◆バーナーろう付け不良の要因10選

はじめに

ろう付けは、金属同士を接合する代表的な溶接手法の一つであり、製造現場や金属加工の分野で広く活用されています。しかし、適切な材料・方法を選ばなければ、接合不良や破損、リークといった品質不良が発生しやすく、製品の信頼性や寿命に大きな影響を及ぼします。

この記事では、ろう付け不良の代表的な原因を10個に分類し、それぞれの原因の詳細と対策について解説していきます。再発防止や工程改善のヒントとして、ぜひご活用ください。

母材の表面汚染・酸化

原因概要

母材の表面に油分、酸化皮膜、汚れ、サビなどが付着していると、ろうが濡れず、接合部に十分に浸透できなくなります。これにより濡れ性の低下やろうの流動不足が起き、接合不良となります。

よくあるケース

• 脱脂処理が不十分
• 長期保管による酸化
• 機械加工後の切削油残留

対策

• 溶剤洗浄や超音波洗浄で脱脂
• 酸洗いや研磨による酸化皮膜除去
• 施工直前の清掃を徹底し、再酸化を防ぐ

フラックスの不足・不適合

原因概要

フラックスは、酸化物の除去・生成防止を担う重要な薬剤です。不適切なフラックスや塗布不足、または不適切な温度管理によって、フラックスが十分に機能しないと接合不良が発生します。

よくあるケース

• 使用温度帯に合っていないフラックスの選定
• 塗布量不足
• フラックスの劣化

対策

• 母材・ろう材に適したフラックスを選定（例：銀ろうにはホウ酸系フラックス）
• 塗布量の標準化と記録管理
• 使用期限・保管条件の遵守

ろう材の選定ミス

原因概要

母材との濡れ性や溶融温度に適合しないろう材を選ぶと、接合不良が起こります。また、流動性や強度の観点で不適切なろう材では、接合部が壊れやすくなります。

よくあるケース

• 異種金属に対して不適合な銀ろうや銅ろうの使用
• 耐食性・強度不足

対策

• 母材と用途に応じたろう材のJIS規格を確認
• 温度帯とろう材の融点を照合
• 異種金属接合には「中間層ろう」や特殊合金を検討

加熱不足・加熱過剰

原因概要

ろう付けにおいては適切な温度制御が極めて重要です。加熱が不十分だとろうが溶けきらず、過熱しすぎると母材が焼け、ろうの劣化や酸化、流れすぎが発生します。

よくあるケース

• トーチの移動が速すぎる／遅すぎる
• 温度計測がない現場作業

対策

• 非接触温度計・サーモカメラの活用
• 炉中加熱やインダクション加熱による自動制御化
• 作業手順と加熱時間の標準化

加熱位置・方法の誤り

原因概要

加熱は母材を中心に行い、毛細管現象でろうが流れ込むようにする必要があります。ろう材に直接火を当てるなど、加熱方法が誤っていると濡れが悪くなり、ろうがうまく流れません。

よくあるケース

• トーチをろう材に直当て
• 片側加熱で温度勾配が不均一

対策

• 母材を全体的に均一加熱
• トーチの当て方を教育・訓練
• 試作評価による加熱パターンの最適化

接合隙間の不適切さ

原因概要

適切なギャップ（隙間）を保たないと、ろうの毛細管現象が機能せず、ろうが広がらない、または充填されすぎるなどの問題が生じます。

よくあるケース

• ギャップが狭すぎて流れない
• ギャップが広すぎてろうが溜まらない

対策

• 最適な隙間は一般に0.05〜0.2mm程度
• ジグ設計の見直し
• 加工精度のばらつき管理

ろう材の供給量不足・過剰

原因概要

供給量が少ないと接合面積を満たせず、強度不足に。逆に多すぎるとろうがあふれ、外観不良や内部に気泡が生じることもあります。

よくあるケース

• 経験頼りで定量供給されていない
• フィレット部にろうが盛りすぎ

対策

• プリフォームろう材の使用（定寸化）
• 自動供給装置の導入
• 作業員によるろう量トレーニング

雰囲気・環境の影響

原因概要

作業場の空気中に水分や酸素が多い場合や風が強い場合、加熱にムラができたり、酸化が進行しやすくなります。また、湿度が高いとフラックスの吸湿劣化も進行します。

よくあるケース

• 夏場の湿度環境での接合不良
• 屋外でのトーチ作業

対策

• 炉中ろう付けや不活性ガス雰囲気ろう付けの導入
• 作業エリアの空調管理
• フラックスの密封保管

母材の合金成分の問題

原因概要

一部の合金（たとえばアルミニウムやマグネシウム合金）は、ろう付けしにくい性質を持ちます。表面酸化や融点差が大きい場合、ろうが濡れず接合が困難です。

よくあるケース

• 銅合金（黄銅）へのろう付けで脱亜鉛現象
• アルミ表面の酸化膜が剥がれない

対策

• ろう材・フラックスの専用タイプを選定
• 表面処理やアンダーコートの活用
• 脱亜鉛対策として短時間加熱や雰囲気制御を行う

設計上の問題（構造・材質・位置）

原因概要

製品設計の段階でろう付けを前提としていない場合、接合部が加熱しづらい、隙間調整が困難、ろうが流れにくいといった不具合が設計に起因して発生します。

よくあるケース

• 重ね合わせ部に熱が届かない
• ろうが上昇しない方向設計

対策

• ろう付け性を考慮した設計（DFB：Design for Brazing）
• 接合部へのアクセス性・放熱性の確保
• 設計と製造部門の連携強化

まとめ

ろう付け不良の発生要因は多岐にわたり、「材料」「方法」「環境」「設計」など、複数の要因が複雑に絡み合っています。以下に要因を再整理します：

終わりに

ろう付け不良は、単なる加工ミスではなく、設計・工程・環境・教育など多方面の見直しが必要な工程問題です。今回紹介した10の不良原因を参考に、工程ごとのリスク分析やトラブルシューティングに活用していただければ幸いです。

ろう付け品質は企業の信頼に直結する重大な要素です。現場と設計、品質部門が一丸となって対策を進めていきましょう。