切削加工関連

真鍮と他金属(鉄・アルミ)との加工性の違い~金属加工現場での最適素材選定のために~

mw2pp0jd6c

はじめに

金属加工において、素材の選定は最終製品の品質、コスト、加工スピードに大きな影響を与えます。とくに切削加工においては、「加工性の良さ」が重要な指標になります。本記事では、代表的な非鉄金属である真鍮(黄銅)と、他の一般的な金属である鉄(炭素鋼)およびアルミニウムについて、それぞれの加工性の違いを比較・分析し、加工現場での材料選定の一助とすることを目的とします。


1. 加工性とは何か?

まず、「加工性」という言葉の定義を明確にしておきましょう。切削加工における加工性とは以下のような要素を含みます。

加工性の評価項目内容
切削抵抗刃物が受ける力の大きさ。小さいほど加工しやすい。
切りくずの処理性切りくずの形状・排出のしやすさ。
工具寿命工具の摩耗のしやすさ。
表面粗さ加工後の表面の仕上がり品質。
加工速度加工時間に直結する生産性。
発熱・熱変形材料が熱によって変形しやすいかどうか。

これらを総合して、実際の加工現場では「加工がしやすい」「工具が長持ちする」「安定した品質が得られる」などの視点で評価されます。


2. 真鍮(黄銅)の加工性

2-1. 概要

真鍮は銅と亜鉛の合金で、快削性に優れた材料として知られています。とくに「C3604」などの快削黄銅は切削加工に最適化された合金であり、長年にわたり旋盤加工やフライス加工で重宝されています。

2-2. 特徴

項目内容
切削抵抗小さい
切りくず短く砕けるため絡みにくい
工具寿命長い(ただし硬度の高い品種には注意)
表面仕上げ非常に良好
熱伝導率高いため熱がこもりにくい

2-3. 加工上の利点

  • 工具の消耗が少なく、長時間連続加工に向く
  • 切りくずが短く、NC自動旋盤との相性が抜群
  • 表面が滑らかに仕上がり、二次加工(研磨・メッキ)も容易

3. 鉄(炭素鋼)の加工性

3-1. 概要

鉄は構造材として圧倒的な需要がありますが、切削加工においては硬さ・粘り強さが加工性に影響を及ぼします。

3-2. 特徴

項目内容
切削抵抗真鍮より大きい
切りくず長く、絡みやすい(鋼種による)
工具寿命中~短(高硬度材では短くなる)
表面仕上げそれなり(熱処理やコーティングで改善可能)
熱伝導率中程度で、熱がこもる可能性あり

3-3. 加工上の注意点

  • 炭素量が多いほど硬度が上がり、工具の摩耗が早まる
  • 粘りのある鉄(軟鋼)ではビビりやすく、切削条件の最適化が必要
  • 切削油を用いた潤滑・冷却管理が重要

4. アルミニウムの加工性

4-1. 概要

アルミニウムは軽量で加工しやすく、多くの分野で使われていますが、合金種によって切削性に差があります。

4-2. 特徴

項目内容
切削抵抗小さい
切りくず軽く飛びやすいが、長い場合も
工具寿命比較的長い(ただし凝着に注意)
表面仕上げ非常に良好(高精度加工に向く)
熱伝導率非常に高く、熱の分散に優れる

4-3. 加工上の課題

  • 軟らかいため**工具にくっつく(溶着・凝着)**現象が起きやすい
  • 特に高切削速度時に刃先へアルミが溶着し、仕上げ面が荒れる
  • 対策として、特殊コーティング工具高圧切削油の使用が推奨される

5. 各素材の加工性比較表

項目真鍮アルミニウム
切削抵抗
工具寿命△~○
表面仕上げ
切りくず処理
熱伝導率
加工速度高速可能中程度高速可能(条件注意)
主な注意点亜鉛蒸発によるヒューム工具摩耗、熱変形凝着・バリの発生

6. 現場における素材選定の実務的ポイント

加工現場における素材選定は、単に「加工しやすいかどうか」だけでなく、設備能力・加工ロット数・後工程の有無・コスト目標・製品用途といった複数の要因を複合的に判断する必要があります。以下に、代表的な金属である真鍮・鉄・アルミそれぞれの選定ポイントを、より具体的に解説します。


● 精密部品や自動加工品 → 真鍮(快削性・寸法安定性・短納期向き)

推奨されるケース:

  • NC自動旋盤による大量連続生産
  • 小径シャフト・コネクタ・バルブ部品
  • ネジ加工、内径バイト加工など微細形状加工

加工現場での評価:

  • 切削抵抗が小さく、刃持ちが良いため工具寿命が長い
  • 切りくずが短く、ワークの絡まりが起こりにくい(長時間無人運転可能)
  • 表面粗さが高品位で、後工程(メッキ・研磨)との相性も抜群
  • ロス材が少なく、コスト効率が良い

注意点:

  • 高温時に亜鉛蒸気が発生するため、換気設備が必要(特に炉中ろう付けとの併用時)
  • 機械的強度は鉄より劣るため、構造用途には不向き

● 高強度・耐摩耗・熱応力がかかる部品 → 鉄(汎用性・溶接性・耐久性重視)

推奨されるケース:

  • 機械構造部品(シャフト・ギア・ブラケット等)
  • 溶接・焼入れ・表面処理などの後工程を前提とした部品
  • 高トルクや負荷のかかる場面での使用

加工現場での評価:

  • 炭素量や合金元素の調整により、機械的性質を自在に制御できる
  • 材料の流通性が高く、コストが安定
  • 鋼種の選定により、**被削性に配慮された鋼材(SUM材など)**も利用可能
  • 溶接・曲げ加工との相性も良く、構造体向き

注意点:

  • 粘りがあるため切削抵抗が大きく、ビビりが出やすい
  • 切りくずが長く、切りくず巻き付き・搬送詰まりが発生しやすい
  • 熱変形や工具摩耗に注意が必要で、工具選定や切削油管理が重要

● 軽量・高速加工・放熱部品 → アルミニウム(軽量性・高熱伝導・電気特性)

推奨されるケース:

  • 自動車部品、航空機部品、電子機器ハウジング
  • 放熱性や導電性が重視される部品(ヒートシンク、筐体など)
  • 重量制限のある機構部品・搬送装置パーツ

加工現場での評価:

  • 材料が軟らかく、高速加工が可能(工具の送り速度を上げられる)
  • 熱伝導率が高いため、熱膨張が抑制され加工精度が安定
  • 表面仕上げ性に優れ、アルマイトなどの表面処理にも対応しやすい
  • リサイクル性が高く、環境対応素材としても注目

注意点:

  • 軟質ゆえに刃物に付着(凝着)しやすい → 専用コーティング工具が必要
  • 切りくずが薄く軽いため、集塵設備やブロワでの処理が必須
  • 高速加工時の発熱と変形を防ぐため、冷却水やミスト切削の併用が効果的

● 設備能力・ロット規模・納期との関係性

項目真鍮アルミ
適した加工機NC自動旋盤、フライス汎用旋盤、マシニングセンタマシニング、5軸加工機
小ロット対応性
大量生産性◎(素材次第)
工程簡略化◎(切削+仕上げで完結)△(熱処理・溶接必要な場合あり)○(アルマイトなどあり)
リードタイム短~中
加工コスト低~中

●精密部品や小径部品 → 真鍮(快削性、寸法安定性)

  • NC自動旋盤においてはC3604などが非常に使いやすい
  • 高精度なネジ加工や面粗度が重要な場合に有利

●強度が求められる構造体 → 鉄(ただし加工条件に注意)

  • 耐久性や溶接性が重視される場面では鉄が選ばれる
  • 加工性を改善した被削性鋼(SUM材など)の選定も考慮

●軽量化・高速加工 → アルミ(凝着防止に配慮)

  • 航空・自動車・電子機器部品など、軽量性と加工スピードを両立
  • 刃先のコーティング選定が加工品質を大きく左右

7. まとめ

真鍮、鉄、アルミニウムはいずれも産業界で広く使用される金属ですが、加工性には明確な違いがあります。とくに真鍮は切削性に優れ、自動加工・高精度加工に向く材料として重宝されてきました。一方で、鉄は強度優先アルミは軽量性と高速加工性を活かした用途が中心です。

切削加工の目的、機械構成、加工コスト、製品精度など、さまざまな観点から最適な材料選定を行うことが、生産効率と品質向上のカギとなります。

記事URLをコピーしました