ステンレス

炭素量で変わる鉄の性質:低炭素鋼・中炭素鋼・高炭素鋼の違い

mw2pp0jd6c

金属加工.comをご覧いただき、誠にありがとうございます。
本サイトは、山梨県・長野県にて切削加工やろう付けを行っている 北東技研工業株式会社 が運営しております。
金属加工に関するお困りごとがございましたら、ぜひお気軽に当社までご相談ください。

鉄鋼材料は、現代のものづくりの中で欠かせない存在です。建築、機械、自動車、家電など、あらゆる分野で使われています。しかし、一口に「鉄」といっても、その性質はさまざまです。実は、鉄の性質を決める大きな要因の一つが「炭素量(炭素の含有率)」です。
炭素の含有量が変わるだけで、鉄の硬さ、強さ、加工のしやすさ、靭性(ねばり強さ)などが大きく変化します。本記事では、炭素量によって分類される「低炭素鋼」「中炭素鋼」「高炭素鋼」の違いを、わかりやすく解説していきます。

炭素量が鉄の性質を変える理由

鉄そのものは、柔らかく加工しやすい金属です。しかし、純鉄(炭素をほとんど含まない鉄)は強度が低く、構造材料としてはあまり適していません。
この純鉄に「炭素(C)」をわずかに加えることで、鉄の中に「鉄炭素合金」としての構造が形成されます。炭素は鉄の結晶格子の間に入り込み、格子の歪みを生じさせることで、すべり(変形)を妨げます。これによって、鉄の硬さや強度が増すのです。

一方で、炭素が増えすぎると、鉄は硬くなる代わりに脆くなります。つまり、「強くて硬いが割れやすい」という性質に変化します。このため、用途によって適切な炭素量を選ぶことが重要になります。
一般的に、炭素含有量による分類は次のようになります。

  • 低炭素鋼(軟鋼):炭素量 0.25%以下
  • 中炭素鋼:炭素量 0.25~0.6%程度
  • 高炭素鋼:炭素量 0.6~1.5%程度

それでは、それぞれの特徴と用途について詳しく見ていきましょう。

低炭素鋼(軟鋼)の特徴と用途

低炭素鋼の性質

低炭素鋼は、炭素の含有量が最も少ない鉄鋼で、柔らかくて延性に富んでいます。「軟鋼(なんこう)」とも呼ばれます。
この鋼種は、**加工のしやすさ(塑性加工性・溶接性)**に優れ、構造材や一般機械部品に多く使われます。

主な特徴は以下の通りです。

  • 強度は比較的低いが、粘り強く壊れにくい
  • 冷間加工(プレス・曲げ・絞りなど)に適している
  • 溶接や切削加工が容易
  • 熱処理による性質変化は小さい

つまり、**「強度よりも加工性が重要な場面」**でよく使われる材料です。

低炭素鋼の用途

低炭素鋼は、次のような分野で幅広く使用されています。

  • 自動車のボディパネル、フレーム部品
  • 建築構造材(鉄骨、鋼管など)
  • 家電製品の外装部品
  • ボルト・ナット・ワッシャーなどの一般締結部品
  • 板金製品や機械カバー

また、低炭素鋼は溶接性が非常に良いため、橋梁や建物などの溶接構造物にも多用されます。コスト面でも安価なため、最も一般的な鉄鋼材料のひとつです。

中炭素鋼の特徴と用途

中炭素鋼の性質

中炭素鋼は、低炭素鋼と高炭素鋼の中間に位置する材料で、強度と靭性のバランスが取れた鋼です。炭素量は0.25〜0.6%程度で、熱処理によって機械的性質を大きく変化させることができます。
焼入れや焼戻しを施すことで、硬さ・耐摩耗性・引張強度を高めることが可能です。

主な特徴は次の通りです。

  • 熱処理により高強度化が可能
  • 靭性(ねばり)と硬さのバランスが良い
  • 溶接性は低炭素鋼より劣るが、機械的性質に優れる
  • 切削加工は比較的容易

このように、強度と加工性の両立が求められる部品に適しています。

中炭素鋼の用途

中炭素鋼は、以下のような機械部品に多く使用されます。

  • 自動車のシャフト、クランクシャフト、ギヤ、軸受け部品
  • ボルトやピンなどの締結部品
  • 鉄道車両や産業機械の回転軸
  • 圧力容器、機械構造用パーツ

代表的な鋼種としては「S45C」や「S35C」などがあり、これらは熱処理によって強度を高められるため、機械構造用炭素鋼としてJIS規格で広く使用されています。
特にS45Cは、焼入れ・焼戻し後に引張強度が高く、コストパフォーマンスに優れる万能素材として非常に人気があります。

高炭素鋼の特徴と用途

高炭素鋼の性質

高炭素鋼は、炭素量が0.6%以上の鋼で、硬度・強度が非常に高いのが特徴です。熱処理を施すと、表面硬さが著しく向上し、耐摩耗性に優れます。その一方で、脆さが増すため、衝撃や曲げに対しては弱くなります。
加工性や溶接性は低炭素鋼・中炭素鋼に比べて悪く、用途は限定されます。

主な特徴は以下の通りです。

  • 焼入れで高い硬度と耐摩耗性を発揮
  • 靭性が低く、衝撃に弱い
  • 切削・塑性加工は困難
  • 溶接には不向き

このため、**「硬さが求められるが、衝撃を受けにくい部品」**に使われます。

高炭素鋼の用途

高炭素鋼の代表的な用途には、次のようなものがあります。

  • 工具類(ドリル、タップ、ナイフ、ノコギリ刃など)
  • バネ(スプリング)
  • 刃物、包丁、はさみ類
  • 軸受け、ベアリング部品
  • 金型(冷間成形用など)

また、高炭素鋼の中でも特に炭素量が多いものは「炭素工具鋼」として分類され、**工具鋼(SK材)**として使用されます。
たとえば「SK85」「SK95」などは、包丁や刃物、鋸刃などの材料として知られています。これらは高い硬度を維持しながらも、研ぎ直しによる再利用が可能な点が特徴です。

炭素量による性質の比較表

分類炭素含有量硬さ強度靭性加工性溶接性主な用途
低炭素鋼約0.25%以下低い低い高い非常に良い良い建築材、板金、自動車ボディ
中炭素鋼0.25~0.6%中程度中〜高中程度良い普通シャフト、ギヤ、機械部品
高炭素鋼0.6~1.5%高い高い低い悪い不良工具、刃物、スプリング

このように、炭素量が増えるにつれて「硬さ・強度」が上がる一方、「靭性・加工性・溶接性」は低下します。
つまり、炭素量が少ないほど加工しやすく、炭素量が多いほど硬くて壊れやすいという関係にあります。

炭素量以外の影響要素

鉄鋼の性質は炭素量だけで決まるわけではありません。他の合金元素の添加や、熱処理方法によっても性質は大きく変わります。

合金元素の影響

マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)などの元素を加えることで、強度や耐食性、焼入れ性などを改善できます。

  • Mn(マンガン):強度と靭性を向上
  • Cr(クロム):耐摩耗性、耐食性を向上
  • Ni(ニッケル):靭性と耐衝撃性を改善
  • Mo(モリブデン):焼戻し軟化を防止

これらを含む鋼は「合金鋼」と呼ばれ、より高い性能を求める場面で使用されます。

熱処理の影響

炭素鋼は熱処理によって性質を自在に変えることができます。たとえば、焼入れで硬くし、焼戻しで靭性を与えることで、使用条件に合わせた調整が可能です。
低炭素鋼では熱処理の効果が小さいですが、中・高炭素鋼では非常に大きな効果が得られます。

炭素量の違いを理解して最適な材料選定を

鉄鋼材料を選ぶ際、最も重要なのは「どんな特性を重視するか」という点です。
たとえば、曲げやプレス加工を多用するなら低炭素鋼、強度が求められるなら中炭素鋼、摩耗に強い工具を作るなら高炭素鋼が適しています。

炭素量の違いは、単なる化学的な数字の差ではなく、「製品の性能と寿命を左右する重要な設計要素」です。
設計者・加工者の双方がこの関係を理解しておくことで、無駄のない材料選定やコスト削減にもつながります。

まとめ

炭素鋼は炭素量によって性質が大きく変化します。
炭素が少ないほど柔らかく加工しやすい反面、強度は低下します。逆に、炭素が多いほど硬く強くなりますが、脆く加工が難しくなります。

  • 低炭素鋼:加工性・溶接性重視
  • 中炭素鋼:強度と靭性のバランス
  • 高炭素鋼:硬度・耐摩耗性重視

鉄は「炭素との出会い」で強くなる金属です。その炭素量を上手くコントロールすることで、あらゆる製品に最適な特性を与えることができるのです。
炭素量の違いを理解することは、鉄鋼材料を扱う上での第一歩であり、ものづくりの基礎知識として非常に重要なポイントです。

いかがでしたでしょうか?
金属加工.comでは、他にも金属加工関連の情報を発信しております。他にも気になる記事がありましたら、是非ご覧ください。

金属加工.comのトップページはこちら↓

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 1-6-1024x116.png

関連記事はこちら↓

記事URLをコピーしました