切削加工関連

真鍮材料の種類と加工適性の違い

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1. はじめに

真鍮(しんちゅう)は、銅(Cu)と亜鉛(Zn)を主成分とする合金であり、古くから工業・建築・装飾など多方面で利用されてきた金属です。その優れた加工性と美しい外観、耐食性、電気伝導性などから、切削加工、塑性加工、鋳造など多様な用途に対応できます。しかし、一口に「真鍮」と言っても、含有元素の違いや組織構造の違いによって多くの種類に分類され、それぞれに加工適性も異なります。

本記事では、真鍮の主な種類とその加工適性の違いについて詳しく解説し、用途別の選定ポイントにも触れていきます。


2. 真鍮の基本構成と分類

2-1. 基本構成

真鍮は、銅と亜鉛を主成分とした合金で、一般的に亜鉛の含有比率が高まるほど強度が上がり、延性が下がります。そこに他の微量元素(鉛、錫、鉄、アルミニウム、マンガンなど)を添加することで、加工性や耐食性、機械的特性を調整しています。

2-2. 真鍮の大分類

真鍮は大きく次のように分類されます:

分類特徴代表的なJIS規格
単合金真鍮銅と亜鉛のみで構成されるC2600、C2801など
快削真鍮鉛を添加して切削性を高めた真鍮C3604
高強度真鍮鉄やマンガンを添加し強度を向上させたC6782、C6783
耐脱亜鉛真鍮錫やリンを添加し脱亜鉛を防ぐC6801など

3. 主な真鍮材料の種類と加工適性

3-1. C2600(70/30黄銅)

  • 組成:Cu 70%、Zn 30%
  • 特徴:延性・塑性が非常に高く、冷間加工に最適
  • 加工適性
    • 切削加工:△(被削性は良くない)
    • 塑性加工:◎(曲げ、深絞り、鍛造に適す)
  • 用途例:装飾品、板金、バッジ、金具、建築用部品

3-2. C2801(60/40黄銅)

  • 組成:Cu 60%、Zn 40%
  • 特徴:強度と延性のバランスが良い
  • 加工適性
    • 切削加工:△
    • 塑性加工:〇
  • 用途例:水栓金具、電気端子、冷間鍛造部品

3-3. C3604(快削黄銅)

  • 組成:Cu 約57~61%、Zn 約35~40%、Pb 約1.8~3.7%
  • 特徴:鉛の添加により非常に優れた被削性を持つ
  • 加工適性
    • 切削加工:◎(自動盤加工に最適)
    • 塑性加工:×(鉛含有により延性に乏しい)
  • 用途例:バルブ、ねじ、ナット、継手、切削加工全般

3-4. C3771(鍛造用真鍮)

  • 組成:Cu 58~62%、Zn 残部、Pb 1.0~3.0%
  • 特徴:鍛造適性が高く、機械加工性も一定レベルにある
  • 加工適性
    • 切削加工:〇
    • 塑性加工:◎(特に熱間鍛造)
  • 用途例:水栓部品、ガス機器部品、車載金具

3-5. C6782(高強度真鍮)

  • 組成:Cu 60~63%、Zn、Feなど
  • 特徴:鉄の添加により高強度化されている
  • 加工適性
    • 切削加工:〇
    • 塑性加工:△(硬くて成形性はやや低下)
  • 用途例:機械部品、建設機械、航空・防衛部品

3-6. C6801(耐脱亜鉛真鍮)

  • 組成:Cu 約60%、Zn、Sn(錫)、P(リン)など
  • 特徴:腐食環境下でも脱亜鉛が起こりにくい
  • 加工適性
    • 切削加工:〇
    • 塑性加工:〇
  • 用途例:水道部品、海水設備、衛生機器

4. 加工別の適性比較一覧

以下に代表的な真鍮材料について加工別の適性をまとめた表を掲載します:

材料名切削加工冷間加工熱間加工耐食性特記事項
C2600軽加工向け
C2801標準材
C3604××自動盤向け
C3771鍛造向け
C6782高強度材
C6801耐脱亜鉛性

5. 用途別に見る最適な真鍮材の選び方

自動旋盤加工品に最適:C3604

  • 高速加工でもバリが出にくく、工具寿命も長い。
  • 機械部品やねじ類で大量生産向き。

水回りやガス部品に最適:C3771 / C6801

  • 鍛造や高い耐食性が求められる環境に対応。
  • 水道法・JIS規格にも適合することが多い。

深絞り加工品や意匠品:C2600 / C2801

  • 光沢もあり加工性が高く、装飾品や楽器部品に適す。

6. 現場における材料選定の実務ポイント

  • 被削性を最重視する場合:C3604一択。ただし、RoHSや鉛フリー規制に注意。
  • RoHS対応・鉛レスが必要な場合:C6801、C6931など代替材料を検討。
  • 後加工(メッキ・ロウ付け)との相性:鉛フリー材はロウ付け性に課題があるため、事前に試作確認が重要。
  • コストバランス:高強度真鍮は価格が高いため、必要強度とコストを見極めた選定が必要。

7. まとめ

真鍮材料は種類が非常に多く、それぞれの特性と加工適性を理解することで、製品品質と生産効率を大きく向上させることが可能です。切削を主とするか、鍛造・絞り加工を行うか、水回りでの耐食性が求められるか――それぞれのニーズに応じて最適な真鍮材を選定することが、現場の品質保証と工程最適化に直結します。

真鍮は「万能材」とも言われますが、万能であるがゆえに「適材適所」の判断が極めて重要です。

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