ろう付け加工関連

◆ろう付けのJIS規格とは?~日本産業規格に基づく品質と信頼性の基準~

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はじめに

ろう付けは、異なる金属同士を溶接する手法の一つであり、特に精密機器、自動車部品、冷暖房設備、電子機器など多様な産業分野で活用されています。接合に用いる「ろう材」を溶融させて母材間の隙間に流し込み、接合強度と密閉性の高い継手を形成するこの技術は、作業条件や使用材料によって品質が大きく左右されるため、標準化された基準が必要とされます。

本記事では、日本国内でろう付け技術の品質と安全性を保証するために定められている**JIS(日本産業規格)**について詳しく解説します。特に、「ろう材の分類と記号」「適用される主なJIS規格」「試験方法」など、実務上必要となる内容に焦点を当てて紹介します。


1. JISとは何か?

1-1. 日本産業規格(JIS)の概要

JIS(Japanese Industrial Standards)は、日本の産業製品や技術的プロセスに関する標準規格で、経済産業省の管轄のもと、日本産業標準調査会(JISC)によって制定・改訂されます。JISの目的は以下の通りです。

  • 品質の均一化と向上
  • 安全性の確保
  • 取引や契約時の基準明確化
  • 国際標準(ISO/IEC)との整合

ろう付けに関してもJIS規格が複数存在しており、作業者、設計者、材料メーカーが共通の基準のもとで工程管理を行う上での指針となっています。


2. ろう材のJIS規格

ろう付けにおいて最も重要な要素の一つが「ろう材(ろう)」です。JISでは、ろう材の種類に応じて、適用規格が詳細に定められています。

2-1. 銀ろう:JIS Z 3261

**JIS Z 3261(銀ろう)**は、ろう付け用の銀基ろう材について定めた規格です。銀ろうは、溶融温度が比較的低く、濡れ性や流動性に優れるため、多くの分野で使用されます。

主な規格記号と組成例(重量%):

JIS記号銀(Ag)銅(Cu)亜鉛(Zn)その他(Cdなど)融点(℃)
BAg-1451516Cd 24約620
BAg-7562217Sn 5約630
BAg-87228約778

※カドミウム含有のろう材は、RoHSやREACHなどの環境規制により制限対象です。

2-2. 銅ろう:JIS Z 3262

**JIS Z 3262(銅ろう)**では、主に銅およびリンを主成分とするろう材が対象です。銅―リン系ろう材(例:BCuP-2)は、銅管の配管作業などで使用されることが多く、フラックスなしでもろう付け可能な場合があります。

代表的な規格例:

JIS記号銅(Cu)リン(P)銀(Ag)融点(℃)
BCuP-292.87.2約715
BCuP-586.06.06.0約650

2-3. アルミニウムろう:JIS Z 3263

JIS Z 3263は、アルミニウムとその合金のろう付けに用いるろう材を規定しています。アルミは酸化膜を持つため、ろう付けには特殊な技術と専用のろう材が必要です。

2-4. 軟ろう(ソルダ):JIS Z 3282

「軟ろう」は融点が450℃未満のろう材を指し、主に電子部品や配線に用いられます。JIS Z 3282は、鉛・錫・銀などを主成分とするはんだの種類を規定しています。

代表例:

JIS記号成分融点(℃)
Sn60Pb40錫60%、鉛40%約183~190
Sn96Ag4錫96%、銀4%約221

3. ろう付け作業の規格:JIS Z 3133 ほか

3-1. JIS Z 3133:ろう付け試験方法

JIS Z 3133は、ろう付け継手の品質評価方法に関する基準です。代表的な試験には以下が含まれます。

  • 引張試験:接合部の機械的強度を評価
  • 浸透探傷試験(PT):表面欠陥(ピンホール・クラック)の検出
  • 外観検査:流れ具合や余盛の有無などを目視確認
  • 接合部の断面観察:金属組織や濡れ性の確認

3-2. JIS Z 3121:ろう付け記号

図面にろう付けを指示するための記号表記について定めた規格がJIS Z 3121です。溶接と同様に、ろう付けにも矢線、補助記号、ろう付けの種類を示す記号などが用いられます。


4. JISと国際規格(ISO)の整合性

日本国内ではJIS規格が広く用いられていますが、グローバルな取引を行う企業にとっては**ISO規格(国際標準化機構)**との整合性も重要です。以下のように、JISは多くの場合ISO規格と整合されており、輸出や海外工場での製造にも対応可能です。

分類JIS規格名対応するISO
銀ろうJIS Z 3261ISO 17672
銅ろうJIS Z 3262ISO 17672
軟ろうJIS Z 3282ISO 9453

5. JIS規格の重要性と実務での活用例

JIS規格に準拠することには、以下のような実務的な利点があります。

  • 設計段階での仕様明確化:材料選定や温度条件の統一
  • 品質保証:規格に基づく材料選定と作業管理
  • 取引の円滑化:発注仕様書・検査記録の共通言語
  • トレーサビリティの確保:使用材料や検査履歴の明確化

たとえば自動車部品メーカーでは、JIS Z 3261に準拠した銀ろうを使用し、JIS Z 3133に基づいた試験成績書を添付することで、安全性と信頼性を証明する体制が整えられています。


6. ろう付け技能者資格とJIS

JISは、ろう付け技能の評価制度にも密接に関連しています。国家技能検定制度では、ろう付け作業の資格として「溶接技能者評価試験」があり、試験内容や判定基準はJIS Z 3811(溶接技能者の評価試験方法)などに基づいて構成されています。


おわりに

ろう付け技術は、目に見えない部分で社会を支える重要な接合技術です。その品質と安全性を確保するうえで、JIS規格の存在は欠かせません。JISは単なる「決まり」ではなく、製造現場での信頼性、国際取引における共通基準、そして企業や現場の技術レベルを保証する道しるべとして活用されているのです。

今後、環境対応や国際標準とのさらなる整合が進む中でも、JIS規格はろう付け業界における技術の柱であり続けるでしょう。

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