超硬工具とハイス工具の違いとは?〜特性・用途・選定ポイントを徹底解説〜

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はじめに
切削加工において、工具材質の選定は加工精度や生産性、コストに大きく影響します。中でも「超硬工具(超硬合金工具)」と「ハイス工具(高速度鋼工具)」は最も広く使用されている代表的な切削工具材質です。
両者は名前だけでなく、材質、性能、コスト、適用範囲などに明確な違いがあり、正しい使い分けが求められます。本記事では、超硬工具とハイス工具の違いをわかりやすく整理し、選定のポイントまで解説します。
1. 超硬工具とは?
概要
超硬工具は、**タングステンカーバイド(WC)**などの硬質材と、**コバルト(Co)**を結合剤として焼結した「超硬合金(セメントカーバイド)」を基材とする工具です。
特徴
特性項目 | 超硬工具の特徴 |
---|---|
硬さ | 非常に高い(HRC80以上) |
耐摩耗性 | 極めて高く、長寿命 |
靱性 | ハイスより低い(割れやすい) |
価格 | 高価 |
加工可能な速度 | 非常に速い(高切削速度に適応) |
適用分野 | 高速加工、量産加工、難削材(焼入れ鋼など) |
メリット
- 切削速度が速く、生産性が高い
- 耐摩耗性に優れ、長時間の加工が可能
- 刃先の精度保持に優れるため、寸法精度が高い
デメリット
- 衝撃に弱く、欠けやすい
- 成形や再研磨が難しく、再利用性に劣る
- 材料コストが高い
2. ハイス工具とは?
概要
ハイス工具は、「高速度鋼(High Speed Steel, HSS)」を素材とする工具で、鉄にタングステン、モリブデン、クロム、バナジウム、コバルトなどを添加した合金鋼です。
特徴
特性項目 | ハイス工具の特徴 |
---|---|
硬さ | 超硬よりは低い(HRC60前後) |
耐摩耗性 | 超硬より劣るが実用上は問題なし |
靱性 | 高く、欠けにくい |
価格 | 比較的安価 |
加工可能な速度 | 低〜中速 |
適用分野 | 少量加工、手動加工、工具成形が必要な場面など |
メリット
- 靱性が高く、割れにくい
- 再研磨や形状加工が容易
- 初期コストが低い
デメリット
- 高速加工には不向き
- 長時間加工では摩耗が早く、工具寿命が短い
- 難削材には対応しにくい
3. 材料特性の比較表
項目 | 超硬工具 | ハイス工具 |
---|---|---|
硬度 | 非常に高い(HRC80+) | 中程度(HRC60前後) |
靱性 | 低い(割れやすい) | 高い(割れにくい) |
切削速度 | 高速(200m/min以上) | 低速(50m/min前後) |
再研磨性 | 低い(難しい) | 高い(容易) |
初期コスト | 高い | 安い |
寿命 | 長寿命 | 短寿命 |
加工の安定性 | 高速域で安定 | 中低速域で安定 |
適合する被削材 | 難削材も対応可能 | 一般鋼、アルミ等 |
4. 用途の違い
用途例 | 適した工具 | 理由 |
---|---|---|
量産品の高速切削 | 超硬工具 | 長寿命・高精度・高速加工が可能 |
試作や少量生産 | ハイス工具 | コストが低く、工具変更が容易 |
手作業・現場加工 | ハイス工具 | 靱性があり衝撃に強いため扱いやすい |
焼入れ鋼やチタン合金の加工 | 超硬工具 | 高硬度材に対応可能な耐摩耗性が必要 |
精密加工(小径穴あけなど) | 超硬工具 | 剛性と精度が求められる場面に適す |
5. 選定時のポイント
切削工具を選ぶ際は、次のような観点で「超硬」と「ハイス」を選定します。
- 加工材質の硬さ:難削材なら超硬、有軟材ならハイスも選択肢
- 加工量・生産数:量産なら超硬、少量ならハイス
- 切削速度の要件:高速が必要なら超硬、汎用性重視ならハイス
- 設備の剛性:剛性が低い機械では、衝撃に強いハイスが安定
- コストと再研磨:コスト重視・再利用前提ならハイスが有利
6. ハイブリッドな使用事例
実際の現場では、工程や加工部位によって超硬とハイスを使い分けるケースも多くあります。例えば、
- 荒加工にハイス工具、仕上げに超硬工具を用いる
- 小径穴あけやミクロ加工に超硬、タップ加工にはハイスを使用
というように、最適な組み合わせを模索することで、コストと精度のバランスを図ることが可能です。
7. 今後の動向と新素材
最近では、超硬工具にコーティングを施すことで更なる耐摩耗性を付加した「コーティング超硬工具」や、**粉末ハイス(PM-HSS)**なども登場しています。
- コーティング超硬工具:TiAlNやAlCrNなどの膜を使用し、耐熱性・耐摩耗性が向上
- 粉末ハイス:微細な組織による性能向上、超硬とハイスの中間的な性質
これらの進化により、より細分化されたニーズに対応可能となりつつあります。
まとめ
比較項目 | 超硬工具 | ハイス工具 |
---|---|---|
主な特徴 | 高硬度・高耐摩耗・高速対応 | 高靱性・低価格・再研磨容易 |
向いている用途 | 高速・高精度・量産加工 | 手作業・試作・低速加工 |
主なデメリット | 脆い・高価 | 摩耗が早い・高速加工に不向き |
選定の目安 | 加工効率・耐久性重視 | コスト・使い回し重視 |
超硬とハイスの選定に正解はなく、加工内容・数量・機械特性・コストのバランスによって最適な選択が異なります。ぜひ本記事の内容を参考に、自社の加工ニーズに合った工具選定を行ってください。