切削加工関連

高硬度材の切削加工における注意点 ~工具寿命と加工品質を守るためのポイント~

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はじめに

近年、自動車や航空機、金型業界など、耐摩耗性・耐熱性・高強度を求められる部品の使用が増える中で、高硬度材の切削加工の重要性が増しています。高硬度材(HRC55以上の材質)とは、焼入れ鋼や焼結合金、超硬材などを指し、従来の鉄やアルミと比べて非常に加工が難しい材料です。

本記事では、高硬度材の切削加工において必要な基礎知識から、現場で直面しやすい問題点、そしてその対応策までを詳しく解説します。


1. 高硬度材とは?

1-1 高硬度材の定義

一般的に、ロックウェル硬さ(HRC)で55以上の硬さを持つ材料が高硬度材に分類されます。代表的なものは以下の通りです:

材料名硬度用途例
焼入れ鋼(SKD11、SKH51など)HRC58~65金型、工具
焼結合金(フェライト系)HRC60前後高耐摩耗部品
セラミック系複合材HV1000以上超高耐熱部材

1-2 特性と加工への影響

高硬度材は次のような特性を持ちます:

  • 極めて高い耐摩耗性:加工に使用する工具が摩耗しやすい。
  • 低い熱伝導率:切削熱が加工点に集中し、工具損傷を招く。
  • 脆性破壊のリスク:切削条件を誤ると割れ・チッピングを誘発。

2. 切削工具の選定ポイント

高硬度材を正確かつ効率的に加工するためには、適切な工具選定が極めて重要です。

2-1 工具材質

工具材質特徴適用硬度
CBN(立方晶窒化ホウ素)高硬度加工に最適。耐摩耗性に優れるHRC55~70
超硬合金(コーティング品)汎用性が高くコストパフォーマンス良好HRC50~60
セラミック工具高速加工向きだが欠けやすいHRC60以下推奨

特にCBN工具は、高硬度焼入れ鋼への高能率切削において効果的です。価格は高めですが、工具寿命を考慮するとトータルでコストダウンになることが多いです。

2-2 工具形状とチップ

  • ネガティブなすくい角が有効(工具の強度を保つ)
  • 微細チップブレーカ付きで切りくず排出性向上
  • コーティングはTiAlNやAlCrN系が有効(耐熱性と潤滑性)

3. 切削条件の最適化

高硬度材の切削は、以下の要素を慎重に設定する必要があります。

3-1 切削速度(Vc)

高硬度材は**低速回転(20〜80 m/min)**での切削が基本です。高速では工具が瞬時に摩耗・破損します。

3-2 送り量(f)

送り量は過度に下げすぎると摩耗集中が発生するため、適切なバランスが必要です。0.05~0.2 mm/rev程度が一般的です。

3-3 切込み量(ap)

加工点に過大な負荷がかかるとチッピングやビビリが発生します。仕上げ加工では切込み量0.1mm以下が推奨されます。


4. 加工法の工夫

4-1 ドライ切削 vs ウェット切削

高硬度材の加工では、**ドライ切削(エアブロー)**が一般的です。理由は以下の通り:

  • 冷却液による熱衝撃が工具破損を招く
  • 工具表面に蒸気爆発が発生し、微細欠けが生じやすい

ただし、高圧クーラントを使用したウェット切削はチップ排出性に優れる場面もあり、使用条件により検討すべきです。

4-2 高速高送り加工の活用

高硬度鋼の荒加工では、近年「高速高送り加工(High Feed Milling)」が普及しています。専用エンドミルやスローアウェイチップを使用し、効率的に除去量を確保できます。


5. トラブル事例とその対策

5-1 工具の早期摩耗

原因:切削速度が高すぎる、送りが小さすぎる、工具選定不適
対策

  • 切削速度を再検討し、最適値に落とす
  • CBN工具や耐熱コーティングの導入
  • 送り量を適正化し、摩耗の集中を防ぐ

5-2 工具のチッピング・割れ

原因:加工熱の蓄積、断続切削、切りくず噛み込み
対策

  • 断続加工を避け、連続切削にする
  • エアブローで切りくずを効率よく除去
  • 食いつき部は面取りやR加工で負荷分散

5-3 加工面粗さの悪化

原因:工具摩耗、振動、切りくず詰まり
対策

  • 工具の定期交換・再研磨を実施
  • 工具突き出し長さを最短に調整
  • 加工条件を安定化し、共振を抑制

6. 高硬度材加工における現場の工夫

現場では以下のような工夫が効果的です:

工夫内容具体例
プログラム工夫加工点に徐々に食いつかせる「ヘリカル加工」などの導入
工具寿命管理加工回数ベースでの定期交換。摩耗限界の見える化
温度管理室温変化で寸法ずれを防ぐための恒温加工室導入

まとめ

高硬度材の切削加工は、極めて高い技術と精密な条件制御が求められる分野です。加工の難しさから敬遠されがちですが、適切な工具選定、加工条件の最適化、そして現場での創意工夫によって、高精度・高効率の加工が実現できます。

加工品質の向上、工具寿命の延長、生産性の確保といった観点からも、高硬度材加工のノウハウを現場全体で共有・改善していくことが重要です。日々の加工データを蓄積し、PDCAサイクルを回していくことで、今後の競争力向上にもつながるでしょう。

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