◆ロウ材の形状と種類 接合品質を左右する基礎知識

はじめに
ろう付け(Brazing)は、古来より伝統的かつ実用的な金属接合技術として発展してきました。その中核となるのが、母材を接合するための**「ろう材」です。ろう付けにおける接合品質、作業性、コスト、強度、さらには腐食耐性までも、このろう材の種類と形状**によって大きく左右されます。
本稿では、ろう付け技術を実務で活用する上で必要不可欠な「ロウ材の形状と種類」について、理論的背景から現場での実用ポイントまで、徹底解説します。
第1章:ロウ材とは何か? -定義と分類-
1-1. ロウ材の基本定義
ろう材とは、ろう付け加工において使用される「母材よりも低い融点を持つ金属材料」のことを指します。接合部にこのろう材を加熱して溶かし、毛細管現象や表面張力によって接合面に広がらせ、冷却によって金属同士を接合する手法が「ろう付け」です。
ろう材には主に以下のような要件が求められます:
- 母材より低い融点を持つこと
- 優れた濡れ性・流動性があること
- 強固な接合界面を形成できること
- 腐食、温度、圧力に対する耐性があること
- 施工性が高いこと(加工しやすく、形状に自由度がある)
1-2. ハードろう材とソフトろう材
ろう材は一般に、その融点によって以下の2種に大別されます。
種類 | 融点範囲 | 用途 | 例 |
---|---|---|---|
ハードろう材(硬ろう材) | 約450℃以上 | 高強度・高耐熱を要する接合 | 銀ろう、銅ろう、ニッケルろう、アルミろう |
ソフトろう材(軟ろう材) | 約450℃未満 | 電子部品、配管、装飾品等 | はんだ(Sn-Pb、Sn-Ag、Sn-Cu等) |
本稿では、特に産業用接合におけるハードろう材に焦点を当てて、その形状と種類を詳細に解説します。
第2章:ロウ材の主な種類と特徴
ロウ材は、使用される金属元素の組み合わせによって様々な種類に分かれます。ここでは代表的なろう材の種類と、その特徴を見ていきましょう。
2-1. 銀ろう(Ag系)
概要:
- 最も一般的な高性能ろう材。
- 銅や鋼、ニッケルなど多くの金属との親和性が高い。
主成分例:
- Ag-Cu(銀銅ろう):Ag72Cu28など
- Ag-Cu-Zn(亜鉛添加により融点を下げる)
- Ag-Cu-Zn-Sn(スズによる流動性向上)
特徴:
- 優れた濡れ性と流動性
- 強度・靭性ともに高い
- 高価だが信頼性が高い
用途例:
- 医療機器、配管部品、電子部品、機械部品など
2-2. 銅ろう(Cu系)
概要:
- 安価で高温耐性があり、主に鋼部品の接合に使用される。
主成分例:
- Cu-P(リン入り銅ろう):Cu93P7など
特徴:
- 鉄鋼や銅との親和性が良い
- フラックスレスで使用できる(銅管など)
用途例:
- 空調配管、冷凍機器、給湯器など
2-3. ニッケルろう(Ni系)
概要:
- 高温環境でも強度を維持し、耐食性・耐酸化性にも優れる。
主成分例:
- Ni-Cr-B系、Ni-P-Si系など
特徴:
- 高融点(850~1100℃)
- 自動車・航空機・原子力分野で使用される
2-4. アルミニウムろう(Al系)
概要:
- 軽量化に貢献するが、取り扱いには高度な技術が求められる。
特徴:
- 融点が低く加工しやすいが、酸化膜処理が不可欠
- 主に自動車や熱交換器分野で使用
第3章:ロウ材の形状と特徴
ロウ材は形状によって使用方法や接合性能に違いが出ます。以下に主要な形状とその特徴を解説します。
3-1. 棒状(ロッド)
特徴:
- 手作業やトーチろう付けに向いている
- 銀ろうや銅ろうなど多くの種類がこの形で供給される
用途例:
- 小規模製造、補修作業、建設業など
3-2. リング状(プレフォームリング)
特徴:
- 接合部にぴったりと収まるよう設計されており、寸法安定性が高い
- 高信頼性が求められる自動車・航空部品で多用
用途例:
- ギアシャフト、バルブ、ベアリング等の接合
3-3. フィラー(リボン状・テープ状)
特徴:
- 広い接合面積に適しており、加圧接合などにも用いられる
- 均一なろう材供給が可能
用途例:
- 熱交換器、金型部品、工業機械
3-4. ペースト(クリーム)
特徴:
- ろう粉とフラックスを混合したもので、ディスペンサーでの塗布が可能
- 微細接合や複雑形状にも対応できる
用途例:
- 電子部品、自動化ライン、複雑な接合部品
3-5. 粉末(パウダー)
特徴:
- 分散性・拡散性に優れるため、真空ろう付けに適する
- 3Dプリンティングと組み合わせる応用も注目されている
3-6. ワイヤー状
特徴:
- 自動供給装置と組み合わせて連続作業可能
- ロボットアームとの親和性が高い
第4章:形状選定の実務的ポイント
ろう材の形状は、以下の観点から選定されます。
観点 | 推奨形状 |
---|---|
手作業か自動化か | 手作業 → 棒状・リング / 自動化 → ワイヤー・ペースト |
接合部形状が複雑か | 複雑 → ペースト・パウダー |
高強度が必要か | 高強度 → リング・リボン状 |
一体型部品か分割型か | 一体型 → フィラー / 分割型 → ロッド |
精密用途か | 精密 → 粉末・ペースト |
第5章:ろう材選定ミスによるトラブルと対策
5-1. 接合強度不足
- 原因:形状とクリアランスが不一致、濡れ性不良
- 対策:ろう材リングの寸法精度を再確認
5-2. ろう材の過剰・不足
- 原因:棒材の手投入ミスやペーストの吐出量不安定
- 対策:自動計量装置やプリフォームの活用
5-3. 残渣・ブリッジ不良
- 原因:フラックスとの相性不良、過剰供給
- 対策:適切なフラックスとの組み合わせ検討、リボン状ろう材の活用
第6章:新しいろう材形状と技術トレンド
近年では、以下のような革新的な形状・材料開発が進んでいます:
- 3Dプリンター対応ろう材粉末:金属AM(積層造形)との融合
- 無フラックスろう材:環境対応型技術の一環として注目
- 自己拡散型ペーストろう材:微細配管内などに自動浸透
これらは、高精度かつ持続可能なろう付け技術を支える次世代材料として重要視されています。
おわりに
ろう材の「種類」と「形状」は、ろう付けの品質、信頼性、そして生産性を左右する極めて重要な要素です。本記事では、実務現場に即した分類と特徴を中心に、選定・活用の指針を体系的に解説しました。
材料の知識と加工の現場感覚を融合させて、最適なろう材を選定することが、高品質な接合製品を生み出す第一歩です。この記事が、ろう付けに関わるすべての技術者の参考になれば幸いです。