切削加工関連

真鍮切削の基本プロセスと流れ

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真鍮(黄銅)は、優れた切削性と美しい仕上がりから、機械部品・装飾品・電気部品など幅広い用途に用いられています。特に快削性に優れたC3604などの材料は、NC旋盤やマシニングセンタを用いた量産加工にも適しており、多くの加工現場で採用されています。本記事では、真鍮の切削加工における基本的なプロセスと作業の流れについて詳しく解説します。


1. 材料選定と準備

1-1. 材料の種類の選定

真鍮には様々な種類がありますが、切削加工に最もよく使われるのは以下の通りです:

材料記号名称特徴
C3604快削黄銅切削性抜群、鉛含有で加工性向上
C2700黄銅(60:40)強度と延性のバランスが良い
C2801α-β真鍮やや硬く、強度が高い

1-2. 材料寸法と形状の確認

加工対象となる材料の外径、公差、長さなどを確認し、必要に応じて切断や矯正を行います。


2. 図面の確認と加工プランの立案

2-1. 加工図面の読み取り

図面には以下の情報が含まれています:

  • 外形寸法、公差
  • 表面粗さ(Ra指示)
  • ネジや溝などの詳細形状
  • 使用材質や熱処理指示

2-2. 加工順序の決定

加工順を間違えると変形や精度不良が起きるため、以下のように計画します:

  • 粗加工(荒取り)→ 中仕上げ → 仕上げ加工
  • 段取り替えの回数最小化
  • 公差部位を最後に加工する順序

3. 工具と加工条件の設定

真鍮は比較的柔らかく、切削抵抗が小さいため、高速加工や高能率加工に適した材料です。ただし、工具寿命・仕上げ面粗さ・バリの発生を考慮し、最適な工具選定と加工条件の設定が重要です。


3-1. 工具の選定(工具材質・形状・コーティング)

■ 工具材質の選定

真鍮は切削性が良いため、多くの場合「超硬合金(WC-Co系)」の工具が使用されます。高送り・高速条件でも摩耗しにくく、工具寿命が長いのが特長です。

材質特徴推奨用途
超硬合金高硬度・耐摩耗性に優れ、高速加工向き一般切削、量産加工
HSS(ハイス)低速でも安定加工可能、刃先が鋭い低速加工、小ロット品
PCD鏡面加工やバリゼロ加工向き高品位な外観を求める仕上げ加工

■ 工具形状と刃先角度

真鍮切削では、切削抵抗を低く抑えるため、大きめの逃げ角(10~15°)鋭利な刃先が望まれます。バイトやエンドミルでは、「ポジティブなすくい角」設計のものが有効です。

工具形状ポイント
ポジティブバイト切削抵抗が小さく、仕上げ面も良好
2枚刃エンドミル溝加工や曲面加工に最適、排屑性も良好
スロットドリル深穴・貫通穴向け、高速回転にも対応可能

■ コーティング有無の判断

真鍮は粘性が低く、切粉が工具にこびりつきにくいため、無コーティング工具でも十分です。ただし、**酸化チタン系(TiN)ダイヤモンドライクカーボン(DLC)**コーティングは工具寿命を延ばすために有効です。

コーティング特徴適用場面
無コーティング切削抵抗が少なく、安価で汎用性高い小ロット・短納期加工に最適
TiNコート耐摩耗性・熱安定性に優れる連続運転、軽切削
DLCコート超低摩擦でバリを抑制高精度な鏡面仕上げ品向け

3-2. 加工条件の設定(切削速度・送り・切込み)

加工条件は工具寿命、仕上げ面の粗さ、バリ発生率に直結するため、真鍮特有の性質を踏まえた設定が求められます。

■ 基本的な切削条件の目安(C3604 快削黄銅)

加工種別切削速度Vc (m/min)送り量f (mm/revまたはmm/tooth)切込み深さap (mm)
外径旋削150〜3000.05〜0.250.2〜1.5
穴あけ80〜2000.05〜0.2全長の3〜5%程度
フライス加工200〜4000.03〜0.20.2〜1.0

※切削速度は工具材質やマシン剛性により調整が必要です。
※送り量は、バリを抑えるために小さく設定することも有効です。

■ 注意点と最適化ポイント

  • 切削油の選定:水溶性よりも低粘度な油性切削油が滑らかな仕上げを得られやすい
  • 振動防止:高送り・大切込みではビビりが出やすいため、しっかりとしたクランプが必要
  • 切粉処理:真鍮の切粉は細かく巻きやすいので、切削チップ形状やブロワーによる排出対策が重要

3-3. 工具摩耗とその対策

真鍮は硬度が低いため摩耗しにくい素材ですが、量産加工では刃先の微細な摩耗が仕上げ面に影響を与えることがあります。

摩耗モード影響対策
刃先のなまくら面粗さ悪化、バリ増加定期的な工具交換 or 刃先再研磨
コーティング剥離切削熱増大、摩耗促進加工条件の見直し、切削油の改善
チッピング切削面に欠け、段差発生刃先強化タイプの工具を選定

3-1. 工具の選定

真鍮は切削性が高いため、以下のような工具がよく使われます:

工具種別用途特徴
超硬ドリル穴あけ高速で切削可能、摩耗に強い
超硬バイト外径・内径加工精度と仕上がりを両立できる
エンドミル平面・溝加工マシニングセンタで使用、精密加工対応可

3-2. 加工条件の設定

以下の条件を考慮して切削条件を設定します:

項目推奨値(C3604参考)
切削速度(Vc)100〜250 m/min
送り速度(f)0.05〜0.3 mm/rev
切込み深さ(ap)0.2〜2 mm

4. 加工機への段取りと芯出し

切削加工の精度・安定性・加工効率を左右するのが「段取り」と「芯出し」の工程です。特に真鍮のような精密部品に使用される材料では、加工開始前のこの工程が非常に重要です。ここでは、真鍮切削における段取り作業と芯出しの基本的な流れと注意点を解説します。


4-1. 機械への材料装着(段取り)

段取りとは、工作機械に対して加工物や治具、工具などを正確に設置する作業を指します。

■ 加工機と保持装置の確認

使用する加工機に応じて、適切な保持方法を選定する必要があります。

加工機種保持方法特徴
NC旋盤三つ爪スクロールチャックセンタリングが自動、段取りが早い
マシニングセンタ治具+バイス汎用性が高く、複雑形状に対応
自動旋盤コレットチャック量産向け、高精度保持が可能

■ 固定時の注意点

  • 締めすぎに注意:真鍮は比較的柔らかいため、チャックで締めすぎると変形の原因になります。
  • 接触面の清掃:材料とチャックの接触面に切粉や油分があると芯ずれや精度不良の原因になります。
  • 突き出し長の最適化:加工部位に必要な最小限の突き出し長に抑えることで、振動やビビりを防止できます。

4-2. 芯出しとワーク位置の調整

「芯出し」は、ワーク中心と機械主軸の中心を正確に一致させる作業です。これを正確に行わないと、偏芯による加工精度不良・形状不良が発生します。

■ 芯出し方法(旋盤・マシニング別)

加工機種芯出し方法使用工具例
NC旋盤ダイヤルゲージで外径を測定し調整ダイヤルゲージ、芯押し台など
マシニングセンタワーク原点を測定し座標設定タッチプローブ、エッジファインダ

■ 実際の芯出し手順(NC旋盤例)

  1. ワークをチャックに取り付け
  2. ダイヤルゲージで外径を360°測定
  3. 一番振れの大きい位置で微調整(チャック爪を緩めて位置修正)
  4. 全周の振れが±0.01〜0.02mm以内であることを確認

※真鍮加工では、±0.01mm程度の芯振れでも仕上がりに影響が出る場合があります。


4-3. 加工原点の設定(マシニング加工時)

マシニングセンタでは、加工プログラムに対して「ワーク座標系」を定義する必要があります。これはワーク上の「基準点=加工原点」のことです。

■ 原点設定の流れ

  1. ワークをバイス等に固定
  2. エッジファインダやプローブでX・Y・Zの各面に接触
  3. 機械座標に対し加工原点を登録(G54などのワーク座標系)
  4. Z方向は工具長補正と組み合わせて設定

■ ポイント

  • ワーク形状によっては中心ではなくコーナーを原点にした方がプログラミングが簡単
  • 加工途中で原点ズレが起きるとすべての寸法に誤差が出るため、必ず原点は二重確認する

4-4. 段取り時間の短縮とミス防止の工夫

量産加工では段取りのスピードと確実性が重要です。以下のような改善策があります:

工夫効果
専用治具の活用セット時間の短縮
タッチプローブによる自動原点測定人的ミスの削減、再現性向上
段取りチェックリストの運用作業抜けやミスの未然防止
工具プリセッタの導入工具交換時の時間短縮、精度維持

4-1. 機械への材料装着

チャックやバイスに材料を正しく固定します。真鍮は変形しにくい反面、薄物では振動に注意が必要です。

4-2. 芯出しと座標系の設定

ワークの中心と機械の主軸中心を一致させる「芯出し」や、加工原点の座標設定を行います。加工精度に大きく影響する重要工程です。


5. 切削加工の実行(加筆修正版)

切削加工の実行フェーズでは、いかに安定して高精度な加工が行えるかが品質・コスト・納期すべてに直結します。真鍮は切削性に優れており、条件さえ適切であれば非常にスムーズな加工が可能です。ただし、ビビリバリ切粉詰まりなどのトラブルも発生しやすいため、各加工段階における対策が重要です。


5-1. 荒加工(粗取り)

荒加工は、材料の大部分を削り取って大まかな形状を形成するプロセスです。時間短縮と工具寿命のバランスが求められます。

■ 主な目的

  • 不要な材料の迅速な除去
  • 最終形状に近い寸法へ近づける
  • 後工程(中仕上げ・仕上げ)の加工負荷軽減

■ 加工条件の設定ポイント

  • 切削速度(Vc):真鍮は高切削速度が可能。200〜300 m/min程度でも対応可能
  • 切込み深さ(ap):1〜2 mmの大きめ切込みで時間短縮
  • 送り量(f):工具剛性に応じて0.15〜0.3 mm/revの高送りが可能

■ 注意点

  • 工具摩耗の確認:荒加工でも刃先摩耗が激しいと後工程に影響するため、途中で点検すること
  • 排屑処理:切粉がワークや工具に絡むとビビリや表面傷の原因になるため、切粉ブローやクーラント噴射の調整が必要

5-2. 中仕上げ加工(セミフィニッシュ)

中仕上げは、寸法・形状を仕上げ寸法に近づける工程で、形状精度の土台となります。荒加工で生じた段差や加工痕を整える役割も持ちます。

■ 加工内容

  • 寸法公差 ±0.05mm程度の部位の仕上げ
  • ネジ下穴・段付き外径など、複雑形状の成形
  • バリを最小限に抑えるための刃先条件設定

■ 加工ポイント

  • 工具の「逃げ角」「すくい角」を再確認(鋭角すぎると刃欠けの原因に)
  • クーラントの供給位置・量の最適化(摩擦熱による変色防止)
  • できるだけ一発取りを心がけ、段取り替え回数を減らす

5-3. 仕上げ加工(フィニッシュ)

仕上げ加工は、最終的な寸法・表面粗さ・形状精度を仕上げる工程です。真鍮の場合、光沢のある美しい仕上がりを実現できることが特長ですが、それゆえ加工条件や工具状態が仕上げ面に顕著に現れます。

■ 対象となる加工部位

  • H7やIT6などの高精度公差部位
  • 装飾性を要求される外周部や表面
  • ネジ、キー溝など機能部品への精密加工

■ 加工条件と工夫

項目推奨設定
切削速度250〜350 m/min(超硬工具使用時)
送り量0.02〜0.05 mm/rev
切込み量0.1〜0.3 mm
  • 刃先を鋭く保つことが重要:摩耗した刃では光沢が出ず、面粗さも悪化
  • 低粘度油性切削油の使用で面粗さ・バリの抑制
  • 回転数の安定制御と機械剛性の確保:特に小径加工ではスピンドルの振動も考慮する

5-4. ネジ加工・溝加工などの特殊加工

真鍮部品では機能性をもたせるためのねじ切り加工・キー溝加工・テーパー加工も多く行われます。

■ ネジ加工のポイント

  • 真鍮はネジ山が崩れやすいため、切削工具は鋭利なものを使用
  • メートルネジ(M)だけでなく、管用テーパーネジ(PT)やインチネジも多い
  • タップ加工時は下穴精度潤滑が重要(ドリル径も慎重に選定)

■ 溝加工のポイント

  • Tスロットやキー溝など、段付き溝はバリが発生しやすいため、両側からの交差加工も有効
  • 切粉の排出経路確保が特に重要

5-5. バリ対策と表面仕上げ処理

真鍮はバリが発生しやすい特性があり、特に穴の出入口交差部位では注意が必要です。

■ バリ抑制の工夫

  • 加工条件の最適化(送り速度を遅くする)
  • ツールの刃先Rを大きめに設定
  • スキミング加工を追加して微細バリを除去

■ 表面処理(オプション)

表面コート(ニッケルメッキ等)

研磨仕上げ(バレル研磨、バフ研磨)

化学処理(防錆処理、酸洗い)

5-1. 荒加工(粗取り)

材料を大きく削り取り、形状を大まかに仕上げます。この段階で加工時間を短縮するために高送り・大切込みを行うこともあります。

5-2. 中仕上げ

寸法や形状をより図面に近づける加工。粗加工で生じたビビりや段差を取り除きます。

5-3. 仕上げ加工

精度部位(H7公差など)や外観要求のある箇所は、仕上げ専用の刃物・低送り条件で加工します。バリの除去もこのタイミングで行います。


6. 検査と品質確認

6-1. 寸法検査

マイクロメータ、ノギス、三次元測定機などを用い、各部寸法が図面公差内であることを確認します。

6-2. 外観検査

傷・打痕・バリがないか目視検査を行い、特に装飾用途では光沢や面粗さもチェックします。

6-3. バリ取り

切削後のエッジに残る微小なバリを除去します。手作業・バレル研磨・ブラシ加工などがあります。


7. 洗浄・出荷準備

7-1. 切削油や切粉の除去

切削加工後は油分や切粉を除去し、洗浄機やエアブローで清掃します。

7-2. 防錆・梱包

真鍮は比較的耐食性がありますが、酸化や水分付着による変色を防ぐため、防錆紙やポリ袋で包み、丁寧に梱包します。


まとめ

真鍮切削加工はその高い切削性から非常に効率の良い加工が可能ですが、図面読み取りから工具選定、精度管理まで一連の工程を適切に管理することが、品質と生産性の両立につながります。特に量産品では、段取り時間の短縮と不良削減が重要な課題となります。真鍮の特性を理解し、適切なプロセスを踏むことで、安定した製品供給が実現できます。

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