304SUS316
快削性◎(非常に高い)△(一般的)△(やや低い)
耐食性△(硫黄でやや劣る)◎(汎用性が高い)◎(耐塩素性あり)
溶接性×(不向き)◎(良好)◎(良好)
加工表面性◎(良好な光沢)○(標準)○(標準)
主な用途精密機器部品、小物キッチン器具、建材医療機器、海水機器

4. SUS303の使いどころ(代表的な用途)

SUS303はその高い加工性を活かして、主に以下のような部品や製品に使用されています。

4-1. 自動車・機械部品

  • スリーブ
  • シャフト
  • ボルト・ナット
  • ブッシュ類

高精度かつ大量生産が求められる部品に最適です。SUS303はCNC旋盤での量産加工に対応しやすいため、製品単価も抑えられます。

4-2. 電子機器部品

  • 端子部品
  • 精密コネクタ
  • センサーケース

小型・精密・大量という要件に対応しやすいのがSUS303です。

4-3. 一般産業機器・設備部品

  • フィッティング(継手)
  • ポンプ部品
  • バルブ構成部品

耐圧性・強度と加工性のバランスを取りたい場面に適しています。


5. 加工現場でのポイントと注意事項

5-1. 工具選定の工夫

快削材といえども、オーステナイト系ステンレス特有の加工硬化性を考慮し、以下のような工夫が重要です。

  • 超硬工具やコーティング工具を使用
  • シャープな切れ刃の使用
  • 低送り・中高回転の条件設定
  • クーラントを充分に使用して焼き付き防止

5-2. 切りくず管理

SUS303は比較的短く切れやすい切りくずが出るため、機内清掃や切りくず詰まりのトラブルが少ないという利点があります。ただし、スリット状に長くなると機内トラブルの原因になることもあるため、チップブレーカー形状との組み合わせに注意が必要です。

5-3. 加工後の処理

耐食性がSUS304に比べやや低いため、加工後に脱脂・パッシベーション処理を行うことで、耐食性の低下を防ぐことが推奨されます。


6. SUS303の課題と対策

課題対策法
耐食性がSUS304より劣る使用環境を限定/パッシベーション処理を追加
溶接性が悪い溶接が必要な箇所では他材質を採用
コストがやや高い場合がある加工効率向上によりトータルコストを最適化
RoHS対応が課題となる場合も硫黄ではなくセレン系(SUS303Se)を採用検討

7. SUS303とSUS303Seの違い

SUS303には、**硫黄系(Sタイプ)とセレン系(Seタイプ)**の2種類が存在します。

種類添加元素特徴
SUS303硫黄(S)切削性高いが耐食性にやや難あり
SUS303Seセレン(Se)快削性+耐食性のバランスがやや良好

RoHS対応や医療機器用途では、SUS303Seが選定される傾向があります。


8. 現場の声:SUS303採用のメリット

製造現場で実際にSUS303を扱う技術者からは、以下のような評価が聞かれます。

  • 「切削音が安定していて工具寿命が長い」
  • 「仕上がり面が非常に美しいので、追加研磨が不要になることが多い」
  • 「切りくずが絡みにくく、長時間の連続運転に向いている」

その一方で、使用環境には制約があり、腐食環境では避けるべき材料という認識も浸透しています。


まとめ

快削ステンレスであるSUS303は、切削加工性を最大限に高めた素材として、自動旋盤加工や大量生産部品でその真価を発揮する材料です。SUS304などと比べて溶接や耐食性には制限があるものの、加工性を重視する現場では圧倒的な効率を提供してくれます。

選定時には、使用環境や部品機能を十分に考慮した上で、SUS303と他材質との適材適所の見極めが重要です。

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