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◆「フラックスレス(Fluxless)ろう付け」の手法とポイント

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1. はじめに

フラックスを用いる従来のろう付けでは、母材表面の酸化膜を除去・防止し、濡れ性を向上させる役割を果たします。しかし、電子機器の生産ラインや一部の高真空用途では、フラックス残渣による汚染や腐食、残留物の除去工程が課題となります。本稿では、こうした課題を解決する「フラックスレス(Fluxless)ろう付け」の手法とポイントを解説します。


2. フラックスレスろう付けの基本原理

  1. 表面酸化膜の除去
    • 母材表面には、空気中で瞬時に生成する酸化膜が存在します。フラックスレスでは化学薬品による除去を行わず、物理的・機械的・熱的な手段でこの酸化膜を取り除く必要があります。
  2. 還元雰囲気の活用
    • 還元性ガス(H₂や形成ガス)の雰囲気中で加熱することで、酸化膜を化学的に分解・還元し、ろう材の濡れ性を確保します。
  3. 高真空下処理
    • 真空中での加熱により、酸化膜を昇華させたり、酸素分圧を極限まで低減してろう付けを行う手法です。

3. 母材の前処理技術

フラックスレスろう付け成功の鍵は、母材表面の徹底的な前処理にあります。

3.1 機械的クリーニング

  • ブラスト処理
    • アルミナやガラスビーズを用いたブラストで、酸化膜や汚れを一気に除去。均一性を保つため、圧力や距離を精密に管理。
  • ワイヤーブラシ
    • 小面積・細部の酸化膜除去には、ステンレスワイヤーブラシが有効。ただし、微細パーティクルの付着に注意。

3.2 超音波洗浄

  • 洗剤併用
    • アルカリ性や中性の洗浄剤を用いて、油脂汚れや微細パーティクルを除去。超音波振動により表面の凹凸内部まで洗浄可能。
  • 純水すすぎ/脱イオン水
    • イオン残渣を防ぐため、最後は脱イオン水で洗浄後、クリーンドライ(イソプロピルアルコール拭き取り+乾燥)を実施。

3.3 化学エッチング

  • 酸性・アルカリ性エッチング液
    • 表面を軽微にエッチングし、酸化膜を一層薄くし、表面粗さを向上。代表的にはフッ化水素酸や硫酸系のエッチングが用いられるが、取扱いには厳重な安全対策が必要。
  • パシベーション
    • 再酸化を抑制するため、エッチング後に短時間還元雰囲気中で処理したり、瞬時に真空槽に移行する。

4. 還元雰囲気を用いたろう付け

還元性雰囲気中ろう付けは、フラックスレス法の代表的手法です。

4.1 ガス種類と特性

  • 水素ガス(H₂)
    • 還元力が強いが、爆発性を伴うため混合比・流量・温度管理が必須。
  • 形成ガス(N₂+H₂ 5~10%)
    • 安全性を高めつつ還元性を確保。一般的な工業用フラックスレス炉で広く採用。

4.2 設備構成

  • 密閉タイプ炉
    • 炉内を所定の還元雰囲気に封じ込め、外部へのガス漏れを防止。ガス流量計、酸素センサー、排気処理装置を備える。
  • 連続式コンベア炉
    • ハイスループットを要求されるラインでは、高速で母材を搬送しつつ、短時間で酸化膜を還元・ろう付け。入口・出口にエアシャワーを設け、外気混入を最小限化。

4.3 プロセス設計

  1. プレヒート段階
    • 300~400℃程度でゆっくり昇温し、残留水分や有機物を除去。
  2. メインヒート段階
    • ろう材の融点以上(銀ろうで700~900℃)まで加熱し、酸化膜を還元・ろう材を流動させて濡れ性を確保。
  3. クールダウン
    • 急冷や逆冷却は不可。母材応力やひび割れを防ぐため、徐冷が推奨される。

5. 真空ろう付け(Vacuum Brazing)

真空ろう付けは、酸素分圧を10⁻³~10⁻⁴ Pa 以下に減少させることで、酸化膜を自動的に昇華除去し、フラックスレスを実現します。

5.1 真空炉の構成

  • 真空ポンプ系
    • 拡散ポンプ+ロータリーポンプ、あるいはターボ分子ポンプを併用。最終真空度は10⁻⁴ Pa 程度。
  • 加熱方式
    • 電気抵抗加熱、赤外線ヒーター、誘導加熱など、対象ワークに合わせて選定。

5.2 メリット・デメリット

  • メリット
    • フラックス残渣がゼロ、クリーンな仕上がり。複雑形状や内面のろう付けにも対応可能。
  • デメリット
    • 初期投資が高額。ワークサイズや形状制限、少量生産では割高。

6. 活性ろう材(Active Brazing Filler Metals)の活用

酸化を嫌うセラミック/金属接合には、活性金属(Ti, Zr, Hf)を添加したろう材を用いる手法があります。

6.1 特徴

  • 活性金属が酸化膜を化学的に還元・反応し、フラックス不要で濡れ性を付与。
  • 一般母材(金属)同士でも、微量活性金属添加によりフラックスレスが可能。

6.2 代表的な合金系

  • Ag-Cu-Ti系
  • Ni-Cr-Si-Ti系
  • Al-based 系(Al-Si-Ti)

6.3 使用上の注意

  • 活性金属は空気露出で瞬時に被覆酸化膜を生成するため、取扱いは短サイクル化と保護雰囲気が必須。

7. レーザーろう付けによる局所フラックスレス加工

レーザー熱源を用いれば、母材局所を瞬間的に溶融・接合でき、フラックスレスろう付けが可能です。

7.1 メリット

  • 高エネルギー密度で極小部の接合が容易。
  • ビーム制御による高精度な熱入力管理。

7.2 プロセス例

  1. 母材・ろう材をフィクスチャで固定。
  2. レーザービーム(手持ち型or自動)を照射し、ろう材と母材界面を同時溶融。
  3. ビーム停止後、数ms~数十msで急冷固化。

8. トラブルシューティングと注意点

問題点原因対策
濡れ広がり不足酸化膜残留、加熱不足還元雰囲気強化、昇温プロファイル見直し
ブリッジやブローホール発生過熱による気泡巻き込み昇温速度低減、脱ガス前処理強化
接合部割れ熱衝撃、凝固割れ徐冷プロセス導入、母材およびろう材の熱膨張差考慮
表面粗さ・凹凸による不良前処理不足ブラストやエッチングで表面均一化

9. まとめ

フラックスレスろう付けは、前処理、雰囲気制御、設備選定、ろう材選択、プロセス設計の各要素を最適化することで初めて成功します。特に、還元雰囲気炉や真空炉、活性ろう材、レーザーろう付けといった多様な手法が実用化されており、用途や生産スケールに応じた選択が可能です。汚染防止やコスト削減、環境規制対応などのメリットを享受するため、本稿で紹介した各ステップを参考に、自社固有のプロセス開発に役立ててください。

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