ステンレス

ステンレスが「錆びにくい」理由を科学的に解説

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ステンレスとはどんな金属か

まず最初に、ステンレスとはどのような金属なのかを整理しておきましょう。ステンレス(Stainless Steel)は「Stain=汚れ」「less=少ない」という英語が語源で、直訳すると「汚れにくい鋼」または「錆びにくい鋼」という意味になります。

実際、ステンレスは鉄を主成分とした合金ですが、炭素鋼や普通鋼と比べて圧倒的に錆びにくい特性を持っています。その理由は、ステンレスに含まれる「クロム(Cr)」をはじめとする合金元素が、表面に極めて薄い「不動態被膜」と呼ばれる保護膜を形成するためです。

この保護膜は人間の目では見えないほど薄く、厚さはわずか数ナノメートル(1ナノメートル=1億分の1メートル)程度ですが、鉄が空気や水と反応して酸化するのを防ぐ重要な役割を果たします。

つまり、ステンレスは「鉄の表面にできる酸化皮膜を、人工的に強く安定化させた金属」なのです。

鉄が錆びる仕組み

ステンレスが錆びにくい理由を理解するためには、まず「鉄が錆びるメカニズム」を理解する必要があります。

鉄(Fe)は非常に反応性の高い金属で、空気中の酸素や水分と結びつきやすい性質を持っています。鉄が空気中にさらされると、表面で次のような反応が起こります。

  1. 鉄が酸素と反応して酸化鉄(Fe₂O₃)を生成する
  2. この酸化鉄は多孔質(スカスカな構造)で、内部まで酸素や水が浸透する
  3. 内部の鉄も次々に酸化していく

このように、鉄の錆(赤錆)は「内部まで侵食していく性質」を持っています。そのため、放置すると錆が進行し、構造体の強度を失っていきます。

一方でステンレスの場合、同じ酸素と反応しても「表面だけ」に極めて緻密な膜を作り、それ以上酸素を通さないようにします。この膜こそが“不動態被膜”です。

ステンレスが錆びにくい最大の理由「不動態被膜」

ステンレス鋼に含まれるクロムは、酸素と結びつきやすい元素です。ステンレスが空気に触れると、クロムが酸素と反応して「酸化クロム(Cr₂O₃)」という非常に安定した薄い膜を作ります。

この膜がステンレスの表面を完全に覆い、鉄の部分が酸素や水分に触れるのを防ぎます。つまり、酸化は表面の酸化クロムで止まり、それ以上内部に進行しないのです。

この「酸化が止まる」状態が「不動態」と呼ばれるもので、ステンレスの耐食性を支える根本原理です。

さらに、この不動態被膜のすごいところは「自己修復機能」がある点です。
仮に表面が傷ついたとしても、再び酸素や水分に触れれば瞬時に新しい酸化クロム膜が形成され、再び不動態を取り戻します。

これは、普通鋼やメッキ鋼にはないステンレス特有の性質です。

不動態被膜を作る元素たち

ステンレスの主成分は「鉄(Fe)」ですが、耐食性を高めるためにさまざまな合金元素が加えられています。その中でも代表的なのが以下の4つです。

クロム(Cr)

ステンレスの最重要元素。含有量が10.5%以上になると、表面に酸化クロムの不動態被膜が形成され、耐食性が飛躍的に向上します。
クロムの含有量が多いほど、膜の安定性が増し、酸や塩分にも強くなります。

ニッケル(Ni)

クロムと組み合わせて使われる元素で、耐食性と靭性をさらに高めます。特にオーステナイト系ステンレス(SUS304など)はニッケルを10%前後含み、加工性・溶接性にも優れます。

モリブデン(Mo)

塩化物(海水や塩分)環境での耐食性を強化する元素です。SUS316などに含まれ、海水や化学プラントなど厳しい条件下で使用されます。

チタン(Ti)・ニオブ(Nb)

炭素と結合して炭化物を作り、クロムの炭化物生成を防ぐことで、粒界腐食(溶接部などで起こる局部的な錆)を防止します。

これらの元素がバランスよく組み合わさることで、ステンレスの「錆びにくさ」が実現しているのです。

ステンレスにも種類がある

ステンレスと一口にいっても、組成や組織の違いによってさまざまな種類があります。それぞれの耐食性や機械的性質は異なります。代表的なものを見てみましょう。

オーステナイト系ステンレス

代表格は「SUS304」。ニッケルとクロムを多く含み、最も一般的に使われるステンレスです。家庭用品や建材、食品機器など幅広く使用されています。
非磁性で加工性にも優れますが、塩分環境では「もらい錆」や「孔食」が起きることがあります。

フェライト系ステンレス

クロムのみを主に含むタイプ(例:SUS430)。磁性がありますが、コストが安く、耐熱性に優れます。キッチン家電や装飾用途などで多く使用されます。

マルテンサイト系ステンレス

高硬度で耐摩耗性に優れるタイプ(例:SUS420)。刃物やバルブなどに使われますが、他の系統に比べるとやや錆びやすい傾向があります。

二相系ステンレス

オーステナイトとフェライトの両方の組織を併せ持つタイプ。耐食性と強度のバランスが良く、化学プラントや海洋構造物などに使われます。

ステンレスが錆びるとき

「錆びにくい」とはいっても、「絶対に錆びない」わけではありません。ステンレスでも条件次第で錆が発生します。主な原因を挙げると以下の通りです。

塩化物の影響

海水や塩分を含む環境では、塩化物イオンが不動態被膜を破壊し、局部的に錆が発生します。これを「孔食(ピッティング)」と呼びます。

高温多湿環境

温度と湿度が高い場所では、酸化膜が不安定になりやすく、特に汚れが付着したまま放置すると腐食が進みます。

もらい錆

周囲の鉄製品から飛んだ鉄粉がステンレス表面に付着し、その鉄粉が錆びることでステンレスまで赤く染まる現象です。実際にはステンレス自身が錆びていないことも多いですが、見た目上は「錆びた」と誤解されやすい現象です。

酸や薬品による腐食

酸化性の強い薬品や漂白剤などに長時間さらされると、不動態被膜が溶解し、腐食が進むことがあります。

ステンレスを錆びさせないための対策

錆を防ぐためには、ステンレスの特性を理解した上で適切に扱うことが重要です。

定期的な清掃

表面の汚れや付着物は、錆の原因となります。特に塩分を含む環境では、水洗いと拭き取りを定期的に行うことが大切です。

適材適所の選定

海辺や化学薬品を扱う場所では、SUS304よりもモリブデンを含むSUS316を選ぶなど、環境に合わせた材料選定が欠かせません。

異種金属との接触を避ける

鉄やアルミなどと直接接触させると、電位差による「ガルバニック腐食」が起こることがあります。絶縁材を間に挟むなどの対策を行いましょう。

溶接部の仕上げ処理

溶接後にクロムが炭化して不動態被膜が不完全になることがあります。酸洗いやパッシベーション処理(酸処理による膜再生成)を行うことで、再び耐食性を取り戻せます。

科学的に見た「ステンレスの強さ」

ステンレスの錆びにくさは、単なる経験則ではなく「酸化還元反応の制御」に基づいた科学的な現象です。

鉄は本来、酸化されやすく還元されにくい金属ですが、クロムを加えることで酸化被膜の形成エネルギーを変え、「安定した酸化物」を先に作らせます。これにより、表面での酸化反応が止まり、内部への酸化が進まなくなるわけです。

また、不動態被膜の再生速度は非常に速く、空気中では数秒以内に再形成されます。これにより、外部環境が多少変化しても錆びにくい状態を維持できるのです。

まとめ:ステンレスは「錆びない」ではなく「錆びにくい」

ステンレスが錆びにくいのは、クロムを中心とした合金元素によって形成される「不動態被膜」のおかげです。この膜が酸素や水分を遮断し、鉄の酸化を防ぎます。しかも、傷ついても自然に再生するという自己修復性を持っています。

ただし、塩分・高温多湿・異種金属接触などの条件下では錆が発生することもあります。ステンレスを長持ちさせるためには、定期的な清掃や適切な材質選定が不可欠です。

科学的なメカニズムを理解すれば、ステンレスの優れた耐食性能を最大限に活かすことができます。
つまり、「ステンレス=万能ではないが、正しく扱えば最も信頼できる耐食素材」なのです。

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