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◆青銅のJIS規格について

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1. はじめに:青銅とは何か

青銅(ブロンズ、Bronze)は、主成分である銅(Cu)に対してスズ(Sn)や亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、ニッケル(Ni)などを加えて得られる合金の総称です。一般的に、日本語で「青銅」と呼ぶ場合には「銅とスズを主体とした合金」を指すことが多いですが、広義ではリン青銅や砲金、黄銅(黄銅をブロンズと呼ぶのはさらに広義)なども含めて捉えられることがあります。なかでも「青銅」や「砲金(ほうきん)」の呼称は、歴史的に武器や大砲などを製造する際に用いられてきたところから来ているともいわれています。
現代においては、青銅は美術工芸品や記念碑などの鋳物分野だけでなく、軸受や歯車、配管部品、バルブなどの工業用途にも広く使われています。特に日本国内では、JIS(Japanese Industrial Standards)によってその化学成分や機械的特性が詳細に規定されており、材料選定や設計において重要な役割を果たしています。


2. JIS規格における銅合金の分類と青銅

日本産業規格(JIS)は、金属材料の分類・呼称において、「銅及び銅合金」の部門を幅広くカバーしています。銅合金には、大きく分けて以下のような種類があります。

  1. 純銅
    (Oxygen Free Copper, Tough Pitch Copperなど酸素含有量や脱酸方法による区分がある)
  2. 黄銅(Brass)
    (銅-亜鉛合金)
  3. 青銅(Bronze)
    • 銅-スズ系合金(いわゆる真の青銅)
    • 銅-アルミニウム系合金(アルミニウム青銅)
    • 銅-ニッケル系合金(洋白を含む場合もある)
    • リン青銅(銅-スズ-リン系合金)
    • 砲金(銅-スズ-亜鉛-鉛系合金)
    • 鉛青銅(銅-スズ-鉛系合金)
  4. 白銅(Cupro-nickel)
    (銅-ニッケル合金)
  5. その他特殊合金
    (ベリリウム銅など)

JISにおいては、たとえばJIS H 5101「銅及び銅合金鋳物」やJIS H 5111「銅合金鋳物品」、また板や条に関する**JIS H 3100「銅及び銅合金板条」**などにおいて、合金の呼び方や成分組成、機械的特性の範囲が細かく定められています。青銅系の合金は、しばしば「CAC(Copper Alloy Casting)」という記号で始まる鋳物用の分類記号や、「C(Copper)」で始まる鍛造材や圧延材用の記号で示されることが多いです。


3. 鋳造用青銅のJIS規格例

3.1 CAC記号の概要

鋳造用の銅合金は、一般的に「CAC○○○」という呼称で示されることが多く、JIS H 5101などに従い合金種類が細分化されています。ここでは青銅系を例に、いくつか代表的な鋳造用青銅合金を挙げてみます。

  • CAC202:リン青銅鋳物
    主に銅-スズ-リン系の合金。リンは脱酸剤として、また組織を微細化して強度や被削性を改善する役割も持つ。歯車や軸受ライナー、あるいは摩耗部品などに用いられることが多い。
  • CAC203:青銅鋳物
    銅-スズ-亜鉛系合金(ただしスズを主体とする)。砲金に近い性質を持つ場合もある。一般的な機械部品、バルブやポンプ部品、歯車など幅広い用途で使われる。
  • CAC406:砲金鋳物
    銅-スズ-亜鉛-鉛を含む合金で、いわゆる“Gunmetal”と呼ばれる。砲金は鋳造性が良好で、鋳肌も綺麗に仕上がることから、水道用バルブや船舶部品、ポンプ・バルブ類などに広く用いられている。
  • CAC407:鉛青銅鋳物
    銅-スズ-鉛を主体とした合金で、潤滑特性や被削性に優れる。軸受やブッシュなどの摩耗部品に広く利用される。

3.2 化学成分の範囲

JIS規格では、それぞれの合金に対して銅(Cu)、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、リン(P)、ニッケル(Ni)など主要な合金元素の含有量が「何%以上、何%以下」といった形で規定されています。たとえばCAC406(砲金)の場合、おおむね以下のような成分範囲(例)を示すことがあります(実際にはJIS票を要確認)。

  • Cu:80.0~85.0%
  • Sn:4.0~6.0%
  • Zn:2.0~4.0%
  • Pb:4.0~6.0%
  • P:0.05%以下(または0.15%以下など場合による)
  • NiやFeなどは微量

なお、上記はあくまで一例であり、JIS改訂やメーカーの独自仕様により多少異なることがある点に留意が必要です。

3.3 機械的性質

機械的性質としては、たとえば引張強さ(Tensile Strength, MPa)、伸び(%)、硬さ(HBまたはHRBなど)などがJISで定められています。一般に青銅は、過度な加工硬化を伴う黄銅などに比べ、やや粘り強さと鋳造性に優れ、同時に耐摩耗性や耐疲労性のバランスも良好であることから、部品全体の信頼性向上に寄与します。砲金系合金は、潤滑性の高いPb(鉛)成分を含むことで、軸受やピストンリングなど摺動部品に適した合金として長年使用されてきました。


4. 鍛造用青銅(圧延材など)のJIS規格例

青銅は鋳造材だけでなく、板・条・棒・線などの形状で供給されることもあります。特にリン青銅(Phosphor Bronze)は、ばね特性が強く、耐食性や耐疲労性にも優れるため、電子部品のリードフレームやコネクタ、ばね材料などで非常に広く使われています。こうした圧延材(鍛造品・板・条等)は、**JIS H 3100「銅及び銅合金板条」JIS H 3250「銅及び銅合金棒」**などで規定されています。

代表的なリン青銅には以下のような合金記号が存在します(鍛造材として)。

  • C5191:リン青銅(ばね・コネクタ向け)
  • C5210:リン青銅(C5191よりスズ含有量が多い)
  • C5240:リン青銅(さらなる高スズ含有)

いずれも、スズ含有量がおおむね5~9%程度の範囲にあり、リンは0.03~0.35%程度含まれる場合が多いです。リンの含有量が多すぎると鋳造欠陥や脆化の恐れがあり、逆に少なすぎると脱酸作用や組織微細化の効果が得られにくくなるため、JISの範囲内で厳密に管理されます。


5. 青銅の特性と用途

5.1 すべり特性・耐摩耗性

青銅は、スズや鉛を含有することにより、すべり特性や耐摩耗性が向上します。特に砲金は、液体潤滑が不十分な環境下でも焼き付きが起こりにくい特性を持つことが知られています。そのため、油まわりの悪い場所で使われる軸受やブッシュ、ギヤなどに適しています。加えて、鉛などを含む合金では切削加工性(被削性)も改善されるため、量産部品としての機械加工コストが抑えやすい利点もあります。

5.2 耐食性

銅合金は一般に大気中や淡水中での耐食性が良好で、海水中でも一定の耐食性を示す場合があります。スズを含む青銅は、特に塩化物による孔食などに対してある程度の耐性をもち、長期使用に耐えうる構造材として評価されています。この耐食性の高さは、船舶部品や海洋構造物、あるいは屋外モニュメントなどで大きなメリットとなります。

5.3 鋳造性と加工性

青銅の鋳造性は歴史的にも確立されており、温度管理と適切な合金組成により、流動性の良い溶湯を得やすいです。砲金(Gunmetal)などは流れが良く、複雑な形状の鋳物を一体成型する際にも適しています。一方、リン青銅やアルミニウム青銅などは強度がさらに必要な場合や、鍛造・塑性加工を施すケースで選択されます。鍛造材としての青銅は、冷間加工や熱間加工を行うことで、機械的特性を向上させることが可能です。ばね特性を向上させるには、焼きなましや時効硬化などの熱処理条件を工夫する必要があります。

5.4 電気的特性とばね特性

リン青銅などの青銅系合金は、導電率が純銅よりは低いものの、依然として非鉄金属の中では比較的高い導電率を保ちます。また、靱性やばね性に優れているため、電子部品のコネクタやスプリング端子などの部品として非常に多く利用されます。コネクタ材料としては、C5191やC5210が代表的であり、これらはエレクトロニクス産業で幅広く流通しています。


6. 代表的な青銅合金の具体例

JISでは青銅系合金を多数扱っていますが、その中でも特に使用頻度の高い代表例を挙げて、その特徴を簡潔にまとめます。

  1. CAC406(BC6Cとも呼ばれる砲金鋳物)
    • 化学組成:Cu80~85%、Sn4~6%、Pb4~6%前後、Zn数%
    • 特徴:軸受素材として優れた耐摩耗性と焼きつき防止特性。鋳造性が良好で、水道用バルブやポンプ部品に用いられる。
  2. CAC407(鉛青銅)
    • 化学組成:Cu70~80%、Sn5~10%、Pb5~15%程度(他微量)
    • 特徴:さらに鉛含有量が多いため、被削性やすべり特性が高く、低速軸受やブッシュに最適。
  3. C5191(リン青銅)
    • 化学組成:Sn5~7%程度、P0.03~0.35%程度、残部Cu
    • 特徴:ばね特性、耐疲労性、耐食性に優れる。板条材としてコネクタやバネ部品に多用される。
  4. C5210(リン青銅)
    • 化学組成:Sn7~9%程度、P0.03~0.35%程度、残部Cu
    • 特徴:C5191よりもSn含有量が多く、高強度・高ばね性が要求される部品に使用される。
  5. CAC203
    • 化学組成:Cu80~88%、Sn5~8%、Zn1~4%、Pb3%以下など
    • 特徴:いわゆる一般鋳物青銅。機械部品全般に使われ、良好な強度・耐摩耗性を持つ。

7. 青銅JIS規格の呼称体系

7.1 CAC記号の読み方

「CAC」は「Copper Alloy Castings」の略とされ、後に続く3ケタの数字で具体的な合金種を示します。たとえば「CAC406」は、4番台が砲金(Gunmetal)系であることが多く、「06」は大まかな組成範囲の差異を示す、というように認識されています。実際にはJISが示す順番で割り当てられているため、必ずしも数字だけで組成が連想できるわけではありませんが、企業や設計者の間で広く用いられる呼称です。

7.2 JIS H 5101とH 5111

  • JIS H 5101:「銅及び銅合金鋳物」
    銅合金の鋳造に関して、化学成分や機械的性質を定めた規格。CAC202、CAC203、CAC406、CAC407など多数の合金がここで扱われる。
  • JIS H 5111:「銅合金鋳物品」
    実際に製造された鋳物品の検査・品質保証事項などを定める規格で、寸法公差や品質検査方法などに関する規定が含まれる。

7.3 参考:鍛造・圧延用の規格

  • JIS H 3100:「銅及び銅合金板条」
    銅及び銅合金の板および条について、化学成分・機械的特性を定める。リン青銅、黄銅、洋白なども含まれる。
  • JIS H 3250:「銅及び銅合金棒」
    棒材に関する規格。リン青銅の棒、黄銅の棒などが対象。
  • JIS H 3300:「銅及び銅合金線」
    線材(ワイヤー)形状のものに関する規格。
  • JIS H 3400:「銅及び銅合金管」
    配管用の銅管・銅合金管が規定される。

8. 規格改訂や国際規格との比較

JISは定期的に見直しや改訂が行われることがあります。合金の製造技術の進歩や国際標準化機関(ISO)との整合性を図る必要性などから、番号が変更されたり、化学成分や機械的性質の許容範囲が修正されることがあるのです。
日本国内で使用される鋳物材料にはJIS規格が主流ですが、国際的にはASTM規格(米国材料試験協会)やEN規格(欧州規格)などとの対応付けも進められています。例えば、ASTM B62(銅合金鋳物)、UNS C83600(砲金系)などはJISのCAC406と近い成分範囲をもつことから、海外輸出時や国際調達時の相互参照が行われることがあります。


9. 青銅の使用上の注意点

9.1 鋳造欠陥と熱処理

青銅鋳造では、湯回り不良やガス欠陥、収縮によるすなどが発生しやすい合金もあります。適切な鋳型設計や湯口系配置、温度管理などの工程管理が求められます。また、リン青銅やアルミニウム青銅など、一部の青銅合金では鋳造後の熱処理(焼なましや焼鈍し)によって内部応力を除去したり、組織を安定化させることが推奨されています。JIS規格そのものは熱処理条件について細かく規定しない場合もありますが、メーカーやユーザーが独自の社内基準を設けて行うケースが多いです。

9.2 鉛含有と環境規制

鉛を含む青銅(砲金や鉛青銅)は、RoHS(特定有害物質使用制限)などの国際的な環境規制の対象となる場合があります。特に欧州向けの部品輸出では、鉛を含む材料を適用しにくくなってきている傾向があり、鉛フリー合金(例:高ニッケル青銅など)への置き換えが検討されることもあります。ただし、RoHS指令でも一部例外が認められている分野(摺動部品や特殊用途など)もあるため、実際の適用可否は最新の法規制情報を参照することが重要です。

9.3 加工変形と寸法管理

青銅は比較的やわらかい合金も多く、切削加工後に応力が残ると、使用時の温度変化や荷重変化で寸法がわずかに変形し、機械的なガタや漏れの原因になる場合があります。寸法精度を厳密に求められる部品では、仕上げ加工前に応力除去焼鈍を行う、あるいは一定期間自然時効させてから最終加工するなどの対策が推奨されます。


10. 今後の展望とまとめ

10.1 青銅の需要

青銅は、人類が最も古くから利用してきた金属材料の一つでありながら、現代でもなお新規用途が模索されています。特に精密加工分野では、リン青銅などがコネクタやばね材料として大量に利用されており、5GやIoTデバイスが普及するなかで安定的な需要が見込まれています。また、自動車や家電の軽量化・高機能化に伴い、アルミニウム合金やマグネシウム合金が注目されがちですが、摺動部品や高い剛性が必要な箇所、耐食性が欠かせない箇所などでは青銅系合金の存在感は依然として高いです。

10.2 規格の最新動向

JISの青銅規格は、世界的な環境対応やニーズの変化に合わせて、今後も見直しが行われる可能性があります。特に、鉛を含む砲金系合金については環境負荷低減の観点から、代替合金開発の動きが加速しています。一方、実使用では未だに砲金材料が圧倒的に普及しているため、当面は併用状態が続くと見られています。

10.3 まとめ

青銅は、銅合金の中でも特に歴史が長く、多様な特性を持つ材料です。JIS規格においては、鋳造用の「CAC○○○」シリーズや鍛造用の「C5xxx」シリーズなどが整備され、化学成分、機械的性質、用途に応じて詳細に分類されています。砲金(Gunmetal)やリン青銅(Phosphor Bronze)は、それぞれが異なる特性を持ち、軸受やバルブ、コネクタなど多岐にわたる分野で活用されています。

近年は環境規制との兼ね合いで鉛の使用が制限されるケースが増え、青銅材料も環境対応技術との両立が求められていますが、長所の多い材料であるがゆえ、今後も新たな合金設計や加工技術の進歩とともにさらなる発展が期待されます。最新のJIS規格票を参照のうえ、適切な合金を選定することで、青銅の持つ優れた特性を最大限に活かし、製品の高性能化や信頼性向上に貢献できるでしょう。

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