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◆真鍮のJIS規格について

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はじめに
真鍮(Brass)は主に銅(Cu)と亜鉛(Zn)を主体とした合金であり、古くから多様な分野で重宝されてきた伝統的な金属材料です。その美しい金色の外観や優れた加工性、腐食に対する耐性などから、建築部材や電気部品、装飾品、楽器など幅広い用途で利用されています。日本の工業規格であるJIS(Japanese Industrial Standards)においては、真鍮を含む銅合金に対して詳細な規定が設けられており、品番(材料記号)、化学成分、機械的特性、寸法・形状などが細かく分類されています。

本稿では、真鍮のJIS規格について解説しながら、特に代表的な品番であるC3604、C3602、C3771を含む様々な種類を取り上げ、化学成分や機械的性質、加工性、用途事例、そして注意すべき腐食特性などを詳しく紹介します。


  1. 真鍮(Brass)とは
    真鍮は、銅と亜鉛を主成分とする合金で、一般的には「黄銅」と呼ばれています。銅と亜鉛の含有量によって機械的特性や外観上の色合いが大きく変化し、用途に応じて使い分けられています。特に亜鉛の割合が増えるほど強度や硬度は増す一方で、延性や展延性は低下する傾向があり、これに伴い色味も赤みを帯びたものから黄色みの強いものへと変化していきます。

亜鉛のほか、目的に応じて鉛(Pb)やアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、スズ(Sn)などの元素が添加されることもあります。例えば鉛を添加することで被削性(切削加工性)が高まるため、大量生産に向いた機械加工用の材料として重宝されます。

日本においては古来より銅とその合金が広く使われてきており、銅鏡や銅器など伝統的な工芸品にその痕跡を見ることができます。その中でも真鍮は「黄銅」として建築金物や仏具、楽器、装飾品などに多用され、独特の美しさと機能性を両立する素材として深く根付いてきました。


  1. 真鍮の主な分類
    真鍮は亜鉛含有量に応じて大きく分類され、以下のような呼称が用いられることがあります。
  • リッチ・ブラス(亜鉛含有量が5〜15%程度)
  • トゥーム・ブラス(Tombac、亜鉛含有量が10〜20%程度)
  • 一般的な黄銅(亜鉛含有量20〜36%程度)
  • 特殊黄銅(マンガンや鉄などを添加したもの)

これらの分類は色味だけでなく、機械的特性や加工難易度にも影響を与えます。例えば、亜鉛含有量が多いほど切削性が増すケースもありますが、その一方で延性が低下し、曲げや深絞りなどの塑性加工にはやや不向きになる場合があります。

また、鉛添加によって切りくずが砕けやすくなる「自由切削黄銅」は自動旋盤などによる大量加工に非常に重宝されます。逆に深絞りや板金加工を重視する用途では、延性に優れた種類の真鍮が選ばれます。


  1. JISにおける真鍮の品番
    日本工業規格(JIS)では、銅および銅合金の材料を「CXXXX」という形で記号化しています。たとえば「C2600」「C3604」のように4桁の番号で示し、真鍮や青銅など各種銅合金を区別しています。ここでは、代表的な真鍮の品番について解説します。

3.1 C2600(Cartridge Brass)
亜鉛含有量が約30%の真鍮で、延性や展延性に優れています。冷間加工を繰り返しても比較的割れにくく、プレス加工や深絞り加工などの塑性加工に適していることから、自動車部品や装飾品、金属板として幅広く使用されます。

3.2 C2700(Yellow Brass)
亜鉛含有量が約35%の黄銅で、C2600よりも少し強度が高いものの、延性はやや劣ります。ただし、外観の金色が美しいことから装飾用途にも用いられ、また板金加工やバネ材など多用途に利用されます。

3.3 C2801(Muntz Metal)
亜鉛含有量が約40%の真鍮で、高い強度を持ちます。船舶部品や建築外装、装飾板金など、やや高い強度や耐食性が求められる分野に使われる場合があります。

3.4 C3604(Free Cutting Brass)
鉛を添加して被削性を高めた代表的な自由切削黄銅です。亜鉛含有量は約35〜37%程度、鉛は1.8〜3.7%程度(規格によって若干の幅があります)が含まれ、主に棒材として流通しています。自動旋盤やフライス盤を用いた切削加工に適しており、ネジやシャフト、各種部品などの大量生産に広く使われます。

3.5 C3602(Free Cutting Brass)
C3604よりやや鉛の含有量が少ない自由切削黄銅です。一般的な機械加工用途ではC3604と並んでよく使用され、加工性と機械的強度のバランスが取りやすい材料として知られています。C3602もまた棒材として多く流通し、切削に特化した用途で重宝されています。

3.6 C3771(Forging Brass)
鍛造(ホットフォージング)に適した真鍮です。亜鉛含有量は約39〜42%程度で、さらに鉛を含む場合もあり、熱間鍛造性が良好なため、バルブ部品や継手、蛇口など、複雑な形状の鍛造品によく用いられます。機械部品としての強度や圧力抵抗性が求められる領域で多く使われるのが特徴です。

これらの品番の後ろには加工状態を示す記号が付されることもあり、例えば「C3604BD(棒材、引抜)」「C3604BE(棒材、押出)」など細かく規定されています。同じ材料記号でも成形法や熱処理・圧延度合いによって機械的特性が大きく変わるため、用途に合わせて最適なものを選択することが重要です。


  1. 化学成分と機械的性質

4.1 化学成分
JIS規格では、それぞれの材料記号に対し、銅、亜鉛、鉛、鉄、ニッケルなどの含有量が厳密に定められています。各元素の許容範囲が決められており、不純物も規定値を超えないように管理されます。

たとえばC3604(自由切削黄銅)の場合、鉛の含有量によって被削性が大きく左右されるため、鉛含有率は1.8〜3.7%程度と示されます。また、残部が亜鉛で、銅は57〜61%程度とされることが多いです(ただし詳細は規格改訂や製造元によって差異があります)。

4.2 機械的特性
真鍮の機械的特性は、亜鉛含有量、添加元素、加工硬化の度合いなどによって変動します。一般的に、亜鉛含有量が増加すると引張強度や硬度は向上するものの、伸びは低下します。さらに、加工時に生じる加工硬化をどう制御するかで製品の最終的な強度や延性が大きく変わるため、冷間圧延や焼なまし(焼鈍)などのプロセスが精密に設定されます。

例えばC3771のように鍛造向けに設計された真鍮は、熱間加工(ホットフォージング)時の流動特性や結晶粒の制御が重視されます。一方、C3604のような自由切削黄銅は、冷間加工によって硬度が増しすぎると工具摩耗が大きくなるため、適切な焼なましが行われる場合もあります。


  1. 加工性

5.1 切削加工
真鍮はもともと加工しやすい金属ですが、さらに鉛を添加することで飛躍的に被削性が向上します。C3604やC3602などの自由切削黄銅は、切りくずが細かく砕けやすく、仕上げ面も比較的きれいに得られるため、自動旋盤を用いた量産品に最適です。ネジやシャフト、各種電気・電子機器のコンタクト部品などに多く用いられます。

5.2 塑性加工(プレス・鍛造など)
塑性加工には、板材としてのプレス加工および条材や棒材としての鍛造加工があります。C2600やC2700などは延性や展延性が比較的高く、深絞りやプレス成形に向いています。C3771などの鍛造用真鍮は、加熱後の流動性が良好で、複雑な形状を一体成形しやすい利点があります。バルブや水栓金具などでは、この鍛造用真鍮が広く採用されています。

5.3 接合加工
真鍮はろう付けやはんだ付けも比較的容易で、ろう材との親和性が高いことから、美観を重視する装飾用途や建築金物などでも用いられます。ただし、ガス溶接など高温域での溶接は亜鉛が揮発しやすいため、条件設定と作業環境に注意が必要です。


  1. 用途事例

6.1 建築金物・装飾品
真鍮は独特の光沢と高級感を持ち、経年変化によるアンティーク調の味わいが楽しめるため、建築金物や装飾品によく使われます。ドアノブ、ハンドル、照明器具などのインテリアパーツには、C2600やC2801といった伸びの良い真鍮が用いられることが多いですが、装飾細工や小物アクセサリーには被削性の良いC3602やC3604が用いられる場合もあります。

6.2 水回り・住宅設備
蛇口や継手、バルブなど、鍛造で形作られる水回り部品にはC3771などの鍛造用真鍮が多く用いられます。脱亜鉛腐食の対策が施された特殊黄銅も存在し、水質によっては亜鉛の溶出を防ぐために特別な合金設計が行われる場合があります。

6.3 楽器
トランペットやトロンボーンなど管楽器にも真鍮が用いられます。真鍮特有のやわらかな響きと、適度な硬さ・延性のバランスが楽器の音質を左右します。特にC2600やC2700など、亜鉛含有量の異なる材料を部分的に使い分け、音色や吹奏感を調整しているメーカーもあります。

6.4 電気・電子部品
真鍮は導電率が比較的高く、また切削や曲げなどの加工性も良いことから、コネクタや端子、スイッチ部品として利用されます。メッキ処理との相性も良いため、金メッキやニッケルメッキを施すことで耐摩耗性や接触抵抗の低減を図れます。C3604やC3602などの自由切削黄銅が大量生産に適しています。

6.5 機械部品
歯車やシャフトなど、強度と耐摩耗性がある程度求められる部品にも真鍮は用いられます。自由切削黄銅は切削時間の短縮に加えて工具寿命の延長にも寄与し、量産ラインのコストダウンに大きく貢献します。


  1. 真鍮の腐食特性と注意点

7.1 脱亜鉛腐食(Dezincification)
真鍮固有の腐食形態として挙げられるのが脱亜鉛腐食です。海水や酸性〜中性の水溶液中で長期間使用されると、亜鉛が選択的に溶出し、銅がスポンジ状に残ってしまいます。これにより機械的強度が著しく低下するため、水回りや海洋環境で使用する場合は対策が必要です。たとえば、脱亜鉛腐食に強い特殊黄銅(脱亜鉛黄銅)を使用したり、適切な表面処理を施すなどの方法がとられます。

7.2 表面変色・酸化
真鍮は大気中でも酸化により変色し、表面に酸化被膜が形成されます。これは一種の「味わい」としてアンティーク感を楽しむことができる一方で、外観を維持したい場合はクリアラッカーなどで表面を保護する処理が行われます。屋外で使用する場合は汚れや腐食を抑制するためにメッキや塗装を行うケースも多いです。


  1. リサイクル性とSDGsへの貢献
    銅合金全般にいえる特徴として、真鍮もまたリサイクルが非常に容易な金属材料です。スクラップを集めて溶解する際に、銅や亜鉛の含有量を再調整することで新たな真鍮として再利用することができます。このため、資源の有効活用やCO2排出量削減といった観点からも、真鍮のリサイクルは社会的に重要な取り組みとなっています。

持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも、真鍮は循環型社会の実現に寄与する素材と言えます。特に大量生産・大量消費の時代から、廃材の適切なリサイクルと再利用が求められる現代において、真鍮の高い再生利用率は環境負荷の低減に大きく貢献すると考えられます。


  1. 真鍮の将来展望
    真鍮は歴史的にも古くから使われてきた素材でありながら、現代産業でも変わらず重要な地位を占めています。電気自動車や再生可能エネルギー、IoTなどの先端産業でも、銅合金の高い導電性や加工性が欠かせないシーンが多々あり、真鍮は今後も需要が続くことが予測されます。

さらに、建築・インテリアの分野では、真鍮特有の経年変化を楽しむデザインが再注目されており、デザイナーや建築家が意匠のアクセントとして真鍮を積極的に取り入れる事例も増えています。こうした動向から見ても、真鍮という素材は機能面のみならず、装飾性・芸術性の面でも新たな価値を創出し続ける可能性があります。

製造面では、加工技術や合金設計がさらに進化し、従来以上に高精度かつ多様な特性を持つ真鍮製品が登場することが期待されます。たとえば、より難加工な形状を可能にする加工プロセスや、高周波特性に優れた電子部品素材としてのブラス開発など、多方面での研究開発が進んでいます。


まとめ
真鍮は銅と亜鉛を主体とした合金であり、日本工業規格(JIS)においてはCXXXXという形式で多様な品番が定められています。C3604やC3602といった自由切削黄銅は被削性に優れ、大量生産に向いた材料として機械部品や電子部品に広く使用されています。一方、C3771のような鍛造用真鍮はバルブや蛇口など複雑な形状の鍛造部品として利用されるなど、用途に応じて品番が使い分けられます。

さらに、C2600やC2700といった板材向けの材料は深絞りやプレス加工などに適し、建築内装や装飾品、楽器などに多用されます。いずれの品番もJISで化学成分や機械的特性が細かく規定されているため、製造工程や最終製品の品質保証に大きく寄与します。

真鍮特有の「脱亜鉛腐食」への対策や、経年変化による色合いの変化をどう捉えるかなど、使用時にはいくつかの注意点が存在します。しかし、それらを踏まえたうえでも、真鍮は美観と機能性を兼ね備える優れた金属素材として評価され、今後もさまざまな分野で利用が拡大していくことが見込まれます。

以上のように、JIS規格における真鍮の種類や特性を理解し、最適な材料を選択することは、製品の設計・製造において極めて重要です。また、リサイクル性の高さやSDGsの観点からも、真鍮は今後さらに注目される存在と言えるでしょう。歴史と実績に裏打ちされた安定した供給体制と、多様なニーズに応え得る性能を兼ね備える真鍮は、これからも日本の産業と生活文化を支える材料として重要な役割を果たし続けるに違いありません。

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