切削加工関連

◆ステンレスと鉄の切削加工の違いとは?

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金属加工の現場において、ステンレス鋼と鉄(炭素鋼・軟鋼など)はどちらも広く用いられています。しかし、両者の切削加工には明確な違いがあり、工具選定・切削条件・仕上がり精度・加工時間などに大きく影響します。本稿では、切削加工におけるステンレスと鉄の相違点を、材料特性・加工性・工具摩耗・加工不良・コスト面など多角的な観点から掘り下げ、現場で役立つ知識として整理します。


1. 材料特性の違いが加工性に及ぼす影響

1-1. 鉄(軟鋼・炭素鋼)の基本特性

鉄は地球上で最も一般的な構造用金属であり、炭素含有量により以下のように分類されます。

  • 軟鋼(低炭素鋼):炭素含有量0.25%以下
  • 中炭素鋼・高炭素鋼:炭素含有量が多いほど硬度・強度が増す

鉄は靭性があり、塑性加工性や切削性も比較的良好であるため、初期加工材として多用されます。

1-2. ステンレス鋼の特性

ステンレスは鉄をベースにクロム(Cr)を12%以上添加した合金で、耐食性に優れます。代表的なステンレスには以下のような種類があります。

  • オーステナイト系(SUS304等):耐食性が高く非磁性、加工硬化が起きやすい
  • フェライト系(SUS430等):磁性あり、加工性良好
  • マルテンサイト系(SUS420等):硬度が高く、加工は困難

このように、ステンレスは種類によって特性が大きく異なり、鉄よりも複雑な加工対応が必要です。


2. 切削抵抗と加工硬化の差異

2-1. 鉄の切削抵抗

鉄は基本的に切削抵抗が小さく、連続切削性も良好です。とくに軟鋼(SS400等)は加工性に優れており、工具への負担も比較的軽微です。

2-2. ステンレスの切削抵抗と加工硬化

オーステナイト系ステンレス(SUS304など)は加工硬化性が強く、切削中に表面硬化が進むため、以下の問題が生じます。

  • 工具が摩耗しやすい
  • 切りくずが粘着しやすい(Built-up Edge)
  • 加工中の熱が逃げにくく、熱変形やビビりの原因となる

このため、鉄と比べて切削抵抗が大きく、加工効率が低下する傾向にあります。


3. 工具摩耗と寿命の比較

3-1. 鉄の加工における工具摩耗

鉄の切削では、工具摩耗は緩やかで安定しやすく、一般的な超硬工具や高速度鋼(HSS)工具でも長寿命が期待できます。

3-2. ステンレス加工時の工具へのダメージ

ステンレスは、以下のような理由から工具摩耗を加速させます。

  • 加工硬化で表面が硬くなる
  • 切削熱が逃げにくく、工具先端に集中する
  • 切りくずが粘着して切れ刃を損傷

このため、コーティング超硬工具(TiAlNなど)やセラミック工具、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングなど、耐熱・耐摩耗性に優れた工具が必要になります。


4. 切削条件の違い

4-1. 鉄の切削条件(代表例)

項目値(参考)
切削速度100~180 m/min
送り速度0.1~0.3 mm/rev
切込み量1~3 mm

4-2. ステンレスの切削条件(SUS304等)

項目値(参考)
切削速度50~80 m/min
送り速度0.05~0.2 mm/rev
切込み量0.5~2 mm

ステンレスでは熱の影響を抑えるため、低速・高送りを意識した条件設定が基本です。


5. 切りくず処理の違い

鉄は比較的短く折れる切りくずを生成するため、切りくず処理が容易です。一方、ステンレスは延性が高く、長く絡まりやすい切りくずが出るため、チップブレーカー付きインサートや高圧クーラントの活用が重要になります。


6. 加工品質と不良対策

項目ステンレス
面粗度比較的良好条件次第で粗くなりやすい
寸法安定性熱変形は少なめ熱集中で精度が狂いやすい
ビビり発生率少なめ工具負荷増で発生しやすい
バリ発生抑えやすい粘性があるためバリが出やすい

ステンレスは加工条件に対するシビアな制御が求められ、わずかな変動でも不良につながりやすい点が難点です。


7. 加工コストと生産性の差

7-1. 鉄加工のコスト感

  • 工具寿命が長く、工具交換頻度が少ない
  • 加工速度が高いため、サイクルタイムが短い
  • 不良品発生率が低く、歩留まりが高い

以上より、鉄の加工はコストパフォーマンスが高く、生産性にも優れるといえます。

7-2. ステンレス加工のコスト課題

  • 工具消耗が早く、コスト高
  • 加工速度が低く、加工時間が長い
  • 不良リスクが高く、再加工の手間が増える

結果として、同等の加工でも1.2~2倍以上のコスト差が出ることも珍しくありません。


8. 現場での工夫と対応策

課題ステンレスでの対応策
工具寿命が短いコーティング工具の使用、適切な切削油の活用
切りくずが絡むチップブレーカー付きインサート、高圧クーラント
加工熱がこもる切削条件の見直し、間欠切削の活用
面粗度が悪化するシャープな切れ刃使用、低振動加工

これらを適切に組み合わせることで、ステンレス加工の効率化・安定化が図れます。


9. 結論|「鉄=初心者向け、ステンレス=上級者向け」と言われる理由

鉄は安定性が高く、加工しやすいため初心者にも扱いやすい材料です。一方、ステンレスは材料自体の特性により、加工ノウハウ・機械設備・工具選定すべてに高度な知識と経験が求められます。

つまり、鉄とステンレスは見た目こそ似ていても、加工における「戦略」はまったく異なるのです。現場での成功は、材料特性に応じた最適な加工設計・条件設定にかかっています。

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