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ステンレス鋼と炭素鋼の耐食性比較

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ステンレス鋼と炭素鋼の基本的な違い

金属材料の中でも、ステンレス鋼と炭素鋼は最も多く使われる代表的な鋼種です。どちらも主成分は「鉄」ですが、その性質は大きく異なります。特に「耐食性(さびにくさ)」に関しては、両者の差が明確に現れます。

まず炭素鋼は、鉄に炭素を加えたシンプルな合金です。炭素量を増減させることで硬さや強度を調整できる一方、さびやすいという弱点を持ちます。鉄は空気中の酸素や水分と反応し、酸化鉄(赤さび)を生じる性質があるため、表面がすぐに腐食してしまうのです。

一方のステンレス鋼は、鉄に「クロム(Cr)」を10.5%以上添加した合金鋼です。クロムが酸化して表面に非常に薄い「不動態皮膜」と呼ばれる保護膜を形成することで、鉄の腐食を防いでいます。この皮膜がステンレスの最大の特徴であり、錆びにくさの理由です。

つまり、炭素鋼とステンレス鋼の根本的な違いは「合金元素の構成」と「表面保護の有無」にあります。

耐食性のメカニズムを理解する

炭素鋼の腐食メカニズム

炭素鋼は鉄と炭素を主成分とするため、鉄の性質がほぼそのまま現れます。空気中や水分中に含まれる酸素と反応して酸化が進み、赤さび(Fe₂O₃)が発生します。この赤さびは多孔質で剥がれやすく、内部の鉄を守ることができません。結果として腐食が内部まで進行し、強度が低下していきます。

特に、海水環境や酸性雨などの塩分・酸性環境下では腐食速度が急激に増加します。鉄表面が濡れて乾くことを繰り返す条件下では、電気化学的な腐食反応(局部電池作用)が発生し、点食(ピッティング)や全面腐食を引き起こします。

ステンレス鋼の不動態皮膜による防食作用

ステンレス鋼の耐食性を決定づけるのが、「不動態皮膜」です。これは、ステンレス中のクロムが空気中の酸素と結合してできる、厚さわずか数ナノメートルの透明な酸化皮膜です。この皮膜は非常に緻密で、外部の酸素や水分を遮断するため、鉄が酸化するのを防ぎます。

さらに特徴的なのは、この皮膜が「自己修復性」を持つことです。表面が傷ついた場合でも、周囲に酸素が存在すれば、クロムが再び酸化して短時間で皮膜を再生します。そのため、多少の傷がついても腐食が進みにくいという性質があります。

環境による腐食挙動の違い

大気中での腐食

通常の屋内環境や乾燥した大気中では、炭素鋼も短期間であれば大きな腐食は起きません。しかし、湿度が高く、結露が生じやすい環境では急速に赤さびが発生します。特に屋外での使用や水がかかる環境では、数日で表面が変色し、数週間で腐食が進行します。

ステンレス鋼の場合、大気中での腐食はほとんど見られません。雨や湿気にさらされても、不動態皮膜が鉄の酸化を防ぐため、長期にわたって光沢を維持できます。ただし、海岸近くのように塩分が多い環境では、塩化物イオンによって皮膜が局所的に破壊され、「孔食(ピット腐食)」が発生することがあります。

水中や湿潤環境での腐食

炭素鋼は水に触れるとすぐに酸化が進行します。水道水のような中性環境でも腐食は避けられず、特に流速の遅い場所や汚れがたまる部分では錆びが顕著に現れます。

ステンレス鋼は水中でも比較的安定していますが、水質や温度によっては腐食の危険があります。特に塩素を含む水(プールや温泉など)や海水中では、塩化物腐食が発生しやすくなります。耐食性を向上させるためには、モリブデン(Mo)を添加したSUS316系ステンレスがよく使われます。

酸・アルカリ環境での腐食

炭素鋼は酸性環境に非常に弱く、酸洗いや化学薬品のタンクには適しません。短時間で腐食が進み、鉄イオンが溶出してしまいます。

ステンレス鋼は、酸性にも比較的強い耐性を持っています。ただし、塩酸や硫酸などの強酸では腐食が進む場合があり、環境によってはチタンやハステロイなどの高耐食合金が必要となります。

ステンレス鋼と炭素鋼の耐食性比較表

環境条件炭素鋼ステンレス鋼(SUS304)ステンレス鋼(SUS316)
大気中(乾燥)◎(短期使用可)◎◎(長期安定)◎◎(長期安定)
大気中(湿潤)×(錆発生)○(若干の変色)◎(安定)
水中(真水)×(腐食進行)○(安定)◎(非常に安定)
海水中××(急速腐食)×(孔食発生)○(高耐食)
酸性環境××(腐食)△(条件により腐食)○(強酸以外は良好)
アルカリ環境△(表面変色)○(安定)○(安定)

耐食性以外の性質の比較

耐食性はステンレス鋼の大きな利点ですが、炭素鋼にも優れた特徴があります。たとえば、機械的強度・加工性・コスト面では炭素鋼が優位な場合も多いです。

強度と加工性

炭素鋼は熱処理によって強度を自在に調整できるため、構造物や工具、機械部品などに広く使われています。焼入れ・焼戻し処理によって非常に高い硬度を得ることが可能です。

ステンレス鋼は耐食性に優れますが、炭素鋼に比べて加工が難しい傾向があります。特にオーステナイト系(SUS304など)は加工硬化しやすく、切削や成形に注意が必要です。

コスト面の比較

炭素鋼は素材コストが安く、溶接・加工・塗装などの二次加工も容易なため、量産品や低コスト製品に向いています。一方、ステンレス鋼は高価で、材料費だけで数倍の差が生じる場合もあります。

そのため、用途によって「耐食性を重視するか」「コストを重視するか」で選択が分かれます。

耐食性を高める工夫

炭素鋼でも、表面処理を行うことで一定の耐食性を得ることができます。主な方法には以下があります。

塗装・メッキによる防食

炭素鋼表面を塗装やメッキ(亜鉛メッキ・ニッケルメッキなど)で覆うことで、酸素や水分の侵入を防ぎます。特に溶融亜鉛メッキは防錆効果が高く、屋外構造物などに広く使われています。

ただし、これらの表面処理は傷がつくとその部分から腐食が進行します。長期的には定期的な補修や再塗装が必要になります。

ステンレス鋼の選定による防食

ステンレス鋼にも種類があり、環境によって適切なグレードを選定することが重要です。

  • SUS304:一般的な用途に最も多く使用。屋内・水回り・食品機器などに適する。
  • SUS316:モリブデン添加で耐塩性が高い。海岸部や化学プラントに最適。
  • SUS430:フェライト系でコストが安いが、耐食性はやや劣る。屋内機器向け。

使用環境を正確に把握し、適切なステンレス鋼を選ぶことが耐食性を最大限に活かすポイントです。

まとめ:用途に応じた最適な選択を

炭素鋼とステンレス鋼はどちらも優れた素材ですが、その強みは異なります。炭素鋼は強度とコストに優れ、ステンレス鋼は耐食性と美観性に優れています。つまり、「使う環境」と「求める性能」によって最適な選択が変わります。

  • 室内や乾燥した環境での構造部材 → 炭素鋼
  • 水・湿気・塩分に触れる環境 → ステンレス鋼(特にSUS316)

また、炭素鋼でも表面処理や塗装を適切に行えば、コストを抑えながら耐食性を確保することが可能です。

金属選定においては、単に「錆びにくいからステンレス」と決めつけるのではなく、環境・コスト・加工性のバランスを考慮することが、長期的な品質と経済性を両立させる鍵となります。

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