切削加工に向いている材料、不向きな材料とは?

はじめに
切削加工とは、工作物から不要な部分を工具で削り取ることで、所望の形状・寸法・表面性状を得る加工方法です。金属加工の中でも極めて汎用性が高く、自動車・航空・医療・金型・精密機器などあらゆる産業で用いられています。
しかし、すべての材料が切削加工に適しているわけではありません。材料の物理的・化学的特性によって、切削性(=削りやすさ)は大きく異なります。本稿では、切削加工に向いている材料、不向きな材料の特徴を整理し、代表的な素材ごとの評価や、切削性を改善するための工夫について詳述します。
1. 切削性とは何か?
切削性とは、工作物がどれだけスムーズに切削できるかを示す総合的な指標で、以下のような要素が関係します:
- 切削抵抗(工具にかかる力)
- 発熱量(工具寿命に影響)
- 切りくずの処理性(短くて崩れやすいか)
- 工具摩耗のしやすさ
- 表面粗さ(仕上がりの美しさ)
- 振動の発生しやすさ
これらを踏まえ、材料の機械的性質や化学的性質(硬度、延性、靭性、熱伝導率、加工硬化性など)によって、向き・不向きが判断されます。
2. 切削加工に向いている材料
2-1. 炭素鋼(低炭素鋼、中炭素鋼)
- 特徴:
- 加工性が良好
- 安価で入手性が高い
- 切削時に適度な切りくずが出る
- 用途:
- 自動車部品、機械構造部品、ボルト・ナットなど
- 代表材質:
- S15C, S45Cなど
低炭素鋼は延性が高く、刃物へのダメージが少ないため初学者向けともされます。一方で粘りが強すぎると切りくずが長くなるため、適切な切削条件の設定が必要です。
2-2. 快削鋼(硫黄・鉛・リンなどを添加した鋼)
- 特徴:
- 切りくずが短く工具寿命が長い
- 工場の生産効率が高まる
- 用途:
- 大量生産部品、ねじ、歯車、継手など
- 代表材質:
- SUM22, SUM24L(鉛添加鋼)、S45CMnなど
快削鋼は添加元素が工具との摩擦を減らす役割を果たすため、高速切削に向いています。ただし、溶接性や強度が若干低下する場合もあり、用途選定に注意が必要です。
2-3. アルミニウムおよびアルミ合金
- 特徴:
- 軽量、柔らかい、熱伝導率が高い
- 高速切削が可能
- 表面仕上げ性に優れる
- 用途:
- 航空機部品、電子機器、筐体、ヒートシンク
- 代表材質:
- A1050(純アルミ)、A2017(ジュラルミン)、A5052(汎用合金)
アルミニウムは非常に加工性が良く、超硬工具やダイヤモンド工具との相性も良好です。ただし純アルミ(1000系)は粘りがあり、切りくずが絡みやすい傾向があります。
2-4. 黄銅(真鍮)
- 特徴:
- 快削性が非常に高い
- 切削抵抗が小さく、工具寿命が長い
- 用途:
- 水栓金具、接点部品、装飾品、楽器など
- 代表材質:
- C3604(快削黄銅)
黄銅は切削がしやすい代表例であり、旋盤加工で鏡面仕上げに近い仕上がりが得られます。切りくずも小さく処理しやすいのが特徴です。
2-5. 樹脂(プラスチック)
- 特徴:
- 柔らかく、切削抵抗が小さい
- 発塵が少なく、静音性が高い
- 用途:
- 試作部品、医療機器部品、電子機器筐体
- 代表材質:
- アクリル、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート
ただし、柔らかすぎる樹脂は切削時に変形したり、溶けたりするため、回転数や送り速度に注意が必要です。
3. 切削加工に不向きな材料
3-1. 焼入れ鋼(硬度が高い鋼材)
- 特徴:
- 硬度HRC50以上の材は工具摩耗が激しい
- 通常は研削加工が主
- 例:
- HRC60の金型用鋼(SKD11等)
高硬度材は超硬工具やCBN工具(立方晶窒化ホウ素)を用いれば加工可能ですが、一般的な切削加工とは別領域になります。
3-2. チタンおよびチタン合金
- 特徴:
- 比強度が高いが、加工硬化しやすく発熱しやすい
- 工具摩耗が非常に早い
- 用途:
- 航空宇宙、医療、化学機器
- 対策:
- 低速・高送りの条件で加工、切削油の使用を徹底
チタンは熱伝導率が低く、切削時の熱が工具に集中しやすいため、専用工具や精密な冷却が必要になります。
3-3. ステンレス鋼(特にオーステナイト系)
- 特徴:
- 加工硬化性が高く、粘りがあり切りくずが絡む
- 熱伝導率が低く、発熱が工具に集中
- 用途:
- 食品機械、医療機器、建築材料
- 対策:
- シャープな工具を用い、冷却とチップ排出を最適化
SUS304などは特に切削が難しいとされ、切削油の選定や工具材質の工夫が求められます。
3-4. ゴムや軟質ウレタン
- 特徴:
- 弾性が大きく、切削工具を押し返す
- 切削というより「ちぎれる」状態になりやすい
基本的に旋盤などの切削加工には不向きで、打ち抜きや熱溶着、成形加工などが主流です。
3-5. 鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄:FCD等を除く)
- 特徴:
- 切りくずが粉状で工具摩耗が激しい
- 内部に気泡や鋳巣があると刃物が欠ける
- 用途:
- 工作機械ベッド、エンジンブロックなど
普通鋳鉄(FC200など)は切削性が悪くはないものの、工具への負荷が大きく、クーラントや切削条件に配慮が必要です。
4. 切削性を向上させる工夫
材料自体の特性が劣っていても、以下の工夫で切削性を改善できる場合があります:
工夫 | 内容 |
---|---|
熱処理 | 焼なましなどで硬さや組織を調整 |
被膜処理 | 工具にTiAlNやDLCなどの被膜を付与 |
工具選定 | 超硬・CBN・PCDなど材質を最適化 |
クーラント | ミストや高圧クーラントで冷却と切りくず除去 |
加工条件最適化 | 低速高送り・高剛性保持などで振動を抑制 |
5. 材料別の切削加工性評価(表)
材料名 | 加工性 | 主な用途 | 備考 |
---|---|---|---|
S45C(中炭素鋼) | ◎ | 機械部品 | 標準的な加工性 |
SUM24L(快削鋼) | ◎ | ボルト・軸 | 鉛添加で切りくず良好 |
A5052(アルミ合金) | ◎ | 電子筐体 | 粘り少なく良好 |
C3604(黄銅) | ◎ | 水栓金具 | 高速切削向き |
SUS304(ステンレス) | △ | 医療・食品機械 | 工具摩耗大きい |
Ti-6Al-4V(チタン合金) | × | 航空・医療 | 加工難度高 |
FC250(鋳鉄) | △ | エンジン部品 | 切りくず粉状 |
HRC60鋼材 | × | 金型部品 | 研削加工推奨 |
まとめ
切削加工における材料選定は、加工コスト・工具寿命・品質・加工効率を大きく左右する要素です。切削に向いている材料としては、中炭素鋼、快削鋼、アルミ合金、黄銅などが挙げられ、これらは良好な表面性や高い加工速度が得られます。一方、チタンやステンレス、焼入れ鋼、ゴムのような材料は切削が難しく、特殊な工具や条件が必要になります。
選定時には、材料特性のみならず、加工機械の剛性・工具の選定・クーラント使用法・量産性なども踏まえて総合的に判断することが重要です。