切削加工関連

切削工具のコーティング種類と選定ポイント

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はじめに

切削加工の現場では、工具の性能が加工品質や生産性に直結します。中でも、切削工具のコーティング技術は、工具寿命の延長や耐摩耗性の向上、高速切削への対応などにおいて重要な役割を果たしています。本記事では、切削工具に施される代表的なコーティングの種類や特性を紹介するとともに、用途に応じたコーティング選定のポイントについて解説します。


1. 切削工具コーティングの役割

切削工具におけるコーティングの主な目的は以下の通りです。

目的説明
耐摩耗性向上工具の消耗を抑え、寿命を延ばす
熱的安定性向上高速切削時の高温に耐える
潤滑性向上切りくずの排出性を高め、凝着を防ぐ
耐酸化性高温環境でも酸化しにくい性質
対応材拡張難削材への対応を可能にする

これらの効果によって、未コート工具と比べて加工効率・加工精度が大きく向上します。


2. 主なコーティングの種類と特徴

ここでは、工業的に広く使用されている代表的な切削工具用コーティングについて紹介します。

2-1. TiN(チタンナイトライド)

項目内容
金色
硬度(HV)約2000
酸化開始温度約600°C
特徴安価で汎用性が高く、乾式・湿式の両方で使用可能。摩擦係数が低く、アルミなどへの溶着防止にも効果的。
主な用途一般鋼、鋳鉄、樹脂などの汎用加工

2-2. TiCN(チタンカーボナイトライド)

項目内容
青灰色
硬度(HV)約3000
酸化開始温度約400〜500°C
特徴TiNよりも硬度が高く、耐摩耗性に優れる。反面、熱的安定性はやや劣る。
主な用途炭素鋼、合金鋼などの中〜高硬度材加工

2-3. TiAlN(チタンアルミナイトライド)

項目内容
黒灰色
硬度(HV)約3300
酸化開始温度約800°C
特徴高温酸化に強く、高速・高温切削に適する。Al含有により熱安定性が非常に高い。
主な用途高硬度鋼、耐熱鋼、ドライ加工用途など

2-4. AlTiN(アルミチタンナイトライド)

項目内容
硬度(HV)約3500
酸化開始温度約850°C
特徴TiAlNと似ているが、よりAlの比率が高く、より優れた酸化耐性と耐熱性を持つ。
主な用途高速切削、難削材の加工(ステンレスやインコネル等)

2-5. DLC(ダイヤモンドライクカーボン)

項目内容
黒色光沢
硬度(HV)約2000〜4000
特徴低摩擦で溶着防止効果が非常に高く、非鉄金属に最適。
主な用途アルミ、銅、樹脂などの非鉄金属加工、微細加工工具など

2-6. CrN(クロムナイトライド)

項目内容
銀白色
特徴高靱性と耐摩耗性のバランスに優れ、耐食性も高い。
主な用途成形工具、パンチ、アルミ加工など

3. コーティング選定のポイント

3-1. 被削材の種類を考慮する

素材に応じて最適なコーティングは変わります。以下に代表的なマッチング例を示します。

被削材推奨コーティング
一般鋼・鋳鉄TiN、TiCN
ステンレスTiAlN、AlTiN
高硬度鋼AlTiN、TiAlN
アルミ・銅DLC、CrN
チタン合金AlTiN、TiAlN

3-2. 加工条件(切削速度・湿式/乾式)

  • 高速切削・ドライ加工 → TiAlN・AlTiN
  • 低速〜中速・湿式加工 → TiN・TiCN
  • 微細加工・高精度加工 → DLC

3-3. コストパフォーマンス

  • TiNは安価で汎用性があり、多くの現場で初期選択肢となります。
  • 高速加工や難削材加工では、**高機能コーティング(TiAlN・AlTiN等)**を選定することで工具交換頻度の減少や加工品質向上が見込め、結果的にコスト削減に繋がります。

4. コーティング技術の進化動向

近年では、複合多層コーティングやナノコーティングなど、より高度な技術が実用化されています。

コーティング技術概要
多層コーティング異なる性質の層を積層して、耐摩耗性・耐熱性・靱性のバランスを向上させる
ナノ積層構造数nm単位の超微細層を積層して、微細クラックの進行を抑制
ハイブリッドコーティングPVD(物理蒸着)とCVD(化学蒸着)を組み合わせ、最適な膜質を得る

また、切削工具メーカー各社は独自ブランドの高機能コーティングを開発しており、「Balzers」「Sumitomo ACシリーズ」「Mitsubishi MPコーティング」なども注目されています。


5. コーティング選定の実務フロー

ステップ1:被削材の特定

まずは加工するワーク材を正確に把握します(材質・硬度・被膜の有無など)。

ステップ2:加工条件の確認

切削速度、送り速度、使用する工作機械、冷却方式(ドライ/ウェット)をチェックします。

ステップ3:加工目的の明確化

  • 高速化を狙うのか?
  • 長寿命化か?
  • コスト重視か?
  • 微細精度か?

ステップ4:コーティング候補を絞り込む

上記情報をもとに、メーカーのカタログや技術資料を参照して適合するコーティングを選定します。


6. まとめ

切削工具のコーティングは、加工効率・品質・工具寿命の観点から、現代の製造現場において極めて重要な技術要素です。適切なコーティングを選定するためには、被削材の特性、加工条件、工具寿命、コストといった複数の要素を総合的に評価する必要があります。

今後、さらなる加工難度の高い材料や、持続可能な加工(SDGs対応)への要求が高まる中で、高度なコーティング技術の活用と理解は、製造業の競争力強化の鍵となるでしょう。

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