切削加工関連

失敗から学ぶ!切削トラブル事例集

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切削加工は、製造業の基盤を支える重要なプロセスですが、高精度な加工が求められる一方で、些細なミスが大きな不良につながることもあります。本記事では、実際の切削現場で起こった典型的なトラブル事例を取り上げ、それぞれの原因と対策を詳しく解説します。失敗に学び、再発防止と品質向上に役立てましょう。


目次

  1. 刃具破損による工程停止
  2. 寸法不良による再加工
  3. 表面粗さ不良のクレーム
  4. バリ処理忘れによる製品不良
  5. 熱変形による寸法狂い
  6. 切りくず詰まりによる加工不良
  7. セットミスによる深さ違い
  8. 工具摩耗による仕上がり不良
  9. 振動によるビビリ痕発生
  10. 冷却不良による焼き付き

1. 刃具破損による工程停止

1. 刃具破損による工程停止

事例内容
自動車部品の量産ラインにおいて、焼入れ鋼(HRC60)のフライス加工中、超硬エンドミルが突然破損。加工機が緊急停止し、ラインが約2時間停止した。交換用の工具が現場にストックされておらず、倉庫からの取り寄せに時間を要し、その日の生産計画が大幅に狂った。

原因

  • 被削材が予想以上に硬く、切削条件が不適合。
  • 工具の使用回数管理が曖昧で、寿命を超過。

対策

  • 工具の寿命管理を数値で記録し、交換基準を明確化。
  • 材料ごとの適切な切削速度・送りを再評価。
  • 予備工具の在庫を適切に確保。

2. 寸法不良による再加工

事例内容
工作機械用の金属ベース部品にφ12mmの貫通穴を加工。組立工程でネジが通らないことが発覚し、測定すると穴径が11.8mmと寸法公差外であることが判明。50個分すでに加工済みで、すべて再加工となり工程が1日遅延。発注元から厳重注意を受けた。

原因

  • ドリルの送り速度が過大で、加工精度が低下。
  • 固定ジグの精度が不足し、位置ずれが発生。

対策

  • 加工精度が求められる箇所はリーマ仕上げを追加。
  • ジグ・チャックの見直しと精度確認の定期化。
  • 加工後に自動測定システムを導入し即座に確認。

3. 表面粗さ不良のクレーム

事例内容
医療機器向けのステンレス製筐体において、「Ra 0.8μm以下の鏡面仕上げ」が求められる外装部を加工。しかし納品後、客先から「表面がザラついている」とクレームが入り、測定するとRa1.5μm前後で基準外。200個全数返品となった。

原因

  • 工具摩耗の見落とし。
  • クーラントが十分に供給されていなかった。

対策

  • 表面仕上げ専用の新しい工具を導入。
  • 加工工程ごとのクーラント噴射位置と流量を調整。
  • 加工後に粗さ計によるサンプルチェックを義務化。

4. バリ処理忘れによる製品不良

事例内容
アルミ製ハウジングの開口部に対し、NCミル加工後のバリ除去がされていなかった。検査工程での見落としもあり、そのまま出荷。顧客の組立工程で作業者が指を切り、安全上の問題として重大クレームに。製品回収と再加工対応に追われた。

原因

  • 加工後の目視検査のみでバリ処理の有無が確認されなかった。
  • バリ取り作業が属人的。

対策

  • バリ取りを工程に組み込み、記録を残す。
  • 自動バリ取り機の導入検討。
  • 作業標準書に明確な基準を記載。

5. 熱変形による寸法狂い

事例内容
大型アルミフレームを連続で切削加工した際、加工直後の寸法は問題なしと判断されたが、数時間後に冷却された状態で再測定したところ、最大0.2mmの膨張差が発覚。組立時に部品が合わず、設計と加工の両方に原因追及が及んだ。

原因

  • 連続加工による熱の蓄積。
  • クーラントの冷却性能が不十分。

対策

  • インターバルを設けて冷却時間を確保。
  • 高冷却性能の切削油を使用。
  • 熱変形を見越した寸法補正。

6. 切りくず詰まりによる加工不良

事例内容
S45Cのシャフトに深さ80mmの止まり穴を加工中、ドリル内部に切りくずが詰まり、排出できずに加工が停止。ドリルが内部で折れ、取り出しに工数がかかり、工具も廃棄。段取り替えも必要になり、1日の生産に大きく影響した。

原因

  • 切削速度が遅く、切りくずが細かく絡まりやすい。
  • エアブローやクーラントによる切りくず排出が不十分。

対策

  • チップブレーカ付き工具を使用。
  • 高圧クーラントで切りくず排出を支援。
  • 穴深さに応じた段階加工を導入。

7. セットミスによる深さ違い

事例内容
小型のアルミプレートに溝加工を行う工程で、作業者が基準面の原点設定を間違えた結果、溝の深さが1.2mmも浅く加工された。形状は見た目では判別しづらく、後工程で「部品がうまく嵌らない」と判明。すでに20枚が出荷準備されており、すべて再加工対象に。

原因

  • ワーク固定位置の見落とし。
  • Z軸原点設定の誤認。

対策

  • ワーク装着時の3点確認(固定・基準・高さ)。
  • 原点確認をダブルチェックで実施。
  • 自動原点復帰機能の活用。

8. 工具摩耗による仕上がり不良

事例内容
光学機器のアルミ部品において、外周を切削する仕上げ工程で、目に見えるほどの筋状の条痕が発生。客先の受入検査で不良として返却された。原因はエンドミルの摩耗による刃先の欠けだったが、使用回数が明確に管理されておらず、交換タイミングを逸したことが判明。

原因

  • 工具の摩耗状態の見える化ができていない。
  • 作業者ごとの交換判断がバラバラ。

対策

  • 工具摩耗基準の数値管理と画像記録。
  • 工具交換タイミングのガイドライン作成。
  • 摩耗検知用センサの導入検討。

9. 振動によるビビリ痕発生

事例内容
金型部品の仕上げ加工において、細長い突き出し工具で溝を削っていたところ、加工面に不規則なビビリ痕が発生。表面粗さもRa3μm以上と規格外。ワーク自体が高精度な仕上げを求められる製品で、仕上げ直しが不可能となり1個丸ごとスクラップに。

原因

  • 工具突出し量が大きすぎた。
  • 切削条件が工具に合っていなかった。

対策

  • 工具突出し量を最小限に抑える。
  • ビビリ対策用の高剛性ホルダーに変更。
  • 振動解析ツールで加工条件を最適化。

10. 冷却不良による焼き付き

事例内容
SUS304材の内径仕上げ時、加工面が焼けて茶色く変色し、仕上げ寸法も膨張気味に。調査すると、切削時に使用していたクーラントノズルの向きがずれており、冷却が十分でなかったことが判明。さらに高温により工具にも溶着が発生しており、次工程にも影響が出た。

原因

  • クーラントノズルの向きがずれていた。
  • 長時間の連続加工で冷却効果が低下。

対策

  • クーラントのノズル位置と角度を加工ごとに調整。
  • クーラント管理(日常点検・液交換)を徹底。
  • 加工間隔を空けて熱を逃がす工程計画。

まとめ:失敗を未来の成功に変える

切削加工におけるトラブルは、設計・設備・人の三要素が複雑に絡み合う中で発生します。しかし、原因を明確にし、再発防止の対策を講じることで、同じ失敗は大きな学びに変わります。本記事で紹介した事例を自社の加工工程と照らし合わせ、改善活動のヒントとして活用してください。


付録:トラブル一覧表

トラブル原因対策
刃具破損不適切な切削条件工具寿命管理・予備工具確保
寸法不良送り過大・ジグ精度不足加工方法見直し・治具改善
表面粗さ不良工具摩耗・冷却不足新工具導入・冷却強化
バリ残りバリ処理忘れ工程に組み込み・標準化
熱変形連続加工・冷却不足冷却時間確保・補正対応
切りくず詰まり切削条件不良高圧冷却・段階加工
セットミス原点誤設定原点確認ルール化
工具摩耗交換遅れ寿命基準の数値管理
ビビリ発生突出し過大工具選定と条件最適化
焼き付き冷却不良クーラント最適化
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